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白線

作者: T・S

「みんな席に着け 転校生が来てるぞ」


「どもー今日からお邪魔する岸 幹太(きし かんた)でーす

 よろしく!」


 家が災害に巻き込まれて、せっかくならと遠くに引っ越すことになった。

 今日は転校初日、夏は暑くてしょうがないな。


「みんなバイバーイ」


 友達もいっぱいできたし、今日から人生をまたやり直せそうだ。


 それから1ヶ月が経過した。

 なんだか毎日誰かにつけられている気がする。

 確かめるために路地裏に入って待ち伏せしてみた。


 すると白色の髪に白色のワンピースを着た20代くらいの女性が歩いてきた。


「あら、見つかっちゃった」


「誰?」


「私は君が見殺しにした人の友達」


 それを聞いてゾワッと鳥肌がたった。


「あ、あれは事故だったんだ」


「だからって償いもしないの?

 君のせいで死んだのに」


 少し言葉に詰まってしまった。

 なぜならそれは事実であるからだ。


「償えるものなら償いたい」

 小さな声で答えると、女性の頬がほんの少し上がったように見える。


「なら、絶対に道路の白線からはみ出ないで

 もし出たら、どんな目にあっても知らないよ」


 どういうことだかは分からないけど、なんだか従わないといけないような気がする。


 瞬きをした瞬間、目の前にいた女性は消え、どこかの道路にいた。

 下を見ると、自分が道路の白線の上に立っていることが分かった。


「どうなってんだこれは」


 さっき女性が言っていたことが脳裏によぎる。

 "絶対に道路の白線からはみ出ないで"


 肩にぶつかりそうなくらいスレスレに車が通っていく。


 それにびっくりしておもわず体勢が崩れてしまった。

 とっさに白線に手をついて、なんとか白線外に足がつかないで済んだ。


「あっぶねー」


 これからどうすればいいんだろうか。


 とりあえず白線から出ないようにまっすぐ歩いてみることにした。


「夢なら早く覚めてくれ」


 どこかも知らない場所をただひたすら1歩ずつ慎重に歩く。

 しばらく歩き続けると、交差点に差し掛かった。


 曲がるか、もしくは歩道を使ってまっすぐ進むか。

 その場で一旦立ち止まった。


 歩道の白線を使っていいのかも分からない。

 でもなぜだかまっすぐ進まなければいけないような気がする。


 自分を信じて歩道の白線の途切れをまたぎながらまっすぐ進んだ。


 何も起こらなかった。


 いつまで続くのだろうか。

 どこまで行けばいいのだろうか。

 この白線から出たら死ぬ気がする。

 死にたくない。

 でも、あの時僕がしたことが返ってくるだけ。



 昔よく遊んでくれた黒いドレス服の女性がいた。

 彼女はとても優しく、遊ばなくなった後もいつも会うと軽い会話をしてくれた。


 あの日も嬉しそうな顔で"おーい"と僕を呼びかけながら、横断歩道を渡って僕の方へ向かってきてくれた。


 遠くからすごいスピードで車が迫ってきているのに気づいていた。

 でもまさか止まらないで彼女をはねるなんて思わなかった。


 あの時僕が声をかけていれば、前へ踏み出せていれば、救えたかもしれないのに。


 時が経つにつれて彼女の嬉しそうだった顔の印象が薄れていき、"おーい"と助けを求めていたのではないかとすら感じるようになった。


 家が災害によって壊されたのも、あの時のことが関係しているような気がしてならなかった。



 僕はあの時のことを忘れて、また楽しい日々をやり直そうとしていた。


 でもそれでは亡くなった彼女が可哀想でしかない。

 もっともっと反省しなければいけなかった。



 考え事をしながら歩き続けていると、前に道路を渡ってくる1人の女性がいた。


 その女性の姿はまるで亡くなった彼女のようで、黒いドレス服を着ている。


 なんだか胸騒ぎがして後ろへ振り返ってみると、車が猛スピードで突っ込んできていた。


「あぶない!」

 とっさに声を出したが、女性はびっくりして立ち止まる。


 助けなきゃいけないのに、白線を越えれば死ぬかもしれないという恐怖で足がすくむ。


 またあの時を繰り返すなんて命に代えてもしたくない!


 僕は勇気を振り絞って白線を飛び出し、女性の手を引っ張った。

 歩道に倒れ込みながらも間一髪で車から守ることができた。


 そのとき目から涙が溢れ出る。

 どう見ても女性は、あの時助けられなかった彼女であった。


「ごめんなさい おねえちゃん」


 彼女の見せた微笑みはとても眩しかった。

 この笑顔は一生忘れないくらい深く印象に刻まれた。


 涙で視界がぼやけていく。

 そして気づいた時には元の路地裏に戻っていた。


 気持ちが落ち着いてきたころ、手に違和感を感じ始める。


 指の順番が逆になっている。

 僕の両手は入れ替わっていた。



 それからしばらくはみんなから気持ち悪がられていたが、他人を助けるために動いていたら"ドクターハンド"と呼ばれて頼られるようになっていた。


 不思議な体験がなんだったのかは分からないけど、もう白線に縛られてるような人生は送らないと心に誓う。


見てくれてありがとー(*´˘`*)

もし良かったら代表作の方も見てね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 万田 カフエさんのレビューより読ませていただきました。 なんと説明すればよいのか…… とにかく、とってもとっても良かったです!!
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