砂糖漬けの妄想と、ほろ苦い現実と デービット視点
「これは、お前を取り戻すための断罪だ」
リリアを失ってから、僕はひたすらに自問自答を繰り返した。
もう2度と、リリアは戻ってこないのか?
僕を必要としてくれる人間はーーーもう、いないのか?
そして僕は気が付いた。
いや、違う。僕にはまだメアリーがいるじゃないか。リリアは変わってしまったかもしれないが……それなら、元に戻せばいいだけだ。
そして僕は閃く。
そうだ、僕がお前を断罪すればいい。メアリーのためにリリアを裁き、そして正せばいい。
ーーー昔のように、僕を愛せるように。
ーーーー
秒針だけが響き渡る静かな執務室。窓から暖かな風が吹き込むたびに、机の上の白い勿忘草が静かに揺れた。
「本当に……よろしいのですか?」
「あぁ、もう決めたことだ」
椅子に深く腰掛けたまま、メアリーを見つめる。
揺らぐその瞳は、まるで彼女の心の中を表しているかのようだった。
「でも、やはり国外追放は酷すぎるのではないですか? デービット様の、大切な婚約者なのでしょう?」
「……もはやそれは過去の話だ。国の象徴たる聖女への暴言、私物の破壊。今後の危険性を考えれば、それもやむを得ないだろう」
確かに公爵令嬢に国外追放を言い渡すには、少し材料が弱いかもしれない。だがそれぐらいのことを言わないと、彼女は僕に助けを求めないだろう。
そう、全ては"僕を愛していた"リリアを取り戻すためなんだ。
ゆっくりと目を伏せ、息を吐く。
「彼女は変わってしまった。ーーーいや、僕が変えてしまったんだ」
だから僕は変わってしまったリリアを矯正しなければならない。再び、僕を愛してくれるように。
「デービット様……」
メアリーは静かにそう呟くと、視線を落とす。
彼女は、僕を必要としてくれている。だから僕はその願いに応える義務がある。被害者である彼女を助け、変わってしまったリリアを裁く。その行いが、正しくないわけがない。
僕は椅子から立ち上がり、メアリーの方へと歩み出した。そして彼女の正面で跪くと、おもむろにその手を取る。
「僕は前に進む。そのために、大切な過去を切り捨てることも厭わない」
メアリーは一際大きく青い目を見開いて、口元をもう片方の手で覆う。その頬は朱に染まり、触れた手はかすかに震えていた。
僕だけを見つめるその瞳は、まるで昔のリリアのようで。
それがより一層、僕の中にあるリリアへの渇望を深めていく。
「これは君を守るための戦いでもある。僕と共に、リリアの罪を裁いてくれ。それが僕にできる唯一の贖罪なんだ。」
そう、その贖罪をもってーーー今度こそ完璧に、僕はリリアの心を手に入れるんだ。
「……私、嬉しいです。デービット様が、私を守ると、そう言ってくださって」
メアリーは潤んだ瞳を伏せ、僕の手を軽く指先で撫でる。そして覚悟を決めるように、一度大きく深呼吸した。
「わかりました。しかし、それはあくまで最終手段です。本来の目的は、リリア様にこれまでの行いを省みてもらう事ですから」
芯の通ったその声が、執務室の中に響く。
僕は心の中でにやりと怪しく微笑んだ。聖女であるメアリーが協力してくれるならば、周囲は必ずこちらの味方につく。
あとはリリアが僕に縋り付いてくるだけ。僕に謝って、僕を再び求めるだけ。それだけで、全て元通りになる。
口元が緩むのを抑えられない。リリアが僕に愛を囁いていた日々を思い出すたび、脳みそがシロップでつけられたような甘い感覚が走った。
「わかっている。メアリーが望むように、リリアが謝った時点で断罪は中止にしよう」
これは、リリアを取り戻すための断罪だ。
僕は今度こそ間違えない。お前がどこにもいけないように、他の誰も選ばないように縛り付ける。
明日、全てを白日の下に晒す。そうすれば、お前はもうどこにもいけまい。
これでお前はずっと、僕だけのものになる。そうだろう? ーーー僕だけの、リリア
お読みいただきありがとうございます!
✨ブクマとリアクションの合計数で番外編公開!✨
合計20→断罪執行前日 リリアとデービット
「僕はただ……お前に、愛して欲しかったんだ……」
彼の言葉は、リリアを繋ぎ止められるのかーーー
次回予告→ついに始まる断罪劇
3人の思いが交差するーーー




