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【番外編】断罪執行前日 ーデービットー


冷え切った石でできた塔の最上階。そこにあるのは、刑を執行するまで高位貴族を隔離しておくための牢獄。


私はそこで1人、明日の断罪執行を待っていた。


コツコツと、重い鉄扉の外から足音が聞こえる。

先ほど聞いた足音よりも軽くて、どこか急いでいるような音。


今度は、誰?


振り向いた先、鉄扉につけられたカーテンに映し出された影。


「リリア!」


聞こえてきたのはーーー愛しい、デービット様の声だった。


どうして、ここにいるの? 私を断罪して、今頃メアリーさんと一緒にいるんじゃ……?


疑問だけが積み重なり、喉を埋める。何を言っていいのかわからなかった。


「リリア、聞こえているんだろう! なぜ返事をしない!」


格子を掴んでガタガタと揺らしだすデービット様。

責め立てるような声と金属のぶつかる音が、塔の中にこだました。


耳から入ったその音が、頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱しているようだった。


なにか、なにか何か言わないと……


乱れた思考をなんとか奮い立たせ、言葉を探す。


「デービット様……なぜ、こちらに……?」


出てきたのは、自分でも驚くほどか細い声だった。


「リリア……!」


どこかほっとしたような声が、鼓膜を揺らす。


もう私の事など愛していないはずなのに、どうしてそんなに優しい声で私を呼ぶのだろう。


デービット様が私を呼ぶたびに、期待してしまう。そんな単純な自分が、心底腹立たしかった。


でも、もしかしたら……そう願わずには、いられなくて。


「どうしてあの場で謝らなかったんだ!? 何故メアリーに手を挙げた!」


そんなあわい期待は、怒気を孕んだ声にあっさりとかき消された。


ほら、やっぱり。彼が私に会いにきたのは、私のためじゃない。全部、メアリーさんのため。


わかっていたはずのに、その事実が胸に突き刺さる。


「……私は、デービット様を愛しておりました。誰よりも、何よりも、貴方だけを。貴方に愛されるためだけに、私は完璧でいたのです」


人生も、努力も、何もかもデービット様のためだけに存在していた。デービット様が、私の全てだった。


デービット様のシルエットが、段々と霞んで見えなくなっていく。


「最後に一度ぐらい……人生をとられたささやかな復讐をしても、許されると思いませんか?」


握りしめた拳にぽたりぽたりと雫がこぼれた。堪えるように唇を噛み締めても、水滴はあふれていくばかりで。


鉄格子を揺らす音が、ぴたりと止まる。ずるずると扉に何かが擦れる音が聞こえ、デービット様の影が見えなくなった。


「じゃあ……じゃあ、なんで……もっと早く、そう言ってくれなかったんだ?」


その声は聞いたことがないほど、か細く震えていた。


私の愛なんて、いらないと思っていたのに。どうして今更そんなことをおっしゃるの?


「僕は完璧なリリアなんて求めてなかった。嫉妬して、僕を求めるリリアの姿が見たかっただけなんだ」


ぽつりぽつりと言葉がこぼれるたびに、ズキズキと頭が痛む。


……やめて、それ以上、言わないで。


「僕はただ、お前に愛して欲しかったんだ……」


両手で塞いでいても、デービット様の声は驚くほどはっきりと聞こえてくる。まるで、脳に直接響いているような、不思議な感覚。


ーーーじゃあ私は、なんのために全てを捨てたの?


欲しくてたまらなかったその言葉。そのはずなのに、今は酷く空虚に聞こえた。


静かになった部屋にデービット様の嗚咽が響く。結局私は、愛する人1人幸せにできなかった。私の選択がデービット様を不幸にしたんだ。


……私は間違えてしまった。完璧だなんてうそぶいて、大切なものは何一つとして見えていなかった。


どうすればいい? どうすれば、この人をこれ以上悲しませなくて済む?


フリーズした頭を無理矢理動かす。


考えろ、デービット様のために。仮面をつけろ、今この時だけでも。


そして、私は一つの結論に辿り着いた。


無理矢理喉を開き、口角を下げる。


「……今更、そんな都合のいいことをいうのですね」


出てきたのは、突き放すような冷たい言葉だった。


「リリア……?」


愕然としたその声に、胸が張り裂けそうなほど強烈な罪悪感が湧いてくる。


耐えろ、今だけは。


「デービット様がそんな方だとは思いませんでした。興醒めです。……むしろ、こうなって良かったのかもしれません。どうぞ、メアリーさんとお幸せに」


淡々と言葉を紡いでいく。感情を、悟らせないように。

これ以上私に、執着しようと思わないように。


「嘘だ……リリア、嘘だろ? 僕のこと、愛してるよな? なぁそうだろう、リリア!!」


ドンドンと強く扉を叩く音が聞こえる。


「やめてください、うるさくて敵いません」


僅かに震えた声を隠すように、私はぐっと喉に力を込める。


「私は貴方が嫌いです。私の人生を貴方にかけたことを、後悔するほどに。2度と声も聞きたくありません。今すぐにそこから去りなさい」


今まで一度も口にしたことがないような強い言葉。その言葉が喉を通るたび、針のように突き刺さる。


ジクジクと熱を持ち、痛み続ける喉の奥。


でもそれ以上に、心が痛くて仕方なかった。


「リ、リア……?」


今までとは違う、力のない呆然とした声。聞いたことがないほど幼いその声に、今すぐ全て投げ出してしまいたくなった。


耐えろ、私。全部、デービット様のためだ。愛されていたとわかったなら、それだけで私は死地にも赴ける。それだけを胸に、幸せに旅立てる。


だからせめてーーーデービット様の足枷にだけは、ならないように。最後ぐらい、美しい思い出であれるように。


私は口を、耳を、心を閉ざした。これ以上傷つけないように。これ以上、傷つかないように。


その後何があったかは、覚えていない。


気がついた頃にはすっかりと塔の中は静かになって、誰もいない冷たい空間が広がっていた。


これで良かったんだ。こうするしかなかったんだ。


そんなことはわかっていた。


それでも、考えずにはいられない。


もしも私が、もっと早く彼を突き放せていたならば。甘やかすだけでなく、完璧に振る舞うだけでなく、全てを曝け出していられたら。


ーーー結末は、違ったかもしれないと。


そんな後悔だけが、ボロボロになった胸の中で渦巻き続けた。

お読みいただきありがとうございます!

✨ブクマとリアクションの合計数で番外編公開!✨


本編である

【あと7日で断罪とかマジですか? ーヤンデレ幼馴染と走る断罪回避RTAー】

連載中です!


次回→ラファエル編です!

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