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『灯影百譚──見えぬものと、ひとの縁』  作者: にせもん


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第三十七話 断罪布の夜明け

 町の外れ、旧道沿いに建つ廃校に、一枚の“布”が現れるという噂があった。


 それは、真夜中にだけ現れる。


 人目のないところにふいに揺れ、風もないのにふわりと舞う。


 だが、それを見つけて手にした者は、みな、ある異変を訴える。


 「肩が重い」「誰かの声がする」「夜に夢で責められる」――


 いつしかその布は、こう呼ばれるようになった。


 「断罪布だんざいぬの


 灯守ともりが依頼を受けたのは、ある少女の話だった。


 名前は、柚月ゆづき。十五歳。


 大人しく、目立たないが、いつもどこか陰を帯びていた。


 ある雨の日、旧校舎の裏で、白い布を拾った。


 ただのハンカチのようなものだったという。


 それを持ち帰ったその夜から、異変が始まった。


 最初は、夢。


 無言の人々が柚月を囲み、責めるように見つめていた。


 次に、肩に巻き付くような重み。

 目覚めると、首筋に糸のような跡。


 だが、最も異様だったのは――少女の心が、日に日に変化していったことだった。


 「私は、なにかを赦されていない気がするんです」


 柚月はそう言った。

 だが、彼女自身には“赦されないこと”をした記憶はない。


 罪の意識だけが、布と共に増していった。


 灯守は、断罪布を実際に見て、直感した。


 これは――他者の罪を縫い付け、無垢な者に“肩代わり”させる布だと。


 夜、儀を執り行う準備を整えた灯守は、柚月のもとを訪れた。


 少女の肩には、もはや布が張り付いているようだった。


 白い布は血のような染みを帯び、文字のような模様が浮かび上がっていた。


 「この布は、本来は“告白”を縫うためのものだった。

 だが誰かがそれを歪め、“押しつける布”に変えてしまった」


 灯守はそう言って、封じの針を取り出した。


 “言葉のない刺繍”――それは、罪を赦し、元の主へ返すための技法だった。


 針が布に触れた瞬間、少女の体が小さく震えた。


 布が叫ぶように軋み、浮かび上がる過去の記憶。


 それは、柚月が通っていた小学校の教室。

 いじめ、罵声、無視――


 だがそこに、柚月の姿はなかった。


 その記憶は、柚月ではなく“加害者のひとり”が封じたものだった。


 「これは……私の罪じゃない……!」


 柚月の目に涙があふれる。


 灯守は頷き、最後の一針を“本当の名”の糸で締めた。


 その名は、かつて柚月を傷つけ、そして逃げた少女のものだった。


 糸が結ばれた瞬間、布がふわりと空に舞い、静かに崩れた。


 まるで、責める者も、責められる者も、どちらも解かれたように。


 翌朝、柚月の肩の重みは消えていた。


 彼女は静かに笑い、「あの人の罪は、私が背負うものじゃなかったんですね」と呟いた。


 灯守は黙って頷き、そっとひと針、彼女の袖に“花の刺繍”を添えた。


 それは、“傷の上に咲く赦し”の印だった。


(第37話・了)

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