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13.「こういう話」に弱い国王様

 


「そなたは、大変な人生を送ってきたのだな……っ!」

「えっ」


 ずびずびと鼻をすすりながら、ティナを見つめる男は、先ほどまで厳しい表情でティナを睨んでいた国王である。


「私、こういう、『昔、虐げられてた系』の話に弱くって……。あの、最近読んだ恋愛小説で似たような設定があって……いや、小説みたいな人生って失礼か……ごめんね……」

「陛下! お気を確かに!」


 騎士が国王にハンカチを差し出す様子を見て、ティナはどっと力が抜けていくようだった。

 緊張が緩んだことで、背中からは汗が噴き出した。せっかくアリスティドが用意してくれたドレスと背中がぴったりと汗で張り付いている。


「せっかく、国王としての威厳を保とうとしたんだけど無理だったかも……恋愛小説好きなこともバレちゃったし……」

「陛下、まだ巻き返せます!」


 騎士は、王座を揺さぶるようにして国王に声をかけ続けるが、当の国王は、しょんぼりと項垂れている。

 ティナは、アリスティドが『王宮内の人間は頼りにならない』と言っていたことを思い出す。


(頼りにならないって『信頼できない』って意味じゃなくて、本当に頼りないってことだったんだ!?)


 だが、ティナは騎士の殺気を思い出して、ぐっと気合を入れ直す。


(この騎士の殺気は本物だったもの。最後まで気を抜かずに、最後の一押しよ。私は、国王をも騙す天才詐欺師!)


 ティナは自分自身を鼓舞させて、口を開く。


「国王陛下、無礼ながら、私からお願いがございます」

「うん、できることなら何でも聞く」

「陛下!」


 騎士の咎める声が聞こえるが、国王が、話を聞いてくれている。

 ティナは、ほとんど自分の勝利を確信していた。


「私は、これから王太子殿下とともに研究や学問に取り組んでいきたいと考えております」

「アリスティドと?」


 ティナは、ギュッと胸の前で手を組んだ。


「……殿下は、私の身分には関係なく、中身だけで判断してくれたのです。そして、言ってくださったのです『一緒に頑張っていこう』と」

「なにそれ、めちゃくちゃカッコいいじゃん……」


 実際に言ったのは、『一緒に悪役になって』という国王が聞いたら、卒倒しそうな言葉ではあるが。

 ティナは、頬を紅潮させ、手を震わせ、瞳をきらきらと輝かせて、こう告げる。


「私は、王太子殿下をお慕いしております」


 その言葉で、場の空気が変わる。

 胸に手を当てた国王は、ぽっと頬をピンクに染めた。


「な、なにそれ……おじさん、きゅんきゅんしちゃう……っ!」


(うん、空気は私が支配した!)


 ちらり、とアリスティドを見れば、いつもの軽薄そうな笑みではなく、あっけにとられたような顔をしている。

 アリスティドは、少し照れたように咳払いをすると、国王に向き直った。


「父上、彼女を婚約者という形で、彼女を王宮に滞在させることは可能でしょうか」

(さすが、アリス。情報を汲み取ってくれるのが早い)


 想定通りの流れに、ティナは口角を上げる。しかし、国王は甘ったるい表情を引き締めると、渋い表情に変わった。


「……うーん、協力したいのはやまやまなんだけどね? これは国家間の問題でもあるからなぁ」

「彼女の研究は、必ず国の役に立ちます。それに、私自身も彼女に好意を抱いております」

「えっ、この息子が!? 恋しちゃってるの!?」


 国王は困惑したように、アリスティドを見つめた。幻の生き物でも見るかのような目である。


(アリス、人に興味なさそうだものねぇ。国王陛下の困惑もわかるわ……)


 しばらく考え込むような素振りをみせた国王は、きっぱりと言った。


「アズーラには内密で、ということなら無理だね」


 国王の主張は最もだ。いくら家を追い出された令嬢であっても、勝手に国で匿うとなれば、それは国際問題に発展しかねない。

 特に、戦争大好きアズーラの軍部は黙っていないだろう。


「ちなみに、アズーラにて彼女についての聞き取りをしたところ、もう死んだ者として扱われているとのことで」

「そうは言っても、アズーラが戦争の口実を探した時にだな……」


 ごほごほっ、とティナは咳をするふりをした。

 そのタイミングで、ティナはアリスティドに寄りかかるふりをして小声でささやく。


「……!」


 アリスティドは、こちらを驚いたように見た後に、いつもの嘘っぽい笑みを浮かべた。


「父上、それではどうでしょう。彼女に、適当な名前と爵位を与えて我が国の人間だったことにしてしまうというのは」


 ティナは言ったのはこうだ。

『私の身分を新しく作るように提案して』と。

 すぐに理解をしてくれ、適切な言葉で行動をしてくれるアリスティドに、ティナは心の中で拍手を送っていた。


「……なるほど。あくまで、彼女は最初からアウレリア人だと」

「そうです。彼女にそっくりな人間が、かつてアズーラにいた。それだけです」

「そうだなぁ。公には婚約者として紹介はできないだろうし、あくまで婚約者候補という形でこっそり王宮に滞在するというだけなら――――」


 そして、国王の理解も早い。国王は考える時間も置かずに言った。


「良いだろう、彼女に新たな爵位と名前を与えることを許可する」



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