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Vogelkäfig  作者: 糸雨 冷
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1.クリムソンレーキの薔薇の下

お題サイト:Fortune Fate(http://fofa.topaz.ne.jp/)

お借りしました。

言われた言葉の意味が、わからなかった。

だけど俺の頭の中ではまるで鈍器で殴られた鐘のようにその言葉が反響していて。

目の前にいる美しい天女は、いつもと同じ心中を察することのできない美しい笑みを浮かべていて。


怒りで目の前が、紅く染まる。

自分のことなのに、何でそんなに平然としているの?


昔からこの美しい天女は俺に自分の心の内を話さない。

いつだって平然としていて、甘やかな愛の言葉を俺に囁いたその口で、別のオンナに口付ける。

そのくせ俺を手放そうとせず、何度も何度も俺の気持ちを悪戯に試す。


誰かが、この美しい天女は薔薇のようだといった。

薔薇の花のように馨しく、強いその魅力で人の心を離さない。

だけど美しいだけではなく、薔薇の花に棘があるようにその天女にも棘がある。

そして俺は、薔薇の天女の棘の籠に囚われた、鳥のようなものだった。



  ***



ことの起こりは、少し前の雪の日のこと。


ゆらり、薄明かりが差し込む部屋で俺は目を覚ました。

竜里(ろんり)の仕事が終わるのを待っていた俺は、いつの間にか眠ってしまったらしく、

眠る前から降っていた雪は未だしんしんと雪が降り続き、襖の外、天姫殿の中庭を白く染め上げる。

そろそろ仕事も終わり、竜里も部屋に帰ってくるだろうと思った俺は、彼を迎えに行くことにした。


夜明けも近いこの時間になると天姫殿(あまきでん)の遊女屋も店仕舞い、みな寝静まり人気もないことも相成ってひどく静か。

雪は、音を殺す。

竜里がそう言っていたことを、ふと思い出した。


ふと見下ろした天姫殿の中庭に、少しばかり歪になった雪だるまが二つ並んでいる。

昼間、あれを竜里と作った頃からさらに雪が降ったから、雪だるまの上にも雪が積もった。


竜里は、天姫殿の中を俺が自由に歩き回るのを嫌う。

確かに黒髪黒目の俺の容姿は人を悪戯に騒がせるだけのものであり、

その不躾な視線に俺が傷つくんじゃないか・・・竜里がそう心配するのもわかる。

だけど今更、そんなこと俺は気にもしない。

竜里とであった頃の6つ7つの子供ならまだしも、俺はもう18になる男であって、この容姿との付き合いも18年になる。


僅かなる数の、俺の容姿を気にしない人たちだけと円満に付き合っていければそれで良い。

それが、俺の考えだった。


しんと静まり返った天姫殿の廊下を進むと、向こうの角を曲がったところに見慣れた姿があった。

長い薄紫の髪をキラキラと光る白の簪で結い上げた、豪奢な着物に見劣りしない美貌の青年。

彼はすっと欄干の外に手を差し出し、ゆるく伸ばされた彼の白く長い指が舞い落ちる雪に触れる。

その姿はひどく幻想的で浮世離れしており、俺はふと声をかけることに戸惑った。


だけどぐらりと大きく竜里の体が傾いて、竜里は柱に手をついた。


「竜里!」


思わず俺は声を荒げ、竜里に駆け寄ろうとする。

だけどそんな俺を制止するかのように竜里はゆっくりと顔を上げ、

濃紺の瞳に俺を映し、かすかに笑みを浮かべる。

だけど次の瞬間竜里の身体は重力に従って廊下に伏し、俺の天女は地に落ちた。



  ***



あの日も、雪が降ってた。

俺が住んでいた場所の近くにあった、綺麗な綺麗な教会で。

そんなものより遥かに綺麗なものに逢った。

半分だけあげられた薄紫の髪は雪とは違うキラリと光る白の簪で結われていて、だけどその美しい長い髪に少しだけ雪が積もっていた。

他人になんて興味がなさそうなの無関心な色を宿す濃紺の瞳がゆっくりと俺を見やり、2,3驚いたように大きな瞳を瞬かせた。


「子供が夜に、なんでこんなとこにいるの?」


皮肉げに端正な顔立ちを歪め、彼は言い放つ。

確かにそのときの俺は6つの子供でしかなくて、でもあの頃竜里だって11の子供でしかなくて。

あの頃の俺は竜里よりずっとずっと小さくて、母親似であることも相成ってよく女の子に間違われていた。

あの頃の竜里は天姫継承が正式に決まった頃で、決められた道を歩く自分の人生に飽き飽きしていたらしい。


だから少しだけ、反抗してみたかったのだと竜里は言った。

そして俺が、竜里が好きな美しい黒の色を持っていたから。

だから竜里は、あの日俺の手を引いて天姫殿へと招き入れた。

人に忌み嫌われ、悪魔の子とも死神とも呼ばれる俺を、あの美しい鳥籠の中へ招いたのだ。


紅殻格子に漆の欄干、庭には大きな桜の木。

世にも美しい妓どもが列をなし、その頂点に君臨するは薄紫の髪の天女。

女の墓場に天女の後宮、さまざまな異名を持つその歪んだ場所は俺にとっての鳥籠だった。

囚われたのは小さな羽持つ烏の子。


鍵を持つのは・・・薔薇の花に似た美しき天女。

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