08 最低の決心
翌朝、ノアは朝食をいただいた後すぐに自分の屋敷に帰り、父のレノスに王城での出来事などを話した。
「なるほど、そういうことか」
レノスは難しい顔をしながら考え込み、そして眉間にシワを寄せながら話し始めた。
「やはりゼストはそういう手段を使っていたのか。全く、王族の名折れだな」
「公爵家の当主がそんなこと言っていいのかよ…」
「別にいいだろ。誰かに聞かれているわけでもないし」
レノスは得意げにそう話す。
まあ確かにこの部屋にはノアとレノス以外に誰も居ないのだが、それにしてももう少し用心して欲しいものだ。当主として。
「まあそんなことはどうでもいいとして。問題は、これからのお前への対応だな」
「……」
ノアはスッと目を逸らした。
何せ王族にあれだけの無礼を働いたのだから、流石のノアでも気まずくなってしまう。
普通なら終身刑モノだが、多分この人なら…
「はぁ…仕方ない。とりあえず明日にでも頭を下げておくよ」
レノスはため息を吐きながら足を組んだ。
「ありがとう」
優しい父の目を見て軽く笑顔を向けつつ、感謝を伝える。
それにレノスも一瞬笑顔を返した後、用意されていた紅茶を一口飲んだ。
「ま、何がともあれ、フェリスちゃんが無事でよかったよ」
「俺の心配はしてくれないのか?」
「お前の心配なんてする必要ないだろ」
「……」
はたから見るとただのクズ親父であるが、実際のところノアの安否を心配する必要はないのだ。
「何せお前は、人類最強の剣士、だろ?」
そう、ノアは人類最強の剣士である。
これは何の虚言でもなく、ストリジア王国が主催する武闘祭で優勝したといった実績からそう呼ばれているのである。
そんな息子を持つと流石に誇らしく思ってしまうようで、レノスは楽しそうに胸を張って口をベラベラと滑らせている。
「いやぁ…あの小さくて非力だった息子があの武闘祭でまさか優勝するとは夢にも思わなかったなぁ…。それもこれもあの神剣__」
「もうわかったからやめてくれ。とりあえず落ち着いてくれ」
これ以上話されたら恥ずか死ぬ気がしたのでノアはレノスの両肩を掴んで話を強制的に中断させた。
「ったく…俺の前でそんな話しないでくれよ」
「あははっ、悪い悪い。つい、な」
「そもそもあの試合は…」
ノアは歯切れが悪そうにボソッと呟いた。
その言葉で何のことか察したレノスは先ほどの言葉を訂正するように口を開けた。
「ああ、わかってるよ。あれは神剣とか関係なく、単純にお前の能力だってことぐらい。そして、お前が誰よりも努力してたことも」
その言葉を聞いて安心したノアは下に向けた顔を上げ、紅茶を一口飲んでから立ち上がった。
「しばらくは注意してないとな。ゼストに何されるかわかったもんじゃないし」
「まあ、あれだけの無礼を働いたんだから、当然っちゃ当然だな」
レノスはニヤニヤと笑いながらこちらの表情を窺ってくる。
「味方になってくれないのかよ」
「ははっ、俺だって迷惑かけられてる側なんだぞ?少しは申し訳なさそうにしたらどうだ?」
「はいはい、申し訳ございませんでした」
ノアは全く申し訳なく思ってなさそうに頭を下げる。
「全く、困った息子だ」
「そう育てたのはあんただけだな」
「あぁ?言うようになったなお前っ!!」
少し挑発してみると、レノスから強めの一撃が背中に当たった。
「いってぇな…こういう教育してるからこういう息子になるんだぞ?」
「間違いねぇな!お前は自分の子供にこんな教育すんなよ!」
「言われなくてもわかってるわい」
自分の子供か…。
それは多分、フェリスとの子供だろう。
きっと小さくて可愛いんだろうな。
この人にとってのノアもそういう存在だったはずなんだろうけど、一体どこで道を間違えてしまったんだろうか。
「何ボーッとしてんだ?エ○いこと考えてたのか?」
「よくわかったな。普通にキモイぞ」
「いやそれはお前がな」
なぜか心を見透かされてしまった。
これが親子というやつなのだろうか…!
うーん、ここまで見透かされてしまうと普通に嫌だな。
でも、きっとノアも自分の子供の心が読めるようになるだろう。
(俺は絶対にここまでキモくはならないぞ…!!)
父親に対して非常に失礼なことを考えつつ、できるだけ子供の心を読まないようにすることを決心するのだった。