ココアシガレット
すみません。新作です。
うっかり思いついて書いてしまった。
まず最初にアイツに気が付いた時期が夏休みが終わって2学期の中ごろ、皆の休みボケが抜けた頃だというからおかしな話だと自分でも思ったものだった。
英語の時間、うちの私立は”外聞のよさそうな”授業が組み込まれている。そのうちの一つ、第一言語が英語であるつまりネイティブの教師による授業。受験勉強とは雰囲気の異なる意思疎通や会話に重きを置いたもの。世界に通じる人材を、なんてありきたりな公約、いやそうでなくポリシー? ……うーん。
あ、「教育理念」か。
わかってスッキリ。
失敬……話がそれた。コホン。で、だなあ。
それに従って置かれた授業だ。なので人によってやる気はまちまち。
内申が必要な人は必死に、そうでない人はそこそこ取れればいいや、なんて感じのヤツも多い。
英語が好きな人は別として。
どこか席に座っておとなしく授業を聞くという形ではなく、話すことに重点を置いた授業では、もちろんおしゃべりOKだ。英語しか使っちゃいけないけど。だからどこか気の抜けた雰囲気があるのは否めなかった。まるで幼稚園のお遊戯の時間のようだ。
今日はゲームをしてそれを話題に英語を使うらしい。
ジェスチャーゲーム
よく話には聞くのにやったことはないな、と思う。
ルールはこんな感じ。
グループのうちの一人がカードに書いてある文を読んでそれを表現する。もちろん無言で。
「I read a book」(私は本を読む)
なるほどこれはカンタン
ペラリペラリと本を捲る動作をすればいい。
あぁ、文字をなぞる動作でもいいかもしれない。
俺達は説明が済むと5人グループに分けられた。先生の独断と偏見によって。
女子達は恥ずかしーなどとお互いにきゃいきゃい言い合って、どうにも話が進みそうもなかった。
授業が延長するのが嫌で、俺が先導をきることにした。
…………。
I have just caught in the rain(さっき雨に降られた)
意外に難しい。
風呂のシャワーならともかく、雨か。
パッと浮かんだのはスリラーのPV。
いやこれは違うだろと内心で首を左右に振った。
あ、早くなんかやんねぇと。
手や足をプルプル振って、髪を犬が水を弾くように
そして水滴を顔から拭った
「Did you get wet?」(濡れてる?)
と聞かれてグッと親指を掲げた。
うーんと口に手をついやって考え込む。さて、次はどうすっかな。
ちょいちょいと白塗りの縁の窓の外の空を指差した。
「Window」(窓)
NO!とばかりに首を振る
「……umm, sky?」(空?)
今度はOKと指でわっかをつくった。わぁ……!と軽い歓声が沸いた。
そして上から下へざぁ、と雨が降るように手を指とともに動かした
ポトリ、と手のひらにしずくが落ちる様子
「It is rainy day」(今日は雨の日です)
いや、惜しい。
「I've just caught in a the rain」
ピンポンピンポン!
「That's right」
正解
「おぉー! 成瀬上手いな」
そりゃどうも。案外真面目にやっちまった。
「えー難しそう」
「ねー」
まぁ、ちょっと考えないとだし、相手に伝わるように工夫しないと。
次にもう一人の男子がすることになりそうだ。そしたらうちのグループは女子しか残らない。
……時間かかりそう、だるいな。
「次、私やってもいいかな?」
………。
おう?
「へー、意外こういうの後回しにするかと、人前出んの駄目そう」
「オイ、成瀬オブラートにちょっとは包めって」
こりゃ失敬。
そしたらアイツは少し笑って
「さっさと順番終わらせた方がいいでしょ。どうせ、後でやれよってせっつかれることになるんだから」
ま、そりゃそうだ。
「だな」
じゃ、早速とばかりにお題が書いてあるカードに手を伸ばした。
――意外、だった。
パッと見の印象はおとなしそうで、もちろん髪は染めておらず黒い。先生に目をつけられそうな行動はすることなく、優等生然とした女。
いわゆる女子の中心、派手目の子は避けて地味な、おとなしいグループに属している雰囲気だと。
……失礼かもしれないが思っていた。
こういう風にはっきりと意思を表示することはありえない、と。
カードを取り考え込む。
その様子に気負った様子は見られない。
たとえ緊張してなかったとしても、わたわたと慌てるとか、可愛げのある様子を見せるもんだと思っていたのだが。……うーん。
まず何かを飲む動作のようだ。
手をどんどん斜めに傾けグラスに口を付ける。
そして両手で女性のラインを胸、くびれ、腰というように曲線を描く
……壺か?
もう一人の男子が壺か、と聞くも違うらしい。否定される。
グラスをもってゆらゆらと円を描くようにくゆらされる、酒か!
「You dring alchole!」(酒飲んでる)
正解、といわんばかりに満面の笑みを向けられる。
びっくりした。
「やー、ワインのビンを説明するの苦労した」
「いや、あれ壺だろ、それか花瓶」
「ワインのビンはこんな感じ」
「あーなるほど」
ともう一人の男子と言葉を交わす。どうやらあの動作は混乱して出たものらしい。
まぁ、あれじゃわからんわな。
その後はまた違うゲーム
嘘か本当か、を当てるゲーム
アイツは言った
「夜通しライブに参加した」
「テニスをしていた」
全て嘘だと皆がいう
本当だ、とアイツがいう
……意外と彼女は引き出しが多いようだ。
目を通していただけて感謝です。
ありがとうございました!