嫉妬だけが、僕に愛を教えてくれる デービット視点
「完璧なお前が崩れる姿が、嫉妬に塗れたその顔が、僕は何より好きだった」
お前はいつも僕を肯定する。褒めて、持ち上げて、愛を注いで。別にそれが嫌なわけではない。だが、それは"婚約者"ではなく、ただの"愛玩動物"ではないのか。そう思うたびに、僕はお前を試さずにはいられなかった。
僕はそれでもーーーお前を、愛していた。
ーーー
落ち着いたダークブラウンの色調が心地いい、魔法省の上長室。
窓から降り注ぐ日が、じわじわと照りつけてくる。普段ならば眩しすぎるそれも、今はどこか心地よく感じられた。
先ほどはいいものを見た。
メアリーを目の前で褒めた時の、リリアのあの表情。眉をひそめ、唇を噛んで僕を見つめるあの歪んだ顔。
思い出すだけで、背筋にぞくりと甘い感覚が走る。
今までどんな令嬢の話をしても、『私のほうがデービット様を愛しておりますし、その方より貴方に相応しくなるだけですわ』なんて悠然と構えていたのに。
初めて見るリリアの嫉妬。醜いはずのそれが、こんなにも甘美で心地いいものだなんて……。
ーーーやはりリリアには、僕の愛が必要なんだ。
そう思う度に、口元が緩んで仕方なかった。
僕はリリアがいう『可愛い』だけの男ではない。もっと狡猾で、策略に長けた大人の男なんだ。
……そうだ。リリアはもっと、僕を頼るべきなんだ。
ーーーコンコンコン
甘美な思考は、無機質な音で遮られた。鳴らされた扉の方へ視線を向ける。
「デービット様、お待たせして申し訳ございません。入ってもよろしいでしょうか?」
「……あぁ、構わない」
足を組み、椅子に背中を預ける。いいところだったのに、邪魔が入った。いや……元々ここにきたのは、ラファエルと話をするためなのだが。
扉から現れたのは、何を考えてるのかわからない、いつも通りの笑みを称えたラファエル。
しかし何故か、その目はいつもより冷たいような気がした。
「本日は御足労いただきありがとうございます。……つきましては、本題に入る前に少々お話ししたいことが」
「なんだ? 話すのは構わないが、手短にな」
「……承知いたしました。リリア嬢に関して、気になることがございます」
リリアに関して?
その名前に、ぴたりと動きを止める。
「最近、彼女の様子が気がかりで。婚約者であらせられる殿下ならば……何か、ご存じかと思いまして」
「……僕が何かしたと、そう言いたいのか?」
心当たりは、ある。
だがあの程度の事で何か起こるとは思えない。少し嫉妬の表情をのぞかせる程度の揺さぶりで、あのリリアが影響を受けるか?
ラファエルは肩をひそめ、探るような目でこちらを見てくる。
「愛とは時に、人を狂わせるものです。本人が想像している以上に、強い力を発揮する。使い方によって毒にも薬にもなる危険なものです。……過剰摂取は、あまりお勧めできませんね」
「過剰摂取だと? はっ、馬鹿馬鹿しい」
ーーーお前に、リリアの何がわかる。
心の中で、一人つぶやいた。
トントンと指先で机を叩く音が、部屋に響く。
"昔は"リリアの兄貴分だったらしいが……今のリリアは僕の婚約者だ。僕以上にリリアをわかっているはずがない。
そもそもそこまで限界なら、リリアは真っ先に僕に話をしにくるべきなんだ。
それともーーーラファエルは、僕の知らないリリアの顔を知っているのか?
そう考えるだけで、腹の底が煮え繰り返るような怒りがふつふつとわき、体を熱くする。
ーーーリリアは、僕の婚約者だ。他の誰のものでもない、僕の。
「……これは僕とリリアの問題だ。"部外者"に口を出される筋合いはない」
有無を言わせぬ強い語気で威圧する。ラファエルは目を伏せて、微かに口角を上げた。
「申し訳ありません。……少し、出過ぎた真似をしたようです」
「……ふん、わかればいい」
そう、お前の出る幕なんて存在しない。今のリリアの瞳に映るのは、お前でもミカエルでもない。
他でもない、この僕だ。
優しい笑顔も、熱を持った頬も、妬みに染まった美しい顔も。全部、全部、僕だけに向けられている。
そのはずなのにどうしてーーー僕は、こんなに満たされないんだろうか。
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合計10→断罪執行前日リリアとミカエル「最後に、お前を救えたら」
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