01 国王と婚約者
「今回も大義であったぞ、『ブライトネス』よ」
フラクシア王国の王城内にて、王国最強の冒険者パーティ『ブライトネス』はいつものように国王から賛辞を贈られていた。
「ありがとうございます父上。ですが、我々にとっては当然のことにすぎません」
そして国王の言葉に対して感謝の言葉を述べるのはブライトネスのリーダーであり、そして国王の息子であるゼスト・フラクシアだ。
ゼストはさも自分の功績かのように誇らしそうに胸を張り、父に対して自慢するかのように話している。
「この程度のこと、国王陛下である父上の息子たる私なら朝飯前です」
「はっはっはっ!言うようになったなゼストよ!」
国王は機嫌良さそうに笑いながら玉座から腰を上げ、そしてこちらまで歩いて来た。
「よし!今回はお前が望む褒美をやろう!どうだ?金でも女でもなんでもいいぞ?」
「っ!ありがとうございます!!」
親子は楽しそうに語り合い始めた。
「なら妻が欲しいです!」
「おっ!いいぞー!誰がいい?」
「そうですね…例えば、ヴィクトリア家の長女とかですかね!!」
「おぉ!いいとこ行ったな〜!」
そんな二人の会話を聞き、ブライトネスの一員であるノア・アルカルナは心が閉まるような感覚に襲われた。
だがこの二人に対して口出しするのはどう考えても悪手。
最悪家ごと滅ぼされかねない為、ノアは黙って膝をついていた。
そしてその間にも二人の会話は進んでいて。
「よしっ!構わんぞ!ワシから話をつけておこう!」
「ありがとうございます!」
「ちょっと待ってください」
とうとうノアは我慢できず、立ち上がって話に介入してしまった。
「ヴィクトリア家の長女は私の婚約者ですので、その話を受け入れることはできません」
ノアは冷静に、そして優しい口調で話すが、ゼストは当然ご立腹の様子で。
「あぁ!?お前、私に指図するのか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、彼女は私の婚約者であると既に世間に知れ渡っています。今から無理やりゼスト様の妻になられると、世間からの評価がどうなるか…」
ノアは自分の婚約者が取られることを阻止するべく、冷静に分析しながら話す。
そんなノアの態度にゼストは苛立っているようだが、世間の目の大切さを知る国王はノアの言葉に対して共感の意を示していた。
「確かに、それは少しマズいな。国民からの評価が下がれば絞れるものも絞れまい。最悪反乱になる可能性もある。この不安定な情勢の中内乱などしていられる余裕はウチにはない。ゼストよ、今回ばかりは他の女で許してはくれないか?」
「…わかりました」
ゼストは納得いっていなさそうに首を縦に振り、その場を去っていった。
そしてそれについて行くようにブライトネスのメンバーは王城から去って行った。
今日はそのままの流れで解散することとなり、ノアは一人である場所に向かった。
「おお!よく来たねノアくん!」
「お久しぶりです、フェイズさん」
ノアが向かった先はヴィクトリア公爵家の屋敷であり、中に入ると当主であるフェイズ・ヴィクトリアが出迎えてくれた。
「もお、お義父さんと呼びなさいと言っているだろう」
「あはは…ごめんなさい。でも、まだ婚約ですので」
「そうだったっけ?私はいつ子供が産まれても構わないよ?」
「それは飛ばしすぎです」
そんなことを言いながら笑い合った後、ノアは婚約者の部屋に向かった。
「フェリス、俺だよ」
「どうぞ」
ノックをすると扉の向こうから美しい声が聞こえ、つい心臓が高鳴ってしまう。
彼女に会えるとなるとついこうなってしまう。
でもこんなカッコ悪いところを見せたくはないので一旦心を落ち着けながら中に入る。
「いらっしゃい。ノア」
「ああ、久しぶりだな。フェリス」
ノアは部屋に入るならフェリスの横に座り、そこで軽く唇を交えた。
「もう、来たばっかりでしょう?」
「ごめん、つい我慢できなくなって」
「まあ、いいんだけどっ」
そうして二人はもう一度唇を合わせ、そのまま甘い時間を過ごした。
これがノアの日常であり、そして守りたいものである。
こんな平和な時間がずっと続けばいいと、心から願う。
だがノアにとって心が休まる時間はそう長くはない。
そう、ノアにとって幸せな時間など彼らと居ない時間だけである。
彼ら、最強で最悪の冒険者パーティ『ブライトネス』と離れているときだけ。