読者ウケしないと死ぬ異世界
読者に飽きられたら即死の異世界です。
下校途中だった。その日は早く帰って某小説投稿サイトに新作が出ていないかチェックしたくて、少し早足だった。いつもは家のPCでチェックするのだが、俺は待ちきれなくてスマホで確認しようとした。
瞬間、目の前が白く弾けた。
気づけば、俺は異世界にいた。自分でもなぜここが異世界だと思ったのかは分からないが、異世界転生系小説読者9年の勘がそういっていた。地面はアスファルトではなく芝生で、目の前にはコンビニではなく小さな村らしきものがある。これが異世界でなければ何なのだろうか。
「だ、……誰か…」
後ろからしたうめき声に振り返ると、一人の男が倒れていた。典型的な冒険者のような服装をした彼の左腕は肘から先が無かった。無い、というより薄い、という表現が正確で、とにかく苦しんでいる様子だった。
「ちょ、大丈夫ですか!?」
駆け寄ろうとした俺の目の前でその男は少しずつ消えていった。
──「俺に…飽きないでくれ…!!」
「…っ」
意味が分からなかった。震える俺の頭に、更に意味の分からない声が響いた。
主視点に登録されました。
「……は?」
その声は機械的で人間らしさが感じられなかったが、どこか期待を孕んだ響きだった。
「おや…新しい主視点じゃな?」
後ろから声がしたのでまた振り返ると、老人が立っていた。俺がこの世界のことや先程あったことについて質問しようとしたとたん、体の力が抜けた。膝が崩れ、手を地面につける。吐き気や頭痛、寒気や圧迫感までした。息ができない。
「はっ…なん…クソッ……!」
「おや、地味にしすぎたようじゃな。主視点は最初が肝心で、自己紹介でもしないと……」
老人の声が遠くなっていく。視界の隅から白い光が迫ってくる。俺の体は、あの冒険者のように薄くなっていた。
「嘘…だろ……」
「おい!しっかりしろ!!お前はこんなところで死ぬべきじゃない!お前はワシの孫の弟の嫁の兄の息子なんだから!」
老人が先程とは比べ物にならない声量で叫び俺の体を揺する。瞬間、頭の中であの声が響いた。
《ドラマ性を感知。人気が上がりました。》
「…は?」
俺は呆然と空を見上げる。俺の体はいつの間にか治っていた。老人が言う。
「世界は”お前を見ている”ということさ。この世界では読まれなくなったら死ぬ、お前のような者がたまに現れるんじゃ。あのままじゃお前は死んでたから、適当に嘘をつかせてもらったぞ。そんなことよりほら、早くワシに自己紹介しろ!また人気が下がるぞ!」
よく分からないまま自己紹介する。
「お、俺の名前は目田光輝です。」
「やけにキラキラとした名前じゃな。よし、お前の名前はライト・プロタグでいいな?よし、もう一度名乗ってみろ!ちょっとかっこつけてな。」
俺は言われるがままもう一度挨拶する。
「お、俺ん名前はぁライト・プロダク!勇者の末裔やらせてもらってるぜ!よろしくぅ!」
《意外性を感知。人気が上がりました。》
悪かったな。こんな顔でライトなんて名前で。
「ふう。これで1日はもつじゃろ。さて、こっちに来なさい。」
ついて行くしか無さそうだった。森を抜ける道中で質問しようとしても、
「人気が下がるかもしれんから喋るな。」
の一点張りで何も答えてくれなかった。俺はそんなに話がつまらなさそうに見えるのか?
山小屋のようなところに到着し、中へはいる。内装はこちらの世界とあまり変わったところは無いが、見慣れない道具や見たことがない文字で書かれた本などが沢山あった。老人に座るように言われ、適当な席につく。老人はその向かい側に座った。
「さて、もう一度最初から説明するぞ。この世界に読まれなくなる、つまり人気が無くなると死ぬ人間が一定数おる。そいつらのことを主視点と呼ぶ。ここまでついてこられているか?」
他にも聞きたいことは山ほどあったが、どうやらこの主視点とやらは俺の命に関わりそうだったので、黙って聞くことにし、俺は頷いた。
「よし。そんでその人気の上げ方は大きく分けて
6つある。ドラマ性、魅力性、共感性、意外性の基本的に上がりやすい4つと、熱量、継続興味の上がりにくい2つだ。それらをなんとかして上げて、ある一定以上の人気を得ないと死んでしまうのじゃ。もちろん、この6つの評価カテゴリーに背くようなことをすれば下がるがな。無双ハーレム俺TUEEEEをすれば意外性が下がるし、平凡な異世界ほのぼの生活などをすれば熱量が下がる。とりあえず今の人気を見てみろ。ほれ、ステータス画面を開いてみい。空中を2回タップじゃ。」
空中を2回タップしてみると、青いスクリーンのようなものが出てきた。そこにはゲームなどでよく見る能力値やレベル、体力と魔力に加え、
〜popularity〜
と書かれているゲージがあった。俺のゲージは5分の1ほど溜まっている。これが老人の言う”人気”だろう。
「ふむ。こんなもんで説明はいいじゃろう。ほら、楽しい質問タイムじゃぞ。」
俺はいくつか質問をし、何となく頭の中でまとめてみた。
・この世界は俺の想像通り異世界で、魔法や魔物、レベルアップ等の概念もある。
・この世界には時々外の世界から俺のような転生者が現れる。その転生者が主視点に選ばれるかは完全に運。
・
・他人から主視点であることは基本分からなくて、もし主視点本人が他人に主視点であることを明かすとその時点で主視点は死亡する。ただし主視点同士が明かしても問題なし。
・俺たちを主視点に登録し、見ている物は何者なのか、何人いるのか等一切情報がなく分からない。
ただ分かっていることは飽きっぽいということ。
と、ここまで説明を受けているうちに薄々気づいてきた。きっとこの老人も主視点なのだろう。しかしなぜこの老人はこんな何もないような森の中で住んでいるのにも関わらず、人気を獲得し続けているのだろう。
「…なんであなたはこんな所でずっと人気を獲得し続けることができるんですか?」
「そりゃ決まっておる。お前のような新人主視点ちゃんをこうやって手とり足とり優しく導いてあげて魅力性をゲットして続けているのじゃ。」
「でもそれじゃあ、意外性とか熱量が下がりませんか?」
「それはさっきみたいにホラ吹いて無理やりドラマチックにしたりしてるからな。」
なるほど。結構ガバガバなのかもしれない。これなら俺も適当に今まで読んできたラノベの主人公のような行動をすればいいのかもしれない。とりあえず適当な魔法ひとつでも極めて魔物に打って俺なんかしちゃいました?とでも言ってれば安泰だろう。
「ちなみにもう既にあるラノベの主人公のような行動は評価プラスされないぞ。意外性に欠けるからな。」
心を読まれていた。だから俺が消えかけた時孫とか嫁とかわけのわからないことを言ってたのか。
「もう質問は十分か?そろそろ夜が明けるぞ。夜が明けたらギルドに行って冒険者登録をしてもらうぞ。装備もくれてやる。お前のためじゃないぞ。ワシの魅力性アップのためじゃからな。」
余計な一言だ。それよりただの学生の俺をもう魔物と戦わせるのか?
「も、もうクエストに行くんですか!?まだ魔法とか剣の振り方も分からないのに…」
「大丈夫じゃ。クエストに付いてきた奴に色々教えてもらうといい。ギルドに行くと付いてきてくれる奴がどこからともなく湧いてくるぞ。主視点はそういうもんなんじゃ。」
主人公補正ってやつか。悪い気はしない。
「分かりました。俺、ここで頑張ってみます。」
《継続興味を感知。人気が上がりました。》
読んでいただきありがとうございます。
少し急いで書いたので、荒い部分があると思いますが、ご了承ください。




