転生して川に!? 世界を救うために洗濯しろ!
目を覚ました瞬間、なんかおかしい感じがした。体がない? いや、どこかでおかしなことを言ってる気がするけど、いやでも確かに俺、体がない。
「おい、なんだこれ!?」
周りには青い髪の女性が立っていて、なんだかニコニコしてる。その顔を見て、俺はとりあえず反射的に叫んだ。
「うわぁ!? だ、誰だよお前!?」
その女性はさらににっこりと笑って、優しく答える。
「おはよう、転生おめでとう! 君は異世界に転生したんだよ。」
「え、え!? 転生!? どういうことだよ!?」
頭の中が混乱してる。体がない上に、異世界!? どこまでいっても頭が追いつかない。
「いや、待って! 俺、体がないんだけど!? しかも、異世界って…お前、何者だよ!?」
その女性はにこにこしながら、自己紹介を始めた。
「私はアクア・セレスティア。君をこの世界に転生させた“神”だよ。」
「神!? ちょっと待って! 神だって!? そんなのありかよ!」
「もちろん。君、転生してこの世界で英雄として活躍してもらうわけだけど、君は特別な存在だからね。」
「特別!? 俺、ただの人間だったんだけど!? そんな特別って…」
アクアは一瞬、何も言わずに俺を見つめた。その目は優しく、まるで“何も問題ない”と言ってるような感じだった。
「君は“川”として転生したんだ。」
「え!? 川!? 俺、川!? どういうこと!?」
もう、どうしていいか分からない。俺はただの人間だったはずだし、まさか転生して“川”になるなんてあり得ないだろ!
「そう、君は川。君の役目は、この世界を救うこと。」
「川がどうやって世界を救うんだよ!?」
俺は頭を抱えた。川として英雄になれるのか? どうやって? そもそも、川には体がないじゃないか!
アクアは少し笑いながら、俺の混乱を見て楽しんでいるようだった。
「心配しないで。君には特別な能力があるから、ちゃんと世界を救えるよ。」
「能力!? 川に能力って…それがどうやって世界を救うんだ!?」
アクアは、楽しそうに手を叩いて言った。
「君には、水流を操る力があるんだよ! 川の力で、悪党を倒したり、村を助けたり、できるんだ!」
「水流を操る力…!? そんなので世界を救えるのか!?」
「もちろん。君が水流を使えば、どんな困難も解決できるさ!」
俺は頭が混乱したままだった。川として転生して、悪党を倒す…その発想が全く理解できない。
「どうやってそれをすんだよ…川が悪党倒すって、無理だろ…」
アクアは少し考え込むと、にっこりと笑って言った。
「さぁ、試しにやってみようか! まずはあの岩を転がしてみて。」
「岩を転がす!? どうやって…!」
俺は渋々言われた通りにやってみた。すると、なんと、川の水流を意識的に操ると、目の前の岩が少しずつ動き始めた。
「できた!?」
「ほら、できた! これが君の力だよ!」
「まさか…こんなことで、世界を救うって言われても…」
アクアは、再びにこにこしながら言った。
「君の力を活かして、これからもっと大きなことができるようになるから、安心して。」
「ちょっと待って、岩を転がすだけで世界が救えるって言うのか?」
「うん、君の水流を使えば、色んなことができるんだよ!」アクアはニコニコと楽しそうに言った。いや、待てよ、ほんとにそれで世界を救う気なのか?
「いや、無理無理! 川が悪党を倒すとか、どんだけ雑な英雄なんだよ! それこそ、転生した意味がわからん!」
俺は思わず愚痴をこぼした。でも、アクアは全然動じない。むしろ、俺の困惑を楽しんでいるみたいだ。
「君が川として世界を救うんだよ。だって、君の水流で悪党を流すことができるんだから。」
「いやいや、流すって言っても…どんな悪党が水流で流されるんだよ!? そんなの本当にいるのか?」
「いるよ!」
アクアが自信満々に言ったその瞬間、俺は思わず唖然とした。ほんとにこの世界、なんでもありか?
「さ、次は試しに町の服を洗ってみよう!」
「服を…洗う!? 川が洗濯するのか!? ちょ、ちょっと待って! それが世界を救うって言うのか!?」
「そうだよ、君が洗濯することで、町の人たちが喜んで、世界が浄化されるんだよ!」
「浄化って…どういうこと!? 浄化するのに川が洗濯しなきゃいけない理由は何!?」
アクアは目を輝かせて答えた。
「だって、君の力で水を使うことで、みんなの心も洗われて、平和な世界が作れるんだから!」
「心を洗うって…洗濯で!? なんだそれ!!?」
俺は一瞬言葉を失った。こんな意味不明なことで世界が救えるのか? でも、アクアがあまりにも真剣に言ってるから、つい言葉を飲み込んでしまった。
「まあ、やってみなよ。まずはこの洗濯物を川で洗ってごらん。」
「うわ、ほんとにやるのかよ!? 川として、洗濯なんて…!」
俺はやけくそになりながら、川の水流を使って洗濯物を洗ってみた。すると、びっくりしたことに、洗濯物が綺麗に流されていくじゃないか。
「うわ、できた!? ほんとに洗濯できた!?」
「すごいでしょ!? これが君の力だよ!」アクアは拍手しながら喜んでいる。
「いや、すごくないし! これが本当に“英雄”の仕事なのか!? こんなことで、世界が救えると思ってんのかよ!」
「はい、世界が救われたよ! 町の人たちは君に感謝してるし、君の水流がみんなを幸せにしたんだから!」
「それ、洗濯物がきれいになっただけだろ!! 俺、まさか洗濯で英雄とか…なんなんだよ!?」
「だって、君の力でみんなが笑顔になったんだから、それが英雄だよ! 君、立派に世界を救ってるんだ!」
「…洗濯で?」俺はもう言葉を失っていた。
アクアはニコニコしながら言った。「そう、洗濯で。」
俺はあまりにも自分が馬鹿みたいだと思ったが、なんだか妙に納得してしまった。洗濯、だと? こんなことで世界が救われるなんて、正直、信じられないけど、アクアが言うなら…まあ、そうなんだろうな。
あれから2年が経った。俺、川として転生してから、色々なことを学んだし、正直もう慣れてきた。でも、最初の頃の混乱が嘘みたいに、今はもう平和な日常を送っている。
「いや、待て! これ本当に俺の人生か!? 川として英雄って、あまりにもおかしいだろ!!」
あの時から、町の洗濯を始め、最初はただの水流を操る力だけで喜ばれていたけど、今や俺は町の「川の英雄」として、あちこちで頼りにされている。でも、振り返ってみると、本当にこれが英雄の仕事かって言うと…。
「川の英雄って、まさかこんなに忙しいとは思わなかったよ…」
さっきも、洗濯物を流す依頼があったばかりだし、今日は水不足を解消するために「川の流れ」を調整してきた。まあ、全部川の仕事だけど…なんだか疲れてきた。
「ちょっと、アクア! なんでこんなに川として働かなきゃいけないんだよ!!」
あれから、アクアとの関係も変わった。最初は転生させた神様として、ちょっと距離を感じていたけど、今や気さくに喋るし、時々一緒に水遊びしてる。あのアクアがこんなに人間っぽくなってるなんて、ちょっと驚きだ。
「だって、君が川として活躍してるんだから! すごいじゃない! みんな君に感謝してるんだよ!」
「いやいや、感謝されるのはいいけど…川がヒーローって、どうなの!?」
俺は思わず大きなため息をついた。洗濯、浄化、水不足解消、なんでもかんでも俺がやらなきゃいけないのか。まるで、川というよりも“川の清掃員”みたいだ。
「なんだかもう、洗濯物が綺麗になっただけで褒められるって、どういう世界だよ!」
アクアはそんな俺を見て、軽く笑った。「でも、君のおかげでみんな幸せなんだよ。君がいなければ、町はずっと困ってたし。」
「そ、そうだけど…でも、もうちょっと楽な仕事があったらよかったな…」
そんなことを言ってると、突然、目の前に現れたのは見覚えのある人物。なんと、あの最初に転生させてくれた神様、アクアだった。
「いや、だからもう転生して、川としてヒーロー活動してるんだから、もうお腹いっぱいだよ!?」
アクアがニコニコしながら言った。「でも、君が世界を救ったっていうのは本当だよ。最初の洗濯から、君はしっかり役に立ったんだから!」
「だからさ! 洗濯だって! 何度も言わせないでくれよ! 川の英雄、まさか洗濯で英雄って!?」
アクアはしばらく黙って、ぽつりと言った。
「でも、君の力が世界を変えたんだよ? その小さな力が、積み重なって世界を少しずつ良くしてるんだ。」
「…うーん、まあそうだけど。」
「ね、君の能力を使って、また新しいことを試してみない?」
「何だよ、また新しいチャレンジ!? もう洗濯はこりごりだって!」
アクアはちょっと真剣な顔をしてから、にっこりと笑った。
「じゃあ、次は川の水でみんなを笑顔にしてみよう!」
「なにそれ!? 川の水で笑顔!? どんな魔法だよ!?」
俺は思わずツッコミを入れた。でも、アクアが笑顔で答える。
「それが君の力だから、ね?」
「…また洗濯か!? それとも、また水流で世界を救うのか!?」
結局、俺はまた洗濯物を流す役目をやることになったけど、考えてみると、別に悪くないのかもしれない。川として、こんな形ででも役立つなら、別に文句はない。
「まあ、川として生きるのも悪くないか…。でも、ちょっとだけ、力を使いすぎるのは控えめにしような。」
「そうだね! でも、君の力があれば、きっと何でもできるよ!」
「それなら、今度こそ『洗濯の魔王』として名を馳せるか…!」
アクアは爆笑した。「それはちょっと無理があるかもね!」