君とならだいじょうぶ
大地の上の上のほう。空に近いところに、白い翼がありました。
その翼は力強くがっしりとしていましたが、かしこく考えることができず、さらにまっすぐ飛ぶことも出来ずいつも右へ左へ揺れていました。
見た目は立派な翼ですが中身を知ればただの飾り。
飛ぶことのできる翼を持つ天使たちは呆れていました。
白い翼が吹き飛ばされ、空の下に落ちてしまった時も見ているだけでした。
綺麗な羽根を空にこぼしながら翼は落ちました。
翼は空から落ちて、大地の近くで揺れることになりました。
少しばかり、翼が大地でふらふらと揺れながら飛んでいると小さな男の子が居ました。
泣きはらした目をした黒い髪の子供でした。
子供は白い翼を見つけると、駆け寄ってきて両手を伸ばしました。
しかし左へ右へとふらふらと揺れる翼を捕まえることはできず、さらには泣き出しました。
けれどずっと追いかけてきて、手を伸ばし続けるのです。
とうとう転んでしまったのを気の毒に思い、翼は揺れながら子供の背中に滑り落ちました。
ぱさぱさと乾いた音を立てて羽ばたくと、子供は泣きながら喜びました。
翼に理由はわかりませんが、子供が立ちあがり走り出したのでまあいいやと思って背中に居座ることにしました。
子供は村にたどり着き、家であろう民家に入って母親に抱きつき言いました。
「母さん、翼だよ! 俺に翼が生えた!」
さっぱりわかりませんでした。
子供がはしゃぎ、何故か喜ぶ母親を眺めながら翼はしばらく子供の背中に留まろうと思いました。
子供は少年になり、物騒にも剣を振るうようになりました。
相手は大人のようで少年は凄腕のようでした。翼に一度も剣は当たりませんでした。
そして青年になる頃に甲冑を着込んだ沢山の大人がきて、青年をよくわからない城へつれていきました。
王冠をつけた大人に言われ、青年は嬉しそうに力強く返事をしていました。
翼にはよくわからないので青年の背中にひっついたままいました。
「かの翼を持つ貴殿になら世界を救えるであろう。若きものに任せるのは辛いが、頼む」
ふかくふかく互いに頭をさげ、なにやら難しい話。
「それは私自身の夢であり、目標です」
天使にも翼があるよ、と翼は考えましたが喋る口がありませんでした。
青年は城を出て、村に帰らず旅を始めました。
旅を始めてから世界には彼らを食べる動物や、意味もなく殺してしまう物がたくさんあることを知りました。
空はあんなに平和なのにと思いながら翼は青年の背に居座り続けました。
青年はどうやら、救世主さま、という職業らしく行く先々で言われます。
めんどくさそうだなあと翼は思い、けれど翼は一度も攻撃や当たるものがなかったのでまあいいやと居続けました。
宿にとまっていた夜に、唐突に青年は呟きかけてきました。
「翼、なあ本当はお前、わかるんじゃないか?」
驚きました。
けれど、どう返していいものか。
翼はゆっくりと空気を含み、ふわりと浮かび上がりました。久しぶりにゆらゆらと揺れます。
正面から見ると青年は立派な大人になっていました。
「あの時、俺を選んでくれてありがとう」
青年は懐かしそうでした。そして嬉しそうで、何かこらえきれないように目を細めていました。
「これからもよろしく頼みたい。お前がいないと、俺は弱虫に逆戻りだ」
青年になった子供はそういって翼を撫でました。
翼からすると、そんなことはまったくの偶然と少しの気のまぐれだったけれど、水をさすものではないと思い黙っていました。
ただ気分はすごぶる良いので、この子供の未来を助けてやろうと決めました。
翼は大きく揺れると、青年の背中に戻りました。
救世主は永遠その翼を傷つけられることはなく、長い長い旅を続けたといいます。
読破おつかれさまでした。童話のようなおはなしでした。