とあるプレイヤーの日常
「もしも、画面の中に入れたなら」
そう思ったことが、ないと言えば嘘になる。でもそんな夢物語、ありえないと思ってた。
本当はもっと、考えておくべきだったんだ。人生、何が起きるかわからないのだから。
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「はぁ〜……やっぱ推しは疲れた脳に染み渡るわ〜……」
推しの映る画面を見るたびに、ニヤケが止まらない。
「ルカ、流石に大学でゲームはやめろよ」
ひょいと伸ばされた手が、ゲーム機を奪い去る。
「いいじゃん、ジュリちゃんのケチ〜!」
「また7作目か? お前も飽きねぇよな」
「だってメアリーちゃん可愛いんだもん! 清廉で、芯が強くて、重い愛も包み込む包容力持ち! まさに主人公の風格! 流石聖女様!」
シリーズ全作攻略済みだけど、主人公の中で一番推せる。青髪なのも好みどストライクで大変美味しい。
「いや聖女は婚約者がいる男とったりしねぇよ」
「やめて、それ言ったら悪役令嬢もの全部破綻するから」
確かにそれだけ聞いたらやばい女なのはわかる。『清廉』と『略奪』って完全に相容れない。混ぜるな危険って感じ。
でも、ちゃんとシナリオを見ればわかる。そんな単純な話ではないと。
「あれはリリアがいじめたのが原因だからね」
「そりゃ自分の男に手ェ出したら締めるだろ、普通」
「ジュリちゃんの普通は物騒すぎるんだって。どこの世紀末?」
「ディスチェ2作目の世紀末だな。もしあたしが婚約者だったらーーーノア様に近づく女は、全員力づくで潰す……!」
地を這うような低い声を響かせ、鋭い眼光で睨みつけるジュリちゃん。流石百戦錬磨のヤンキー、迫力が違う。
「本気で言ってるからより怖いよ。……鏡見てみ? 眉間に日本海溝より深ーい皺できてるから。ノア様もそれみたら『婚約解消してくださいお願いします』って土下座してくるよ」
「ノア様はそんなこと言わねぇ、解釈違いだ」
「いやわかったわかった! 悪かったよ! だからその顔やめて夢に出そう!」
ムンクの叫びより恐ろしい顔が、すっと真顔に戻る。完っ全に顔芸師なんだよな。
「……はー、最近異世界転生ものはやってっけど、あたしも転生してノア様とイチャラブ婚約者ライフを送りたい」
ゲーム機を机に置き、天を仰ぐジュリちゃん。
うーん、異世界転生かぁ……。
「私だったら……悪役令嬢になっても、推しカプ眺めてニヤニヤしてそうだなぁ」
もしも、ゲームの世界に……『ディスティニーチェイン』の世界に入れたなら。そんな非現実的な話を、私はここで初めて考えた。
この時の私はまだ知らない。悪役令嬢は、ただのオタクが務めるには過酷すぎる役割だと言うことを。
お読みいただきありがとうございます!
✨ブクマとリアクションの合計数で番外編公開!✨
合計20→断罪執行前日 リリアとデービット
「僕はただ……お前に、愛して欲しかったんだ……」
彼の言葉は、リリアを繋ぎ止められるのかーーー
次回予告→このプレイヤーが、何故選ばれてしまったのか。その理由は、転生前夜にあった。




