最初
出会ったときの僕たちです。
「思い出作っちゃったんですよ笑」
中目黒のラーメン屋で僕が会社の先輩にこう漏らしたのは、確か5月のことだったと思う。
4月から関係が続いているセフレとショッピングモールへ行った土曜日。
その翌週に僕は先輩とその“セフレ”について話していた。
さきちゃんと僕が呼ぶそのセフレは、北海道から上京してきた女の子だった。
僕も北海道から上京してきた口で、彼女は函館出身、僕は札幌だった。
「あんまり深入りするなよ」
先輩は少しだけ笑ってそう言った。
僕は遊びだから大丈夫です、と返して二人で会社へ戻った。
それから休日はほとんどさきちゃんと過ごすようになった。
そのうち、休日だけではなく平日の仕事終わりも一緒に過ごすようになった。
日常的に家に泊まるようになり、6月が終わる頃には半同棲のような生活になっていた。
出会った当初、僕たちはお互いに傷ついていた。
ついこの前まで大学生だったさきちゃんは、東京という地で傷ついていた。
神経質な体質は満員電車に耐えられなかった。
会社の人間関係にもすぐに嫌気が差してきた。
キャバ嬢だった同期の世渡りの上手さに嫉妬していた。
北海道で別れた元彼を思い出していた。
彼女は救いを求めていた。
或いは同じように傷ついている人間を。
僕は傷ついていた。
やはり東京という地で傷ついていた。
“何者か”になりたかった。
でも東京は思っていたより、ずっと冷たかった。
仕事が上手くできなかった。物覚えも悪く、物忘れも酷かった。
誰にも期待されたくなかった。期待以上の成功など見込めるわけもなく、周りの同期とは見る間に差が開いていく。
ある日、発達障害だと診断された。
息苦しかった。生き辛かった。
僕は救いを求めていた。
この現実から連れ出して寄り添ってくれる人間を求めていた。
多分、僕たちはいずれこの関係が終わると分かっていた。
セフレにしては時間を共に過ごしすぎたし、恋人ではない。
でもお互いに傷ついていることも分かっていた。
だから、恋人のような振る舞いを僕たちはしていた。傷の舐め合いだ。
外では手を繋いで歩いていたし、仕事で家を出る時は必ずハグもキスもした。
休日は二人で出掛けて、帰ってきて一緒にご飯を食べて、およそセフレ同士とは思えない流れでセックスをした。
側から見れば立派な恋人同士のように見えただろう。
実際はお互いに寂しさを埋めているだけの極めて独りよがりな行動をしているだけだった。
でも終わってほしくなかった。
歪とはいえ、お互いの存在は段々と大きなものになっていった。
続きます。