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11『運命』というけれど、ただの同居スタートです

 

 旦那様についていろいろと聞き、コックのコクーが作った食事の美味しさに目を輝かせ、屋敷を案内してもらったりしていたら、あっという間に夜になった。


「使ってないお部屋、たくさんありましたね」

「えぇ、私たちだけで全部屋の清掃は難しいので、普段は必要な箇所をしてるんです」


 なるほど。たしかにこんなに広くて、屋敷内にいるのは旦那様と八人の使用人+私の九人だとしたら、そんなに部屋は必要ないよね。


「さ、奥様。入浴に参りましょうか。すべての部屋は無理でも、奥様のことはしっかりピカピカにしますのでご安心ください」

「……え?」

「髪はつやつやにしなくてはなりませんね」

「旦那様を悩殺しましょう」

 

 アーネ、ミナー、ジリルがにこにこと私に迫ってくる。

 

「自分で洗えるから、大丈夫よ」

 

 サミレット家()にいたのは執事と侍女が一人ずつ、できることは何でも一人でやってきた。

 今更、誰かにお風呂を手伝ってもらうのって、恥ずかしすぎる。

 

「そうは参りません」

「これは、侍女の役目ですから、観念なさってください」

「奥様のお世話を焼くのをずーっと楽しみにしていたのです。さぁさぁ、浴室へ」

 

 右手をアーネ、左手をミナーに引っ張られ、背中をジリルに押された私は半泣きで入浴を済ませた。

 たしかに、ピカピカのさらさらつやつやになったけど、何かを失ったような気がしてならない。

 

「では、こちらに着替えてください」

「…………これ、ですか?」

「「「はい」」」

 

 渡されたのは、リボンやフリルがついた可愛らしい白いネグリジェ。

 柔らかな白い生地には、同色の糸で繊細な刺繍が施されている。

 

「私、自分で持ってきた寝巻があるので」

こちら(・・・)を、どうぞ」

「今日は初夜ですから。可愛く着飾るのは妻の務めですから」

「可愛い奥様に、旦那様もメロメロになるのは間違いありませんよ」

 

 あぁ、そうか。

 旦那様に本当の『運命』の人が現れるまでだって、伝えてないんだった。

 そうしたら、こういう反応にもなるか。

 でも、こんなに甘くて可愛いデザイン、私が着るの? 無謀じゃない?

 

「ゔっ……」

 

 キラキラとした眼差しに、とても嫌だと言える雰囲気ではない。

 

「分かりました……」

 

 ガクリと肩を落として頷けば、アーネ、ミナー、ジリルはハイタッチをしていた。

 もしかしなくても、このお屋敷で最強なのはこの三人なんじゃ……。そう思わずにはいられない。

 

 

「部屋にベッドがないと思ったら、こういうことだったのね」

 

 案内されたのは、私の部屋からも繋がっていた寝室だ。

 この部屋は、旦那様の部屋とも繋がっているのだそう。

 

「サイズ的には、二人で寝ても大きすぎるくらいね」

 

 大人が五人くらい一緒に眠れそうな大きさのベッドをちらりと見る。

 何というか無駄に大きいし、存在感がすごい。

 

「今日は疲れたし、もう寝ちゃいたいけど、家主より先に寝るのもなぁ」

 

 誰もいないからと隠すことなく大あくびをしながら、ソファへと体を沈める。

 

 あぁ、このソファも座り心地が良すぎる。

 うとうとと閉じそうになる(まぶた)を懸命に開けようとする。

 けれど、それもだんだん難しくなっていき、私の意識は夢の中へと落ちていった。

 

 

 朝、人の気配で目が覚めた。

 見知らぬ天井に、あぁ、そういえば昨日からヘンルートゥ伯爵家で暮らすことになったのだと思い出す。

 昨夜は、たしか旦那様をソファで待っていたはずだ。

 それなのに、私は大きすぎるベッドの上にいる。

 

「いつベッドに移動したんだっけ?」

 

 首を傾げつつソファへと視線を向ければ、その上に旦那様が横になって眠っていた。


 ヒュッとのどが鳴る。

 まさかこの家の主を差し置いて、私がベッド、旦那様がソファに寝たんじゃなかろうか。

 冷や汗が止まらない。


 これは、起こしてもいいの? それとも、好きなだけ寝かせておくべきなの?

 いや、私が旦那様をベッドへとお運びした方が……。

 

 ベッドから下り、ソファのそばでうろうろとしていれば、旦那様が気だるげに起き上がった。

 その姿を見て、ある意味冷静になる。

 寝起きのお姿は色気駄々洩(だだも)れかぁ。予想を裏切らないって、まさにこのことだよなぁと感心してしまう。

 

「旦那様、おはようございます」

「ん? あぁ、ヴォレッカ。おはよう」

「昨夜は旦那様をソファで寝かせてしまうという失態、大変申し訳ありませんでした」

「その前に、誰がベッドまで運んでくれたのかしら? とか、そういう乙女らしい反応はないのか?」

「そこを私に求められましても……」

 

 思わず眉間にシワを寄せれば、旦那様は「だな」と小さく呟いて立ち上がる。

 

「よく眠れたかな?」

「はい。おかげさまで」

「なら、いい。それに、自分でちゃんとベッドにもぐりこんでいっていたしな」

 

 そう言いながら、旦那様は楽しそうにくすくすと笑う。

 

「ヴォレッカは、本当に見ていて飽きないよ」

「はぁ……。私は、一体何をしでかしたのでしょうか?」

「覚えていないのか?」

「寝てましたので」

「そうか、あれは寝ていたのか。どうりで無言で頭からベッドに潜り込んでいったわけだ」

「え……、それ本当に私ですか?」

「うん、なかなか面白かったよ? さ、着替えて朝食に行こうか。コークが腕を振るって待っている時間だ。あ、そうそうそのネグリジェ、似合っているね」


 笑顔で言われ、自分が何を着ているのかを思い出す。

 我ながら似合っていないのに、それでも褒めてくれる旦那様は紳士だ。何より、一晩私にベッドを貸してくれ、ご自身がソファで寝てくれたのだ。


「……ありがとうございます」

 

 ぼそりと言えば、旦那様は満足げに笑い、自室の方へと向かってしまった。

 私も着替えをしに割り当ててもらった部屋へと戻る。


 まさかそこに、アーネ、ミナー、ジリルが待ち構えていて、朝からおめかしをさせられるとは……。

 もうちょっと侍女たちに手を抜いてほしいと思わずにはいられなかった。

 

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