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ーー私なんていてもいなくても同じ。もう全部どうでもいい。派遣社員として働く25歳の渡瀬奈美は、投げやりな気持ちで外に出る。
会社近くのカフェでご飯を食べていると、2つ隣の席に座る若い女性ーー金髪で派手目なネイルをしている。日本人か韓国人のような見た目ーーから声をかけられた。奈美は不思議そうに女性を見ると、女性は奈美にコートを置くようなジェスチャーをする。そう、女性は自分の横の席が空いているからここにコートを置いていいよと伝えていたのだ。
奈美が女性に英語で「私のロングコートが床について汚れそうだったから、ここに置いていいよってこと?」と聞くと、女性は頷いた。
「誰かがここの席に来たらと思うと気が引けるのよね……」奈美がそう言うと、女性は「置くか置かないかはあなた次第よ」と笑う。奈美は女性の言葉に甘え、コートを2人の間の席に置くことにした。
「ランチの邪魔してごめんね」と女性は言っていたけれど、奈美は全く邪魔されている感じはしなかったのだ。むしろ、赤の他人の様子によく気づくよなと思っていた。




