初めての拒絶は、絶望の味がした デービット視点
「お前の愛は、僕だけに注がれれば良い」
ずっと、ずっとそう思っていた。リリアの視線は婚約した10年前から、僕だけに注がれていた。
だから、僕は思いもしなかったんだ。
お前から……拒絶される日が来るなんて。
ーーー
僕は馬車に揺られ、その中で1人俯いていた。
聖夜祭の時も、年が明けても、リリアは僕に会いに来なかった。それどころか、手紙が返ってくることすらなかった。
どんなに華美なパーティーも、リリアがいなければ意味がない。彼女がいないだけで、世界が急速に色を失っていく。
どうして僕のことを愛しているのに僕を1人にするんだ。
寂寥感に苛まれた結果、僕は許可もなくリリアの屋敷へと来ていた。
追い返される事はないだろうという確信があった。使用人とは顔馴染みだし、そもそも僕はリリアの婚約者。彼女に会う権利があるのだから。
両脇にクリスマスローズが植えられた道を馬車の窓から眺める。いつも出迎えてくれるその花すら、今は酷くくすんで見えた。
アプローチを抜けた馬車がゆっくりと停止する。僕は足早に地面へ降りると、本館の扉に手をかけた。
「お、お待ちください! デービット殿下!」
「うるさい、僕はリリアの婚約者だぞ。確認等必要ない!」
慌てた様子の侍女を尻目に僕は屋敷の中へと入って行く。目を剥く召使たちのことなど気にもせず、リリアの部屋に向かってひたすらに歩を進める。
「デービット殿下! お待ちください!」
「リリア様は誰も通すなと仰せです!」
背後で喚く声を無視して、ひたすら階段を上がっていく。その姿はまるで何かに取り憑かれているように見えたかもしれない。
「何事ですか、騒々しい」
廊下の先から聞こえた威厳のある声。微かにしわがれたそれは、その一言だけで聞いたものを震え上がらせるような強い威圧感に満ちていた。
「エリザベス……邪魔だ、どけ」
部屋の前に鎮座する彼女は眉間に刻まれた皺をより一層深めてこちらを見据える。
「先日から客足が絶えませんね。……普段であれば喜ばしいことですが、リリア様から誰も通すなと仰せつかっています。どうか、お引き取りください」
『客足が絶えない』
その言葉に、僕は息を呑む。
他に、誰か来ているのか? そいつがリリアを慰めているから、僕はもう必要ないとでも……?
リリアの中に、他の誰かがいる
そう考えるだけで、何かがガラガラと音を立てて崩れていく。
「誰だ……? 誰がきてるんだ……! ミカエルか!? あいつがいるから僕を通せないのか!? 答えろ、エリザベス!!」
崩れゆく自分を、湧き上がる怒りで必死に保つ。今ここで引いたら二度とリリアは戻らない。そんな気がした。
「……失言でした、ご放念ください」
「できるわけないだろう……! リリア!! リリア聞こえてるんだろう!? 何故出てこない! 僕に会いたくないのか!?」
扉の向こうに叫んでも、返事は一向に聞こえてこない。その事実が、心の崩壊を加速させていく。
なんで、なんで出てこない? 僕が欲しくないのか? 僕が、愛しくないのか……!?
「いいのか……? 僕が本当に、お前を選ばなくても。今ここで会っておかないと、後悔することになるかもしれないぞ……?」
搾り出した声は、明らかに震えていた。
リリアを失う恐怖が、僕の心を急速に支配する。まるで太陽を失った世界のように、全てが闇と冷気に包まれていく。
歯が音を立ててなり、白くなるほど強く握られた拳はひどく冷たい。
リリアだって、僕を失うのが怖いはずだ。きっと、すぐに出てくる。でて……くるよな……?
しかし扉は固く閉ざされたまま、微動だにしなかった。
「……殿下。今は、お引き取りください」
憐れむようなエリザベスの声だけが、静かな廊下に響く。
「……」
頭の中が真っ白になる。
そこからどうやって家に帰ったのかは、覚えていない。
一つだけ確かなのはーーー僕に居場所を与えてくれたリリアは、もういないということだけだった。
お読みいただきありがとうございます!
✨ブクマとリアクションの合計数で番外編公開!✨
合計20→断罪執行前日 リリアとデービット
「僕はただ……お前に、愛して欲しかったんだ……」
彼の言葉は、リリアを繋ぎ止められるのかーーー
次回予告→リリアに拒絶されたデービットは、ついに崩壊し始める。「リリアが変わったのなら、僕が彼女を正すだけだ」その言葉の真意とは、一体ーーー




