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『灯影百譚──見えぬものと、ひとの縁』  作者: にせもん


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第五十一話 灯台に来た手紙



 その島には、人が住んでいない。


 けれど、灯台だけが今も夜ごとに光を放っていた。


 かつては漁船の目印だったというが、今はもう航路も変わり、

 誰もその明かりに頼ってはいないはずだった。


 しかし、不思議なことがあった。


 月に一度、必ずその灯台に手紙が届く。


 差出人不明、宛先なし。だが、いつも丁寧な筆跡でこう綴られていた。


 「君に、海の音が届くように」


 灯守ともりは、小舟に乗り、その島へ渡った。


 潮風は鋭く、波は静かに、だが確かに脈打っていた。


 灯台の扉を開けると、中は意外にも整っていた。


 埃はなく、机の上には綺麗に重ねられた封筒の束。


 封は開かれていないのに、どこか読まれたような温もりがあった。


 その中に、一通だけ、宛名があった。


 それは、薄く消えかけた文字でこう記されていた。


 「遠野 とおの・みどり様」


 灯守はその名前に覚えがあった。


 かつて、とある港町で暮らしていた灯台守の娘――

 海に憧れ、よく父と手紙のやりとりをしていた少女。


 だが、ある年、父の乗った補給船が嵐で行方不明となり、

 少女はその後、音信不通になったという。


 手紙の内容は、海の様子や、今日見えた雲、灯の色について――


 そして、どの手紙にも必ず結びの一句が記されていた。


 「また、海で会おう」


 灯守は、積もった手紙を一つひとつ開き、読み上げていった。


 言葉には、時間が刻まれていた。

 失われた日々、送れなかった思い、言えなかった愛情――

 手紙は、時を超えて呼びかけていた。


 そして、最後の封筒を開けたとき、風が吹いた。


 その中には、短い手紙とともに、一枚の古い写真が入っていた。


 灯台守の男と、その肩に寄りかかる少女――


 裏にはこう書かれていた。


 「翠へ。海が怖くても、灯は消えない。

   だから、君もどうか、自分を照らし続けてほしい」


 灯守は、手紙の束をまとめ、灯台のてっぺんに上がった。


 夜、遠くの海に灯を投げるその場所で、

 全ての手紙を風に乗せて読み上げた。


 すると、その夜――


 向かいの大陸から、一隻の小舟が現れたという。


 それは、記憶を頼りに漕ぎ出したという老女だった。


 名前は、遠野翠。


 彼女は言った。


 「父の灯は、ずっと、わたしを照らしてくれていたんですね。

 どんなに海が遠くても、届くものがあるのですね」


 灯守は、灯台の下に一本の白い旗を結んだ。


 それは、読まれた手紙たちの“返事”として――

 海に漂い続けた想いが、ついにたどり着いた証だった。


 「伝えられなかった言葉も、

 時間が風となり、光となり、いつかは届く」


(第51話・了)

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