第十二話 うそつきの灯
夜道に、ぽつんと一つだけ灯る明かりがある。
電灯でも、提灯でもない。けれど確かに“人を照らす”光。
それは、誰かがついた“うそ”を、そっと見守るために灯っている。
灯守がその灯に出会ったのは、通学路を外れた裏山の麓だった。
昔ながらの石畳道。
今では誰も通らないその小道の途中に、ぼうっと宙に浮かぶ光があった。
色は橙。ろうそくのようにやわらかく、しかし芯のように鋭さを持っていた。
近づくと、その灯の中から“声”がした。
「君、見えるんだね」
それは、青年のような声だった。
すこし照れたような響きで、けれどその声には――微かに“自嘲”が混じっていた。
「ぼくは、“うそつきの灯”」
宙に浮かぶ光が、ゆらゆらと形を変えていく。
やがてそれは、人の姿に近づいた。
細身の青年の影。けれど、顔はぼやけており、手足の輪郭も曖昧だ。
「誰かが“本当のこと”を言えなかったとき、その想いの“最後の灯”として、僕は生まれるんだ」
「つまり、君は“嘘の精”みたいなもの?」
「そう。だけどね、みんな“自分の嘘”には気づかないんだ」
灯は、くすくすと笑った。
「ある女の子がいたんだ。“わたしは平気”って、何度も言ってた。でも、そのたびに僕は生まれた。そして、彼女のそばにいた」
「じゃあ、彼女は……」
「……もう、いないよ」
灯はふっと揺れた。
「最期まで、“だいじょうぶ”って言ってた。僕は、ただ傍でその“嘘”を灯してただけ」
「けれど、あの子が死んだとき、誰も泣かなかった。“あの子は、いつも明るくて元気だった”って……」
「……それが、いちばん悲しい嘘だった」
灯守は、手のひらを伸ばした。
灯はふわりと、彼の指先にのった。
そこには、じんわりとした温かさがあった。
「でも、君がいたってことは、彼女の“本音”は消えてなかったんだ」
「……そうなのかな?」
「うん。誰にも届かなかったかもしれない。でも、君がずっと見てくれてた」
灯は、しばらく沈黙し、そしてぽつりとつぶやいた。
「……その言葉が、ほしかったのかもしれない」
夜風が吹いた。
灯は、ほんの少しだけ揺れたあと、ゆっくりと空へ上昇していく。
「ありがとう。君の言葉で、ようやく“消えてもいい”って思えたよ」
「うそつきの灯だって、“ほんとうの言葉”を待ってたんだね」
最後に、灯はまるで笑うように、ふわりと明滅した。
それは――誰かの“言えなかった涙”が、ようやく溶けた合図のようだった。
灯守は、ふと思う。
人は皆、少しずつ“うそ”をついて生きている。
けれど、その嘘が誰かを守ることも、ある。
ただ、本音を知っていてくれる誰かが、ほんのひとりでもいれば――
きっと、その人の“灯”は、優しく燃えるのだ。
(第12話・了)




