美しい貴方を縛れない、醜い私の嫉妬心 リリア視点
「貴方の隣に最後に立っていたい。それが、私の願いですわ。……奪うものは、誰であろうと許しません」
貴方を引き止められるのは、そんな未熟な感情だったのかもしれない。
私は完璧であろうと務めた。眩しい貴方に相応しくあろうと。
それなのにどうしてーーー私は、罪を犯してしまったのだろう。
ーーー
しとしとと降り続ける雨が、窓の外で弾ける。
「こんな天気では、お前の好きな花を見にいくことすらできないな」
「お天気は生憎ですが、デービット様のお顔を見れただけで気分は晴天ですわ。今日もいい気分で1日を終えられそうです」
紫陽花のような紫色の瞳を見られるこの時間は、何物にも変え難い。
「花よりも何よりも、この時間が私は好きですの。愛しいデービット様と居られるだけで、私は幸せですのよ」
カップを手に取り、口をつける。ふわりと鼻腔をくすぐる香りが、とても心地いい。
「リリアはいつもそんなことばかり言っているな。……僕に対して、不満はないのか?」
「不満、ですか?」
「そうだ。先日メアリーと話をしていて思ったんだが……リリアは、もう少し自分の意見を言った方がいい」
その名前を聞いた瞬間、カップを傾けた手が止まる。
口の中に流れ込んだ液体は、いつもよりも苦く感じられた。
「……メアリーさんと、お話ししたんですね」
メアリーさんの名前を、私の前で口にしないでほしい。
私以外の人間と、懇意にしないでほしい。
ーーー私には、貴方しか居ないのだから。
そんな言葉を、紅茶と一緒に飲み下す。
もしもそれを口にしたら……私は、『完璧な婚約者』では無くなってしまう。魅力的な貴方の隣に立てる資格を、失ってしまう。そんな気がして。
「私はきちんと話をしているつもりなのですが……何かあれば、その時またいいますわ」
婚約者としての仮面をかぶる。穏やかな笑みを貼り付けた、偽りの仮面。
デービット様はそれをみて、不満そうに腕を組む。
「お前は……婚約者が他の女と話していても、咎めないんだな」
咎めたいに決まっているでしょう……!
指先に力が入り、僅かにかちゃりと音がする。
「優しいところも、デービット様の良いところですから」
出てきた声は、普段より低く、わずかに震えていた。
デービット様はちらりと私の指先を見て、満足そうに口元を緩める。
「ふぅん……その割に余裕がなさそうだな、リリア」
こちらを値踏みするような、デービット様の視線。普段なら欲してやまない関心が、今だけは恐ろしくて仕方なかった。
「メアリーは面白い女性だな。今度宗教省へ顔を出す予定があるんだ。リリアと話す"ついで"に、彼女と会うのも悪くない」
ーーー本当にそれは、私の『ついで』なのですか?
言いたい言葉が雨粒のように降り注ぎ、私の心を濡らしていく。
「ええ、彼女はとても……いい方ですから」
言葉が、喉から出てこない。
何かが詰まったような違和感が、完璧であることを許さない。
そんな不完全な私を見て、デービット様は軽く頷いてから、すっと目を細めた。
「言いたいことがあるなら、今のうちだぞ?」
その声は、私を試しているようだった。
「私は……」
激しさを増す雨にかき消されてしまいそうな、か細い声が口をつく。
「私は?」
こちらに向けられる視線は、続きを急かすようで。
「デービット様にーーー幸せでいてもらえるならば、それだけで、満足ですわ」
その美しい瞳に、私の醜い嫉妬は似合わない。
飲み込んだ言葉は、胸の中でどす黒く渦巻く。どこにも逃げ場のない、言葉の墓場に埋まっていく。
これが、この時の私が選んだ答え。
この答えが、運命の交差路だったと気がついたのはーーー何もかも手遅れになった後だった。
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