五話 栞の得意分野
今日の体育はバスケであり、俺たち男子チームの試合が終わり、次は女子チーム試合である。コートのセンターから半々に分かれて、両者がにらみ合う。
栞と笹山は同じチームのようで二人でなにやら言い合っているが、恐らく頑張ろう的なことを言っているんだろう。
二人の表情にはやる気が満ちていた。
「どーして皆、好透のことが気に入らないんだろうね」
優親が憤っている。おそらく先程の事を言っているのだろう、確かに多数は嫌そうな顔をしていた。きっと俺が栞と仲良くしているのを見て、嫉妬しているに違いない。
「まぁ俺は陰キャだしな、隅で丸まってる方が似合うとか思ってんだろ」
「お前のような陰キャがいるか」
高畠が何処ぞの世紀末漫画の主人公のようなツッコミを入れてくる。確かに俺はババアではないが、しかして陰キャではないのだろうか?
そんな高畠の言葉に優親がうんうんと頷いている。
「それね。部活に誘われて嬉しいとか返せるのはそれなりにコミュニケーション能力ある方だと思うけど。陰とか陽とかじゃなくて、普通なんじゃないかな」
「少なくとも俺はいい印象を持ったぜ、そこの奴らよりはよっぽどな」
高畠が顎をしゃくって横にいる、先程俺のことが気に入らなかった奴らを示す。
あまり気にした事はないが、この陽キャ二人がそう言っているのなら胸を張っていいのかもしれない。
「そうか……そう言ってくれると助かるよ。なんつーかそのー、まぁ二人ともありがとう」
とはいえ照れるもんは照れる。今までそんな事言われたことがないので少したじろいでしまう。そんな俺を見て、二人は楽しそうに笑う。
「そういうとこだぞ、素直に礼が言えるならマジで陰キャじゃないと思うぜ」
高畠の爽やかフェイスが輝く。おっといかんこりゃ眩しい。
「僕は好透のそういうとこ、好きだよ」
優親がそっと微笑み、ほんのり頬を赤くしながらながら告げる。なんとなく意味深な気がしないでもないが、触れたら負けな気がするので放っておくことにする。
「そりゃどうも」
話もそこそこに、試合に目を向けた。
女子たちの試合は、俺たち男子の試合に比べて大分拮抗している。
それでもそれは最初のうちで、時間が経てば個々人の体力の差によって動きに違いが出てくる。
栞たちのグループは比較的動けており、栞は持ち前の運動神経で大活躍だ。
これが彼女の魅力の一つだ。活き活きとしていて惚れぼれとしてしまう。
「いやー、お前の彼女スッゲェな。天美もだけどあれで帰宅部ってどうなってんだ」
高畠が関心したようにそう言った。
俺の運動神経や体力は鍛えたものによるものだが、栞はあまり勉強が得意ではない反面、運動神経と体力共に優れた才能があり、並の男子よりは圧倒的に動ける。さながらフィジカルお化けってとこだ。
「栞のあれはほとんど才能によるもんだ、そんなに鍛えてねぇのにあの動きとか正直イカれてるよ」
「え、長名さんってあれで鍛えてないのヤバ」
マジで栞はそんなにトレーニングをしてない。昔はあの体力に付いていけずに苦労したもんだ。
「ってかスゲェ動きだなマジで、あれなら下手な男より全然やれるぜ」
腰に手を当てている高畠が、神妙な顔をしながら言う。運動が出来るからこそ分かることもあるのだろう。彼の言葉に頷きつつ、もう一人の女の子を指さして言った。
「確かにな、けど笹山さんも大概だろ。全然動きに衰えがない」
「ほんとだね。長名さんが目立ちすぎて気付かなかったけど、笹山さんもよく動いてる。ちゃんと長名さんに付いていけてる」
「──天美って意外とよく見てんのな」
優親がほぇーと言いながら感心している。
ウチの学校はあまり運動に力を入れていないので、陸上部を除きどの運動部も程々の実力しかないと優親から聞いている。
なのでここの生徒は基本的にスポーツのレベルはそう高くない。学校外でやっている奴らを除いてはだが、ウチのクラスにはそういった奴らがいると聞いたことはない。
女子チームの試合は栞たちのチームの勝ち。もはや最後は栞無双となっていた。あいつスゲェ。
試合が終わり栞がこちらへ駆け寄ってくる。
「好透!勝った、勝ったよ!」
功労者の栞が俺に飛び込み抱き着いてきたので受け止めてその頭を撫でてやると、やはりというか嬉しそうにぐりぐりと額を押し付けてくる。
「お疲れさん、さすが栞だな。おめでとう」
「えへへぇ♪」
だらしない表情を浮かべながら、俺の胸の中で気持ちよさそうにしている栞を見ると癒されてくる。
「──もはやここまでくると嫉妬すらしなくなってくるね」
「まったくだ、甘ったるくて仕方がない」
「いいなぁ……」
優親と高畠が呆れたように笑っているが、その後ろでポツリと笹山が独りごちた。
しかしそれはきっと栞にではなく、俺に向かって言ったのだと…そう思った。
それでも彼女に対する違和感は拭えないままだった。




