貴方だけをただ見つめて リリア視点
「私の前で、他の女性の話をするのですか? 私は、貴方しか見えていないのに」
もしあの時そう言っていれば、貴方を繋ぎ止められただろうか?
ーーー
色とりどりの薔薇が咲き誇る、庭園の一角にある東屋。肩を上下させながらその香りを肺に取り込み、愛しいあの方の元へ急ぐ。
「デービット様! お待たせして申し訳ありません……!」
息を切らし、椅子に手をつく。
デービット様は目を伏せたまま、紅茶の入ったカップを指先で弄んでいた。
「……遅かったな、リリア。例の聖女の件か?」
「ええ、少し長引いてしまって。本当はもっと早く会いに来たかったのですが……」
デービット様はわずかに唇を尖らせる。その様子すらも、可愛らしくて仕方がない。
「僕は子供じゃない。少しぐらい待てる」
拗ねたような声が可愛くて、思わず頬が緩んだ。
デービット様と過ごす時間が減った事は残念だが、この表情が見れただけで心は満たされていく。
「……しかし、リリアがそこまで入れ込む相手か。僕も一度その聖女に会ってみたいな」
わずかに棘を含んだその言葉に、笑みが凍りつく。
「……そう、ですわね。今度、紹介させてくださいませ」
出てきた声は、かすかに震えていて。
「? 何か会わせたくない理由でもあるのか?」
「そう言うわけでは……。メアリーさんは、可愛らしい方なので……」
メアリーさんは無意識に人を惹きつける。歴代の王と結ばれてきた、聖女という特別な立場の彼女。もしも、デービット様が彼女と出会って、その視線が彼女を捕らえたら。
冷えた指先が震え、茶器がかちゃりと音を立てる。
「……僕が心移りすると? そんな簡単に心が揺らぐほど、僕は薄情じゃない」
一瞬目を見開いてから、紅茶を煽るデービット様。その言葉が染み込み、じんわりと胸が温かくなる。
「デービット様……! ごめんなさい、私無礼なことを……」
「構わない。……思わず嫉妬するぐらい、僕のことが好きなんだろう? それぐらいが丁度いい」
どことなく満足げは表情でこちらを見るデービット様。わずかに頬にさした赤みが、私の心の冷たい部分を照らすようで。
「……私、貴方の婚約者でいられて幸せです」
そうよね、デービット様が他の女性に揺れることなんてありえない。そうならないために私は、誰よりも努力してきた。このかたの隣に、見合う女性でいられるように。
……でも、どうしても不安が拭いきれなくて。
彼を思えば思うほど、胸の中の温かさが失われる恐怖が、私の心を支配した。
……もし、万が一、そんな日が来たらーーー私は、私でいられなくなるかもしれない。そんな予感がした。
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