03 気持の低下と物理の落下
そしてノアが向かった先はフラクシア王国の王城、つまりゼストがフェリスを呼び出した場所だ。
ノアの家は公爵家であり、許可がなくてもすんなりと城内に入ることができる。
というわけで城内に入り込んだわけだが、索敵系の魔法が使えないので二人がどこにいるのかはわからない。
(このままじゃ手遅れになるかもな…)
無策に探したところで余計に時間がかかるだけ。
(仕方ない、アレを使うか)
普段使わない魔法を使って何とか見つけ出すことにし、ノアは自身に身体強化の魔法をかけた。
そして結局無策で城内を駆け回った。
誰にも見えない速さで駆け回り、何とか警備の目を掻い潜ってゼストの部屋まで辿り着いた。
(ま、ここが一番怪しいな)
ゼストのことだ。どうせ部屋に連れ込んでいるに違いない。
てなわけでノアは扉に耳を当てて部屋の中の声を拾おうとした。
だが流石は王城と言うべきか、普通に耳を澄ませても音は聞こえてこない。
(はぁ…いい造りしてんな鬱陶しい)
ノアは仕方なく身体強化を耳にかけ、聴力を上げてもう一度扉に耳を当てた。
すると微かではあるが、欲望を剥き出しているゼストとそれを何とか防ごうとするフェリスの声が聞こえてきた。
「ほ、本当にやめてくださいっ!」
「黙れ!お前は今日から俺の女になるんだ!!黙って受け入れやがれ!!」
(アイツ__っ!!)
ノアは居ても立っても居られなくなり、何も考えずに思い切り扉を開けた。
「フェリスを返してもらいましょうか」
「はっ?お前、どうしてここに!?」
「ノアっ…!?」
見てみると、ゼストはベッドでフェリスを無理やり押し倒そうとしていた。
フェリスは何とか抵抗していたようだが、ゼストは流石は魔剣士といった感じの力強さで押し倒した。
「は、離してくださいっ__!!」
「はっ!それは無理だ!これは合意の上だからなっ!」
「っ!?」
(合意…だと…!?)
まさかフェリスが許したのか?
そんな疑問が脳内に浮かぶ。
「ほ、本当なのか…?」
「っ!…」
「はははっ!!ほら言ったろ!!これは合意の上だと!!」
ゼストはフェリスの上でノアを嘲笑う。
そしてノアの焦りの感情は加速して行く。
「本当…なのか…?」
汗をダラダラと流しながら訊くと、フェリスは嫌そうに首を縦に振った。
「ははっ!そういうことだ!さっさと立ち去れ!!」
ゼストはそう言ってからこちらから目を逸らし、再びフェリスに襲いかかった。
「ほ、本当にそれだけはやめてくださいっ!!!」
「ああ!?お前は今日から俺のモンになるんだよ!!だから黙って従え!!」
ゼストは乱暴にフェリスを襲おうとする。
その時、ノアの中で何かが切れた音がした。
ノアは無心でゼストの肩を掴んで思い切り引っ張った。
「ああ!?何をする!?」
「離れてください。彼女は、俺の女ですから」
ノアは自然と冷徹な目を向けた。
「何だその目は!?私に逆らうのか!?」
ゼストは怒りを深めながら胸ぐらを掴んでくる。
それに対し、ノアは至って冷静な表情で返答する。
「申し訳ございません。私にも譲れないものがありますので」
そう言ってフェリスの方を向き軽く笑顔を向けた。
「さあ、帰ろうか」
「う、うん…」
そしてフェリスをお姫様抱っこし、窓を開けてゼストの方を向いた。
「おい!貴様ただでは済まないぞ!!」
「ええ、いかなる罰も受け入れます…。だが、もうフェリスには手を出すなよ??」
ノアは冷めた目を向けながらそう言ってから窓から飛び降りた。
「え、ちょ__!?」
フェリスは自由落下が始まった瞬間、フェリスは驚きの声を上げた。
それも仕方ないだろう。何せゼストの部屋は王城の上層階にあったのだから。
普通に飛び降りたらまず生きてはいられないだろう。
そう、普通ならの話だ。
「大丈夫。これぐらいの高さなら!!」
ノアは身体強化の魔法を全身にかけ、落下の衝撃に備えた。
そして落ちること4秒後、ノアは地面に勢いよく着地した。