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泥棒猫に愛の裁きをー私が悪役令嬢と呼ばれた日ー リリア視点

「私にとって貴方とは、人生そのものだった」


貴方と婚約したあの日から10年間、貴方の隣に立つことだけを目標に掲げ日々を過ごしてきた。


しかし私の人生はーーーぱっと現れた眩い光に、一瞬で攫われていった。


ねぇ、デービット様。どうして、私を選んでくださらなかったのですか。どうして、貴方の背後にいるのは、私ではなくあの女なのですか。


貴女があの女を庇ったあの瞬間、私の中で何かが弾けた。


闇に包まれた部屋の中で、その光景が何度も脳裏に蘇る。


デービット様が来てくださった時でさえ、私の胸には疑念と嫉妬が渦巻いていた。最後に貴方と話す機会すら、自らの手で放棄した。


……もう、疲れた。


愛しい貴方が他の女と結ばれるところなど見たくない。もうこれ以上、何も考えたくない。


この世界から消えてしまおう。貴方がいない世界など、私にとってはなんの意味もないのだから。


ーーー


荘厳な女神像が全てを見下ろす裁きの間。そこで読み上げられる私の罪状。全て自分自身のことのはずなのに、まるで実感が湧かなかった。ふわふわとした夢の中で自分自身を見ているような、そんな奇妙な感覚だった。


ーーー結論などどうだっていい。どうせ私はすぐに、この世界から消え去るのだから。


それでも最後に一目、愛しいあの人を見たい。その姿をこの目に焼き付けてからこの世をさりたい。


私がここに来た目的は、ただそれだけだ。


罪状を聞き終えた愛しい婚約者。彼ははおもむろに椅子から立ち上がり、美しい紫色の瞳でこちらを見据えた。


その形の良い唇が、ゆっくりと開かれる。


「被告人、リリア・キャンベルにーーー国外追放を命ずる」


罪状を告げるその声は、酷く冷たかった。


国外……追放……?


想定を超える罰に、思わず目を見開く。


ーーーお前の姿すら見たくない。


まるで、そう言われているような気がして。


ざわめく聴衆、鳴り止まぬ鼓動。雑音に囲まれたその空間で肩を震わせ必死に息をする。


そうでもしないと今この場で命が尽きてしまうような、そんな気がした。


「聖女への度重なる暴言、器物破損。今後危害を加える危険があるのならば、必要な措置であると言えるだろう。だが今ここで正式に謝罪し、心を入れ替えるというのなら……僕はお前を赦そう。さぁ、どうする? リリア・キャンベル」


心臓を握りつぶすような強い言葉。私は顔を上げることもできず、ただただその場に立ち尽くす。


手が震える。息が詰まる。声が、出ない。


デービット様は今、メアリーを守るために私を裁いている。


その事実が、私の体を凍り付かせた。


「リリア様……」


永遠にも感じられた静寂を打ち破ったのは、美しいソプラノボイスだった。誰よりも憎い、私の全てを奪った女の声。


「今ここで謝ってくださるのならば、私は貴女を赦しましょう」


まるで救いを与える女神のように、彼女はそう囁いた。


「貴女は優しいお人です。私がデービット様のことを……その……好きに、ならなければ、きっと私たち、もっと仲良くできたと思うんです」


……この人は、一体何を言っているんだろう?

優しい人? 仲良くできていた?


あの人を奪ったのは、他でもない"貴女"なのに?


歪んでいく私の思考を置き去りにして、泥棒猫は宣い続ける。


「今からでも私達、お友達になれると思うんです」


ーーーブチン


何かが、私の中で弾けた。


次の瞬間襲った手のひらを痺れさせるほどの強い衝撃と、耳をつんざく破裂音。


目の前にいたはずのメアリーはいつの間にか床に臥していた。


「私が……私が、どんな気持ちでこの一年、過ごしてきたか……!」


その音と共に弾け飛んだ思いが心の底から滲み出る。


「デービット様は私の人生でした。私の全てでしたの。それを奪っておいて、友達になれると思う? 笑わせないでください、この泥棒猫!!」


貴族の令嬢としてあり得ない品のない言葉の数々。頭では理解していても、心はもう止まらない。


「私がこの10年、デービット様の隣にいるためだけにどれだけ心を砕いたことか! どれだけ願いを重ねたことか!」


頬を伝う雫も溢れる言葉も、何もかもが止まらない。感情の濁流に、築き上げてきたものが全て洗い流されていく。


「壊したのは他でもない貴女よ! メアリー・ホワイト!!!!」


憎たらしいその名前を喉が裂けんばかりに叫び散らす。


頬を抑えた彼女は、怯えた目で私を見上げていた。


「貴女がデービット様の隣に立つ? そんな未来を見るくらいならば私は死を選びます。謝罪など致しません。私は貴女に手を挙げたことも、髪飾りを壊したことも……何一つとして後悔していないのだから」


肩で息をしながら吐き捨てるようにそう言いきると、背を向けて足早に歩き出す。


扉の両側に立つ衛兵は呆然とした目でこちらをみていた。


「……何をしているのですか。私を連れていくのが、貴方方の役目でしょう」


私の声に促され、彼らは急いで私を拘束する。

そんなことをしなくとも逃げる理由などどこにもないのに。


「……それでは皆様、ご機嫌よう」


断罪の間に高らかに鳴り響くその声は、わずかに震えていた。


背後にいるデービット様は、どんな目で私を見つめているだろう。

その目に映るのは、軽蔑? 怒り? 憐れみ?

恐ろしくて振り返ることもできないのに、頭の中に思い浮かぶのは、愛しい貴方のことばかりだった。


……その中に少しでも、私を思う気持ちがあればいいな、なんて


そんなことを考えてしまう、愚かな私がいて。


「私は、貴方を愛しておりました」


扉が閉まる音にかき消され、誰の耳にも届くことはないその言葉。それなのに、貴方に伝わればいいのにと思ってしまう。


私の心は貴方に囚われ続けたまま、永遠に変わらない。


ーーー貴方の手で息絶えるその時まで、ずっと。


ーーー


これが、彼女の物語。悪役令嬢と呼ばれた、悲しい女の断罪譚。彼女は本当にーーー悪だったのだろうか?


って、えぇ? 救いがなさすぎる? ハッピーエンドはないのかって?


そんなことを言われても困るんだけど……


あぁ、そうだ。それなら誰かに救わせればいい。まるでゲームの世界のように、プレイヤーに全て委ねよう。


成功するかは、プレイヤー(きみたち)次第だけれど。

お読みいただきありがとうございます!

✨ブクマとリアクションの合計数で番外編公開!✨

合計20→断罪執行前日 リリアとデービット

「僕はただ……お前に、愛して欲しかったんだ……」

彼の言葉は、リリアを繋ぎ止められるのかーーー


次回予告→明かされるデービットとミカエルの過去。

そして始まる、『運命を変えるプレイヤーの物語』



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