とある兄弟の後悔について ラファエル視点
「本当は、俺が彼女を幸せにしたかった」
君の背中を押した。彼女を奪うなら、今がチャンスだと。
それなのに、胸に渦巻き続ける感情は収まらない。弟の初恋が叶うならば、それでいいじゃないか。そう思えない自分が、心底嫌になる。
だから俺は、またこの思いに蓋をする。既に溢れかけている器から、目を逸らしながら。
ーーー
暖炉の暖かな光に包まれた、家族用の談話室。ページを捲る音が響く、穏やかな休日。
「なぁ、ミカ。……リリアちゃんとキスしたって本当か?」
吹き出された紅茶が、宙を舞う。
「ゴホッ、ゴッホゴホッ……おま、きゅうに……ゴホッ……」
「悪い、まさかそんなに驚くとは……」
俺はベルを鳴らして侍女を呼んだ。すぐに入ってきたメイドは、一瞬目を丸くした後、呆れた様子でテキパキと床に溢れた紅茶を拭き始める。
その間も終始、ミカは咳き込みながらこちらを睨みつけていたけれど。
「で、実際どうなんだ?」
侍女が静かに扉を閉めて退出したあと、俺は改めてそう尋ねる。
「しっ……して、ねぇよ」
頭をかきながら、目を逸らすミカ。
……何かやましいがあるんだな。わかりやすい癖だ。
「ふぅん……殿下がそれを見たって言ってんだけど」
「殿下が? ……そうかよ」
ミカは一瞬考え込んでから、短くそう答えた。
「……リリアちゃんのこと、略奪する気はない?」
「はぁ!?」
「最近の殿下の行動は、いくらなんでも目に余る。先日嗜めたんだが……それ以降、リリアちゃんには会っていないらしい。宗教省の近くで見ることはあるから、多分謝るタイミングを逃し続けてるんだろうね」
「相変わらずのヘタレだな……」
ーーー君がそれをいうのか
そんな言葉が喉まで迫り上がるが、何事もないように紅茶を煽る。
「正直、デービット様がリリアちゃんを幸せにしてくれる未来が見えないんだよね。……いっそ、ミカが奪った方がいい塩梅に落ち着くんじゃないか?」
リリアちゃんはデービットに心底惚れている。これは紛れもない事実だ。……でも、俺は知っている。あの子の心の奥底には、まだミカの居場所がある事を。
ミカは指を組み、しばし視線を迷わせてからゆっくりと口を開く。
「あいつが好きなのは……デービットだ。あいつの隣に、俺の居場所はない」
ミカは目を伏せ、息を吐く。
でもそれが本音でないことは、火を見るよりも明らかだった。
少し、からかってみるか。
「ふぅん……じゃあ、俺が貰っちゃおうかな」
「はぁ!?!? お前、リリアまで自分のコレクションにするつもりか!? ぜっっってぇゆるさねぇからな!!」
「コレクションだなんて人聞きが悪いな。俺はくるものを拒まないだけだよ」
「それが悪いっつってんだよバカ兄貴!!」
肩で息をしながら叫ぶミカ。そこに貴族らしい優雅さは一欠片も存在しない。
「元気だね、ミカは。……そうやって感情をあらわにできる程度には、まだ好きなんじゃないの?」
「……うるせぇよ」
右手で顔を押さえ、天を仰ぐミカ。
「俺はその素直さが羨ましいよ。……俺も、もっと自分の感情を出せたらなって思う時がある」
「女取っ替え引っ替えしてるやつのセリフじゃねぇんだよそれ。純粋ぶるな気持ち悪りぃ」
「酷いなぁ。流石の俺も泣くよ?」
確かに俺はある意味素直かもしれない。でも結局、一番大事なものには、触れるどころか手を伸ばすことすら出来てない。俺も、人のことを言えない程度にはヘタレだと思う。
「まあ、話は戻るけどさ。……今ならまだ間に合うと思うんだよ。後悔、しないようにな」
ぱたりと本を閉じ、席を立った。ミカは視線だけで俺を見てから、ふっと俯く。
「……今更、どうしろっていうんだよ」
ミカは消えいるような声で、ぼそりとつぶやいた。
しばらく、1人にしたほうがいいか。
談話室から出て、自室に向かって歩き出す。
……後悔しないようになんて、どの口で言ってるんだろうな。
1番後悔しているのは、俺自身なのに。
お読みいただきありがとうございます!
✨ブクマとリアクションの合計数で番外編公開!✨
合計20→断罪執行前日 リリアとデービット
「僕はただ……お前に、愛して欲しかったんだ……」
彼の言葉は、リリアを繋ぎ止められるのかーーー
次回予告→宗教省の前でデービットに遭遇するミカエル。彼がデービットに告げた言葉とはーーー




