第4話:初期設定(チュートリアル)の村
「な、なぁセレス。悪いが、ちょっと……担ぐのは無理でも、引きずらないでくれ……。大事な『相棒』が傷つく……」
「わ、わかってます! でも、零様、重いんですもの……っ!」
月の光が差し込む森の道を、俺たちは這う這うの体で進んでいた。
セレスの肩に腕を回し、半分引きずられるようにして歩く。右手に握った『相棒』だけは、泥がつかないよう胸元に強く抱きしめていた。
やがて、木々が開け、簡素な木の柵で囲われた小さな集落が見えてきた。
数軒の家から漏れる、暖かな橙色の灯火。
「……あそこが、私の村です」
「……助かった。……Googleマップも圏外の場所で、よく辿り着いたな、あんた」
「ぐーぐる……? また不思議な言葉を。さあ、もう少しですよ!」
村の入り口では、松明を持った見張りの男たちが、血相を変えて駆け寄ってきた。
「セレス! 無事だったか! ……おい、その男は誰だ!?」
「あ、あの、この方は……私の命の恩人で……ええと、その……」
「……ただの……不審者だ……」
俺はそこまで言うのが精一杯で、緊張の糸が切れると共に、そのまま地面へ崩れ落ちた。
翌朝。俺が目を覚ましたのは、藁の匂いがする硬いベッドの上だった。
「!?、相棒は!?」
飛び起きると同時に、枕元を確認する。
そこには、セレスが丁寧に拭いたのだろう、泥の落ちたiPadと俺のバッグが置かれていた。
だが、画面に触れても反応はない。……当然だ、バッテリーは0%なのだから。
「おはようございます、零様。よく眠れましたか?」
扉が開いて、セレスが木製の盆を持って入ってきた。
中には、昨日見た『シトラスの抱擁』をさらに強烈にしたような、紫色の果実が山盛りになっている。
「悪いな、セレス。助かった」
「いえ、助けていただいたのは私の方ですから。……村の人たちには、あなたが遠い国から来た『奇跡の板を操る旅人』だと説明しておきました」
セレスの言葉を聞きながらテーブルに置かれたお盆の紫色の果実に手を伸ばす。
「奇跡の板……か。まあ、あなふぁち間違いひゃないか」
-もう、はしたないですよ?
謎の果実(めちゃ酸っぱい!)を頬張りながら喋ったらセレスにたしなめられてしまった。
俺は寝ぼけた頭を振り、窓の外を見た。
のどかな農村だ。だが、エンジニアの俺の視点は既に「観光」ではなく「設備」に向いている。
「セレス。昨日の果物電池じゃ、1%充電するのに一晩かかる。もっと、こう……安定して、デカいエネルギーが流れてる場所はないか?」
「安定した……えねるぎい、ですか?」
「ああ。例えば、勢いよく流れてる川とか。あるいは、常に熱を出し続けてる温泉とか。何でもいいんだ。この『板』を叩き起こすための、もっと効率のいい『現場』が必要なんだ」
セレスは少し考え込み、それから窓の外のさらに奥、村の端にある古い施設を指差した。
「それなら、村の共同浴場にある『常熱の魔石』はどうでしょう? 詳しいことは分かりませんが、大昔からずっとお湯を温め続けている、不思議な石があるんです」
「常熱の魔石……? 常に熱を出し続けてるって、それ……それ!熱電発電(ゼーベック効果)がいけるんじゃねえか?!」
俺はベッドから飛び起き、『相棒』をひっ掴んだ。
昨日の「果物電池」が個人開発のプロトタイプなら、今度は「村のインフラ」をハックしての急速充電だ。
「よし、案内してくれ。村の連中には、ええと、、ちょっと風呂場の『デバッグ』をさせてくれって伝えておいてくれ!」
「で、でばっぐ……? 零様、また変なことをする気ですね!?」
不安げなセレスをよそに、俺はバッグから予備の配線と、熱を電気に変えるための「自作モジュール(試作品)」を引っ張り出した。
閃 零の異世界エンジニアリング。
第2ラウンドは、村の公衆浴場(電源)の乗っ取りから始まる。




