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練りあめ イチゴ味

中原梓は本日ご機嫌だった。

そりゃもう鼻歌まじりにうっかり歩くときに腕をぶんぶん振ってしまいそうになるくらい。先日のメンドクサイ事柄なんてなんのその。都合の悪いことは寝てさっさと忘れてしまうに限るのだ。人間鬱々とした気持ちを溜め込みすぎたら病気になる。


そして彼女の幸せそうな様子の理由は。

朝から昨日発売日に店頭に行って買ったお気に入りのシンガーの新曲のアルバムをIpodに取り込んでエンドレスリピートで聞いて、その高いキーの甘い声と、彼女のツボをついた歌詞を聞いてはふぅと満足そうに息を漏らしながら浸りまくったからである。

なので彼女のテンションのボルテージは天辺をぶっちぎっていた、のである。


いつもは朝は低血圧で話しかけたら何言うかわからない恐ろしい状態と比べれば天と地の差である。

なので普段とは異なる行動をとることもあったりする。


「宮、おはよ。ハイこれー」

と語尾がうっかり自然に上がってしまうほど”朝から”にこやかな梓に少しぎょっとしつつも成瀬 宮はそれに答えて「おはよーっす」と軽く返しつつも手渡されたそれに首を傾げつつも目を向けた。


「……旅のしおり。~in香川~」

「作って見た」

とえへへと嬉しそうに梓はサラリと今日はサイドに纏めた髪を揺らしながら成瀬の前の席の自分の椅子に腰をかけて鞄を机に置いた。


それに成瀬は「お前は小学生かっ!?」と突っ込みそうになるもそこまで楽しみだったのか……となんだかその様子に微笑ましいものを感じて、梓の頭にそっと手を伸ばすもパシンと叩き落とされる。

学校では梓は宮につれないのである とはいえそれは悪戯をした子供の手を振り払うようなもので、彼への嫌悪から来るものではなかった。


「……8時に駅に集合。8時40分発のバスに搭乗。県庁通りにてバスを下車。おぉ、マジに旅のしおりだ。ホッチキスで留めてあるし。ていうかバス以外あんまり予定細かく書いてないな。

っていうか、帰りのバスなんてコレ最終便か?19時45分。……意外と夜遅くまでやってないんだな。」


「うん、だってぶらり旅だもの。予定なんて気分ひとつ、天気ひとつで変えるもの。帰りのバスさえ乗れればいいんだよ」

予想以上にざっくりだった。


「しおりの意味なくないか?」

「小学校の遠足みたいに流れ作業みたいな旅より楽しくない? それに旅といえばしおり、もしくはガイドブック。テンション上がるーっ。」

まぁ確かに毎年ほぼ同じルートをたどってかかる時間すらもほとんど先生たちがきっちり把握している旅とは違うかもしれない。

だからこそ効率的に全生徒をまとめて行動できるのだが。今回は二人旅。

お互いが離れなければいいだけなのだ。極論を言えばお互い文明の機器であるケータイをもっているので現在地を調べて勝手に動くことも可能であるのでばらばらに行動するのもありなのだ。言葉が通じない外国でもない。多少方言で聞き取りにくいかもしれないが。


「まぁ案内まかせる!頼りにしてるからな」

「うん、バスと美味しいうどんに関しては心配いらないよ。それ以外は保障しないからね」

ときっぱりと言い切る彼女は何気にハードルが上がりすぎるのをおそれ少しの言葉に牽制を混ぜた。

とはいえ楽しいたびになるといいなぁと思っているあたり、自分の期待ハードルも上がっていたりする。


「おー、まぁ最低うどんが食べれりゃいい。それがなかったら……行った気しない」

「だねぇ。まぁ美味しいと思うよ。私は好き」

と梓の周りには花が舞っている。なんだかホントに今日は感情のタガがぶっ飛んでるなぁと宮は苦笑した。


「その時間に集合平気かな? 起きられる?」

と一方的に大まかな予定をさっさとまとめてしまったので梓は宮に訊ねた。


「おう、ただ遅れた場合どーすんだ?」

「置いていく、と言いたいところだけど。一便くらいなら次の乗ってもいいよ。あ、しおりにも書いてあるとおり学生証持ってきて。学生割引になるから」

「OK。あ、しおりにも書いてあんな。ていうか持ち物、財布、ケータイ、学生証オンリーかよ! 少なっ! 少なすぎるだろコレ」

「他は自分で考える。忘れたらお店はおばあちゃんの家の近くにあるから実費だ。」

「……こづかいのために忘れんようにするわ」

「賢明だね。

あ、それと荷物はすぐ部屋に置けるから大きいのと小さいのと2つに分けた方が都合いいと思う。それとシャンプーとかはこだわりないなら持って来なくていい」

「おう了解~」

「あ、タオルは持ってきたほうがいいよ」

となぜタオルだけ釘を指すのだろうと疑問に思った宮は聞いた。


「なぜ」

「なぜ……だろうな」

と梓はふっと遠い目をしてはるか彼方に目をやった。

その姿には憂いすら浮かんでいた。

ホントになんなんだろう、と思いつつも宮は突っ込まないで置こうとそれを放置することにした。


「なんだなんだー。楽しそうだな。俺も混ぜてくれ」

と今日も朝から無駄に爽やかな上村奏がこちらにやってきた。


それにここで旅の話をしてしまったのを梓は後悔するもそれは遅かった。


「ゲッ。奏」「あははー上野くん。」

「「何でもないよ(ぞ)」と二人は声を合わせてヘタな言い訳をした。


それに上野は少しの寂しさを滲ませ捨てられた子犬のような目でしゅんと

「仲間はずれか。……悲しいぞ」と言った。


それに慣れっこの宮はどうしたものかな、と暢気にしていたが。

梓はというとそのへタレた雰囲気にうっかり庇護欲がそそられうっかり宮の弟の透くんにするように手を伸ばしそうになるもハッと我に帰る。


その様子を見ていなかった宮はそっと梓に耳打ちした。


(オイ、どうするよ。こうなると意外に奏しつけぇぞ)

(うえ、なんとかしろよ。お前の相棒だろ)

(えー梓が学校でこんな話するからじゃん)(む、お前も止めなかっただろ)

(俺の所為!? 梓のうっかりじゃん)(しょーがないでしょ。なんか楽しみでついポロリと)

((………。))


――二人ともうっかりし過ぎたということでひとつ。

ということで収めましょうか。って無理か。

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