七話 とりあえず和解
栞と一緒にゲームをした翌日の朝、いつも通り学校に向かう。
「おはよう、優親」
「おはよ、好透!」
教室に入り優親に挨拶すると、彼は手を振り笑顔で返してきた、相変わらず元気である。
「おはよう、天美、伴田」
高畠が横から、少し神妙な顔をしてやってきた。
今日も今日とて栞とくっついて登校してきた。今彼女は自分の席で笹山らと喋っている。
「あぁ、おはよう高畠」
「おはよー」
俺と優親も挨拶を返す。
高畠は神妙な顔を浮かべたままだ、何か用事でもあるのだろうか?
「とりあえず天美、今ちょっといいか?一昨日のことでな…」
「あぁ、そういう事か。いいよ」
優親に断りを入れて、高畠についていく。
教室から出ると佐藤がおり、使われていない教室がある方向へ行く。
朝は皆教室に向かっており、わざわざ特別教室などがある側には基本来ないため、そのエリアの手前で足を止める。人気のないこの場所で佐藤と高畠が並び、対し俺が向かい合う
「天美、この前は本当にごめんなさい!」
立ち止まると佐藤はすぐに頭を下げて謝ってきた。
「あぁ、まぁ…いいさ。頭を上げてくれ」
さすがにこんな時どうすればいいか分からないのでそんな事しか言えなかった。
「俺からも謝らせてほしい、本当に悪かった!」
高畠も頭を下げた。きっと佐藤は恋人なので、彼女のしたことが他人事として捉えられなかったのだろう。律儀な男である。
「あぁ、大丈夫だから頭を上げてくれ」
さすがに気まずいのでマジで頭をあげて欲しい。謝罪は受け取ったのでそれで良しだ。
その後、佐藤からあのような行動に至った理由を教えてもらった。
つまるところ俺が、栞の幼馴染であることを利用して彼女に付き纏っていると思ったらしい。
俺があんな可愛い子に好かれるわけが無い、それなのに俺たちが手を繋いで登下校していることから、俺がベタベタと栞にくっついて彼女を困らせている可能性がある…と。
池田先輩の名前が出てきたのは、彼が栞と仲良く話している場面を見たのだとか。
しかし先日栞からも聞いたように、彼女は池田先輩のことを鬱陶しく思っている。
そのことを佐藤に伝えるとまた謝られたがそれは仕方ないと断った。
「アンタらのあの甘ったるい空気吸わされたらさすがに勘違いだって分かるわよ…」
佐藤が呆れたように笑った。
たしかに最近人目も憚らずにくっついてるからなぁ…昨日なんて見せつけるように抱き締め合ったし…
他人から見たら普通に付き合ってると思われるわマジで。まぁ栞か他の男と付き合うよりは、そっちの方がいいんだけどさ。
「それに昨日…夜大に私の味方でいろって言ってくれたでしょ?だからその、アンタの事見直したって言うか…その…」
「要は嬉しかったって事だよ。天美の優しさがな」
言いずらそうにモゴモゴしている佐藤の言葉を高畠が代弁した。佐藤がコクリと頷く
「優しさというか、そういうものじゃないか?自分の好きな人に傷付いて欲しい奴なんていないだろ」
もしこれが栞と俺なら…そう考えると他人事のように思えなかった、だから高畠に佐藤の傍にいてやれと言ったんだ。
スマホで時間を確認すると、もう良い時間だった。
「そろそろHRだ、戻ろうぜ」
「え?あっやべ!」
高畠と佐藤も時間を見て慌てて戻ろうとする。自身の教室に戻ろうとした佐藤が振り返った。
「天美、ごめんね。それとありがと!」
そうにこやかに告げた彼女は、手を振りながら教室に戻っていった。
「そっか、誤解だったんだね」
朝に佐藤から聞いたことを優親に話すと、彼は安心したように言った。
「とりあえず納得してくれたっぽいし、これで一件落着だと思うぞ」
「好透は昔から絡まれるというか…なんかそういうのあるよね」
栞は可愛い。だからこそ、幼馴染というだけで彼女と仲良くしている俺が気に入らないのだろう。というか実際にそう言われたことがあり、そのことは優親も既知である。
「俺に文句言ったところで栞が俺を拒絶しなかったら離れる理由にならんし、わざわざ奴らの言葉に合わせる意味が無いってことを分からないんだろ」
「そうだね。こう言っちゃあれだけど、頭悪いよねぇ…」
俺を栞から遠ざければ彼女と付き合えるとでも思っているのだろうか?
実際は逆で、より彼女に不快感を与えてしまい、彼女から避けられるだけというのを分からんのだろう。
その日の帰り、栞に改めて今日の朝、佐藤に言われたことを話した。
「ふーん、私が付き纏われてるねぇ……普通に考えたら手を繋いでる時点でそんなことないかって思う筈なんだけど…」
栞は理解が出来ないと言った様子で言った。だが彼女の言っていることはなんらおかしくないので頷く。
「でも、意外と話してみるもんだな。高畠が間にいたとはいっても、取り敢えずは和解みたいな感じになった訳だし」
少なくとも佐藤の反応を見る限りそんなに悪感情は抱かれていないだろう…と思う。
「……今までは言われっぱなしだったってこと?」
「…というと?」
少し暗い声色で栞が尋ねてきた。
栞には、俺が何度か文句を言われてきたことを話していない。つまり今回がこういう事は初めてであるっていう体でいた。だからすっとぼけたのだが、何故だか彼女は今までのことも知っているようだ。
「私知ってるんだよ?好透が、一昨日佐藤さんに文句を言われたみたいに、中学の時からも何回か言われてたんでしょ?」
「…栞にあんまり心配掛けたくなかっただけだ、ごめん」
気まずさのあまり栞から目を逸らす。
栞は優しい。だからこそ心配してくれているのだと分かる。
「そうじゃないんだ、私こそごめんね。今まで好透がその事話してくれるの待ってただけだから…知ってたのにね」
栞はそう自嘲気味に告げ、彼女の腕に力が入る。まるで俺の事を離さないとでも言うように。
「いや、栞が謝ることじゃないだよ。言わなかった俺が悪い」
さすがにこれを栞のせいにしたくない。
しかしそう言ってから、彼女は『私こそ』と言った…つまりお互い様だということに気付いた。
「…いや、これからはこういう事があったらちゃんと話すよ。逆に心配かけるかもしれないからな」
「うん、そうして!私もちゃんと話聞くからさ!」
栞が眩しい笑顔を向けてくれる。
彼女との幸せな時間、それを絶対に守ると、改めて胸に誓った。




