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燻る感情、奪えない心 ラファエル視点

「壊れる前に、奪えばよかった」


俺より君にふさわしいあいつ、君の瞳に映ったあいつ。俺がいなくても、どちらかが君を幸せにしてくれると思ってた。それならば、見守るだけで構わない。


でもそれは、ただの言い訳だった。もっと早く、自分の手で君を救うべきだったんだ。



ーーー


白い漆喰で塗り固められた壁。窓から覗く薔薇の花。その美しいコントラストが、俺の暗鬱とした思いを宥めてくれる。


窓から吹き込む、すっかり冷たくなった朝の風。それに吹かれるたびに、頭を冷やせと言われているような気がした。


目の前の扉をひたと見据え、いつも通りの笑顔を浮かべる。心の中に渦巻く感情を、押し殺しながら。


扉を数回叩くと、中から声がした。記憶より枯れたその声に促されるまま、俺は部屋へと体を滑り込ませる。


「失礼します、デービット殿下」


「……何のようだ」


不機嫌そうに顰められた眉と、歪んだ口元。その反応が、俺の中の仮説をより確固なものに変えていく。


「執務の報告が数件、個人的に確認したいことが、一点、ございまして」


「個人的に確認したいこと?」


「えぇ。私の気のせいかもしれないのですが……最近リリア嬢の顔色が芳しくありません。ちょうど、メアリー嬢が新しい髪飾りをつけ始めた頃からでしょうか」


その言葉に、デービットはぴくりと肩を揺らす。……やはりあの髪飾は、デービットが贈ったものらしい。


「婚約者以外の女性にプレゼントをすること。それが何を表すかーーー殿下も、ご存知では?」


普段なら言わないような、強い言葉が口をつく。


「……ちゃんと、リリアの分も用意していた」


『していた』ねぇ?

一つ、また一つと、ピースが埋まっていく。


「では、何故渡されないのですか?」


デービットは俯き、肩を揺らす。


「何故、だと? ……他の男と口付けをするような女に、渡す品物などありはしない」


「口付け、ですか?」


想定外の言葉に思わずそう尋ね返す。


ミカエルの態度から、何かあることは察していたが……まさか、そこまでの関係になっていたとは。


息をすることも忘れ、心の中でその事実を反芻する。


「あぁ、そうだ。しかも相手はお前の弟だぞ、ラファエル」


責めるようなその口調に、僅かに笑みが引き攣るのが自分でもわかった。


「本当に、そうなのでしょうか。私はあの愚弟に、そこまでの覚悟があるとは思い難いのですが」


これは自分にも跳ね返ってくる言葉だがーーーミカエルは10年以上、リリアちゃんに手を伸ばせなかった男だ。そんな所業ができるはずがない。


「庭園のベンチに座ったリリアに、跪きながら顔を寄せていたんだぞ? そうでなければ、何だと言うんだ……!!」


今にも机を叩かんばかりに拳を握るデービット。その瞳には、背筋が薄寒くなるような激しい嫉妬心が渦巻いていた。


庭園のベンチ。その言葉が頭の片隅に引っかかった。


……そういえば、ミカエルが上着を無くした日があった。ちょうどメアリーちゃんが髪飾りをつけ始めて、数日経った頃だった。


「……先日愚弟が、『庭園で寝ているリリア嬢を見た』と話していました。中々起きなかったので、上着をかけてその場を離れたと。その一瞬を、目撃されたのでは?」


「……誤魔化すつもりか、ラファエル?」


鋭い眼光が俺を射抜く。


ーーーでも、その程度じゃあ俺を御せない。


「いえ、そういうつもりでは。……もしデービット様が"実際に"唇が触れた瞬間を見ていたならば、私の知らない何かがあったと言うだけです」


デービットは言葉に詰まり、視線を揺らす。


おそらくミカエルの背後か遠目からそれを見て、勘違いしたまま去っていった。……大方そんなところだろう。


「リリア嬢は情の深い方です。そう簡単に、殿下以外の男性に心を開くことはないかと」


「そう……か。そう、だよな」


デービットは噛み締めるようにそう呟く。その顔に先ほどまでの厳しさはなく、口元は僅かに緩んでいるように見えた。


「部外者である私がこのようなことを言うのは差し出がましいかもしれませんが……嫉妬している人間は、酷く消耗するものです。いつの間にかできた心の隙間に、誰かが入りこむ事も珍しいことではありません」


部屋を支配する、しばしの沈黙。


気まずそうに俯いたデービットは、所在なさげに瞳を揺らしてから、何かを飲み込むように唇を噛んだ。


「……善処する。責め立てて悪かった」


しばらく経って聞こえてきた言葉は、想定よりも素直なものだった。


どうやら、相当堪えたみたいだな。


自分が嫉妬する側になって、ようやくどれだけ苦しいことかわかったらしい。


これで少しでも、リリアちゃんの心労が減るといいけれど。


どんなに未熟であったとしても、君の瞳に映るのは他の誰でもない。この男、ただ一人。


……それならば俺の役目は、道を整えることだけだ。君の人生という道が、幸福なものであるように。


俺はただ、未来への道を作り続ける。ーーー道の半ばで力尽きかけた、君の姿にも気付かずに。

お読みいただきありがとうございます!

✨ブクマとリアクションの合計数で番外編公開!✨

合計20→断罪執行前日 リリアとデービット

「僕はただ……お前に、愛して欲しかったんだ……」

彼の言葉は、リリアを繋ぎ止められるのかーーー


次回予告→屋敷で話すラファエルとミカエル

「ミカ、リリアちゃんを略奪する気はないの?」

その言葉の真意とはーーー



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