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『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして【連載版】  作者: うり北 うりこ@ざまされ2巻発売決定


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25/35

25『運命』は、ビフォーアフターを経験する

 

 ロゼリア様の紹介で、翌日には侍女のリーゼがヘンルートゥ家へとやって来た。


 リーゼは、本当に手離して良かったの? と聞きたくなるほど優秀で、何でもてきぱきとこなしてくれる。

 ヘンルートゥ家に来て早三日、彼女にできない仕事はないんじゃないだろうか。

 

「はぁぁぁぁぁ…………、今日もキシスの筋肉が光り輝いておりましたね。ヴォレッカ様もそう思いませんか?」

 

 長すぎるため息のあと、目を輝かせてリーゼが言う。

 その間も手は休まることなく、髪を結い上げていく。


 今日はロゼリア様のお家でお茶会なので、アーネたちが選んでくれたドレスを着て、リーゼが髪と化粧をしてくれているのだ。

 

「リーゼは、キシスのことが本当に好きだね」

「はい! キシスはいつになったら私と結婚してくれるのでしょうか」

「…………え? 結婚?」

「はい、結婚です♡」

 

 語尾にハートを付けて言うリーゼは可愛い。

 きっとその可愛さに惚れ込む人も多いだろう。


 だけどさ、まだヘンルートゥ家に来て三日だよね?

 その前は一方的にリーゼがキシスを知っているだけで面識はなかったはず。

 何をどうしたら、結婚になるの?

 

「えーっと、もしかしてキシスとリーゼは付き合ってるの?」

「いえ」

「じゃあ、リーゼがプロポーズしたとか?」

「そんなことありませんよ」

「……なんで、結婚という話になったの?」

 

 鏡には、怪訝(けげん)な顔をした私が映っている。

 そんな私に、リーゼはキョトンとした顔をした。

 

「キシスと絶対に結婚すると私が決めたからですよ」

 

 当たり前のように言われ、本気で意味が分からない。

 

「今日のお化粧はどんな感じにしますか? お茶会ですし、化けます?」

 

 あ、分からないことが増えた……。

 うん、キシスとのことは、とりあえず置いておこう。

 そもそも恋愛は苦手だし、分野外……ということで。

 

「化けるって?」

「言葉通りの意味ですよ。別人のようにもできますけど、それだと誰? となってしまうので、誰か分かる程度に変身しますか? 可愛い系、美人系など好みがあれば、それに合わせますよ」

「よく分かんないから、任せてもいい?」

「もちろんです。ドレスが可愛い系なので、可愛らしい雰囲気にしましょうか。ヴォレッカ様のドレスは全体的に可愛い感じが多いですけど、そういうのがお好みなわけじゃないんですか?」


 あー、そっかぁ。

 たしかにドレスを見たらそう思うよね。


「お義母様がすすめてくれたんだよ」

「つまり、好みではないと?」

「そうは言ってない」


 やめてくれ、そういうのは。

 うっかり頷いたら、どうしてくれるんだ。

 善意を踏みつけるなんて、真っ平ごめんだから。


「……だいたい理解しました。お化粧ですが、初回なのでビフォーアフターが分かるように、まずは顔半分だけやりますね。その時点で訂正が必要な箇所は直します」

 

 そう言うと、うきうきと楽しそうにリーゼは私に化粧をしていく。

 

「はい、顔半分できました。まずは、完成した方ですね」

 

 そう言いながら、顔の右半分を隠されて、鏡を見る。

 

「…………え、誰?」

 

 奥二重はぱっちりとした二重になり、いつもより目が大きくなってる。まつげもくるんと長く、私の面影がある誰かになっていた。

 

「で、こっちが……」

 

 その言葉とともに、今度は左半分を隠される。

 

「わぁ、いつもの顔だ」

 

 うん、いつもの平凡な私だ。さっきと比べてボヤッとした印象である。

 

「そしてそして、じゃじゃーん!」

 

 最後に左右の顔のどちらも隠すことなく鏡に映る、ビフォーアフターな私の顔。

 なるほど、これはたしかに化けるという言葉がぴったりだ。

 

「どうですか?」

「すごいね。びっくりした」

「ですよね! もっと、こうしたいとかあります? なければ、もう半分もやっちゃおうと思うのですが」

 

 そう言ってくれるけれど、正直、悩む。

 私は、本当に化けてもいいのだろうか。


 可愛くなれるということに、少し前の私ならすぐに頷いていたと思う。

 だけど、今は躊躇(ためら)いが勝つ。


 リーゼの化粧だと、私は平凡という中央値から出て、可愛い側に属してしまう。

 ライラクスの好みは平凡だと言い切った手前、そうなってはいけない気がする。

 

「すごく可愛くしてもらって申し訳ないんだけど、いつもの化粧にしてもらってもいいかな?」

「気に入りませんでしたか?」

「そうじゃなくて、ライラクスの好みが平凡顔なんだよ」

 

 実際は違うだろうけど、そういうことにしておくのが一番平和だろう。

 

「なるほど! ヴォレッカ様は旦那様の好みでいたいわけですね。愛だなぁ……」

「あは、あははははは……」

 

 違うんだけど、説明が難しいし、もうそういうことでいいかなぁ。

 

「じゃ、いつものお化粧を真似しますね」

「ごめんね」

「謝ることじゃありませんよ。でも、いつか全力でフルメイクさせてください。趣味なので!」

「うん、ありがとう」

「お礼を言うのは、私の方ですよ。……ヘンルートゥ伯爵家に勤められて、本当に良かったです」

 

 どこか落ち込んだような声に、鏡越しにリーゼを見る。

 ファララス公爵家で、何かあったのかな……。

 

「私も、リーゼが来てくれて本当に良かったよ。アーネたちはすぐ無理をするし、心配だったから。たくさん頼ると思うけど、よろしくね」

「もちろんです! お役に立てるように頑張りますね。さ、お化粧完成しましたよ」

「ありがとう。……あれ? たしかにいつもと同じなのに、何だか肌がきれい?」

 

 肌のトーンがいつもより明るい気がする。

 それに、心なしか可愛い気も。

 

「ヴォレッカ様のお肌に合わせて、化粧品を選びなおしたり、作りましたから。あ、もちろんアーネさんたちの許可はもらってますよ」

「そこは心配してないから大丈夫だよ。リーゼはすごいね、いつもと同じなのにキレイにしてくれたんだ。ありがとう」

 

 お礼を言えば、リーゼは嬉しそうに笑う。

 良かった、雰囲気が戻って。

  

「よし、それじゃあロゼリア様のところに行ってくるけど、何か伝えてくることはある?」

「いえ、特にはありません。楽しそうにしていると伝えてください」


 困ったように眉を下げられ、一瞬だけ「何かあったの?」と聞こうとして、やめた。


「うん、分かった」

 

 代わりにそう答えれば、リーゼは明らかにホッとした表情をする。


 うーん、知られたくないってことだよね。

 さて、これは首を突っ込んだ方がいいのか、余計なことなのか……。

 とりあえず、様子見かな。


 ロゼリア様の紹介といえど、ライラクスがリーゼの身辺調査はしているだろう。

 何も言われてないということは、私が知らなくていい可能性もある。

 何より、知られたくないことの一つや二つ、あるよね。


「あの……。もし、聞けそうだったらでいいので、化粧水や石けんをまた作らせてもらえないかって……。いえ、何でもありません」


 そう言って、リーゼはうつむいた。

 

「本当に、聞かなくていいの?」

「はい」

「聞きたくなったら、いつでも言ってね。すぐに会わなくても、手紙を出すこともできるんだし」

「ありがとうございます」


 泣き出しそうな声に、何と声をかけていいか分からず、小さく頷く。


「それじゃ、いってくるね」

 

 御者のスーホが馬車のドアを開けてくれ、中へと入る。

 すると、ライラクスがやって来た。

 

「ヴォレッカ、気を付けて行っておいで」

「はい、ありがとうございます。ライラクス、顔色が悪いようですけど、きちんと休めていますか?」

 

 ここ数日、ライラクスは私が寝た後に寝室へと来ている。

 今朝は、起きた時にはもう隣にはいなかった。

 

「可愛いヴォレッカの姿を見たら、元気が出たよ。帰りは迎えに行ってもいいかな?」

「その時間、少しでも休んでください」

「……ヴォレッカがそばにいないと休めないと言ったら?」

 

 真剣な表情で見つめられ、その真意を探ろうとライラクスの目を見つめ返す。

 

「そうですね、今日こそ一緒に寝れるように、頑張ってお仕事をしてくださいと応援するのが、最適解な気がします」

「なるほど。では、頑張って仕事を終わらせて、ヴォレッカを迎えに行くとしよう」

 

 ……何で、そうなるの?

 ライラクスが何をしたいのか分からないまま、私はファララス公爵家へと向かった。

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