【番外編】断罪執行前日 ーミカエルー
冷え切った石でできた塔の最上階。そこにあるのは、刑を執行するまで高位貴族を隔離しておくための牢獄。
私はそこで1人、明日の断罪執行を待っていた。
コツコツと、重い鉄扉の外から足音が聞こえる。
食事の時間? ーーーいや、違う。いくらなんでも早すぎる。
換気用の小窓から差し込む光はまだ高い位置にある。昼食を食べてから2時間も経っていないはずだ。
……一体、誰?
得体の知れないものに対する恐怖が、私の心をじわりと蝕んだ。
鉄扉についた配膳用の窓。鉄格子に彩られたそれを覆うカーテンだけが、私を隠してくれていた。
そこに現れた、見覚えのあるシルエット。想定外のそれに、私は言葉を失った
「リリア、俺だ。聞こえるか?」
「ミカ……?」
口からこぼれ落ちたのは、かつての幼馴染の名前。
なんで、ここにいるの?
そう言いたかったのに、体は凍りついたまま言う事を聞かない。
「リリア……! お前を迎えにきた。お前を不幸になんて絶対させねぇ」
なんで、なんでずっと素っ気なくしてたのに、貴方はいつもーーー私を、助けようとしてくれるの?
ミカの必死の声が、冷たい部屋に、私の心に響き渡る。
ミカは昔からずっとそうだ。私の手を引いて、私を導いて。デービット様と婚約するまで、貴方はずっと守ってくれた。私がこんな風に落ちぶれてもそれは変わらない。そう、言ってくれるの……?
「俺はーーーお前のことが、ずっと好きだった。遅くなって悪い。本当はお前が傷つく前に、助けに来るべきだったんだ……!」
押し殺すようなその声は、まるでミカの想いがそのまま滲み出たようで。
ずっと、好きだった。
観測区域の遥か外側から降ってきた隕石のようなそれが、私の胸をめがけて一直線に突き刺さる。
その衝撃に突き動かされ、私はゆっくりと扉へと引かれていく。引力に、抗えない。
いけない事だとわかっているのに、手を伸ばさずにはいられない。
子供の頃のように、助けてと、縋り付きたくてたまらなかった。
「私が……私が、悪いの。ずっと、自分の気持ちばっかりで。ミカは昔みたいにって言ってくれたのに、ちゃんと話もしなかった……!」
誰よりも大切な、幼馴染だったはずなのに。
それを手放したのは、他でもない私だ。
「気にしてねぇよ、そんな事。ちゃんと話せなせてかったんなら、これから話せばいい。時間さえあればいくらでもやり直せる」
優しくて頼もしいその声が、私の凍えた体を溶かしていく。
熱を求めるように、震える手でそっとカーテンに手をかけーーーふと、気がつく。
「ミカは……どうやって私と逃げるつもりなの?」
鉄格子の鍵はそう簡単には壊せない。手に入れることもほぼ不可能。可能性があるとすればーーー
「輸送中を襲う。護衛の中で俺に勝てるやつはいねぇ。必ず成功させる」
……そう、なるわよね。
わかっていた。今ここでミカについていけるほど状況は甘くない。
そもそも仮に成功したとして、ミカはどうなる? 有能な近衛兵としての未来も、公爵家次男としての立場も失う。全部、私のせいで。
そんなこと、許されるはずがない。
「……ありがとうございます、ミカエル様」
震える手をもう片方の手でぎゅっと掴む。惹かれる心を押さえつけるように、言葉で壁を作る。
「リリア……?」
これは、私の罪だ。裁かれるのは、この私、ただ1人。
「貴方の気持ち、とても嬉しく思います」
割れた仮面を、今だけ無理やり付け直す。喉に力を入れ、震える声を強引に取り繕う。
「しかし、私は罰を受け入れます。もうーーー子供では、ないのですから」
息を呑む音が聞こえてきそうだった。カーテンの向こうのミカはきっと……酷く、傷ついた顔をしているだろう。
「どうか、お引き取りください」
「お前……お前、本気か!? 本当にあのクソ王子のせいで死んでもいいっていうのかよ!!」
私の声を遮るような絶叫。塔そのものが震えそうなほど強い怒気。
焦がれる思いを思いを捻り潰し、扉に向かって背を向ける。ミカの声に身を灼かれながら、私はひたすらに誘惑に耐え続けた。
……この人を選んでいたら、好きに慣れていたら、私は今もーーー仮面なしに、笑っていられたのだろうか。
そんな甘い考えが脳裏によぎるたびに、浮ついた自分が嫌になる。
でも、それでも。……もしも次があるのなら、やり直すことができるなら。
ミカと未来を歩んでみたいと、そう思わずにはいられないのだ。
お読みいただきありがとうございます!
現在番外編はこちらのみ公開確定となっておりますので、これにて完結とさせていただきます。
本日より本編である
『あと7日で断罪とかマジですか? ーヤンデレ幼馴染と走る断罪回避RTAー』
が連載開始となります。よろしければぜひそちらもご覧ください。
✨ブクマとリアクションの合計数で番外編公開!✨
合計20→断罪執行前日 リリアとデービット
「僕はただ……お前に、愛して欲しかったんだ……」
彼の言葉は、リリアを繋ぎ止められるのかーーー
↑こちらも条件達成次第投稿いたします。引き続き応援いただけますと幸いです。




