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第二章 美女との出逢い

第二章 美女との出逢い


 それは、今から、この私がX大学医学部付属病院の精神神経科病棟に入る約20年以上も前の時の事である。行きの単線は電車ではなく、ディーゼル車の3両編成で、終点の駅から2駅前の駅で降りた。駅から出ると駅前で彼女が出迎えに来てくれていた。



 ここから、バスで蛇谷村へ行くので一緒に行くと言う。蛇谷村の入り口には、『蛇谷村温泉郷へようそこ』の朽ちた大きな木彫りの看板と、その近くに四つ並んだ同じ形・大きさの墓が並んでいる事に何故か不思議な感がした。



「四つ墓村?」と、そんな不思議な感じが私を襲ったのである。



 バスの最終駅の一つ手前の駅の蛇谷村役場前で二人して降りた。



 北アルプス連山が見える方を南側として、その北アルプス連山に沿って、上流から川幅3~4メートルの川が流れている。その右側にと言えばいいのか、そこには道幅約6メート近い本通りがあり、その川と道に沿うような形で、八百屋や乾物店、美容院、薬局等々が並んでいた。

 そこでは近所の農家が持ち寄った野菜等の朝市も開かれており、温泉のお客達でそれなりに賑わっていた。しかし、どうにもその店らの作りが古過ぎて、何処か戦前の町並みの風景を見ているような感じであった。



 時間が数十年もストップしていると言えばいいのだろうか?



 もっと気になる事もあった。藤崎真理と並んで歩いている私を見る村人達に、異様に鋭い憎しみに満ちた目付きをした者が3人もいたからだ。明らかにその目付きは憎悪と憎しみに満ちていた。



 藤崎真理の家に着いた。



 そこには『藤崎病院』と、これも見るからに朽ち果てた薄汚れた看板が立っていた。この看板の汚れ具合や、病院の様子を見て少なくとも20年以上も前に、この病院が閉鎖されたままである事は、誰の目にも明らかだった。



藤崎真理の家は、その藤崎病院の左手側にあった。ただ、この住宅は、古い建物にしては非常に小綺麗なのだ。そして物音に気付いたのか、彼女の母親が現れた。50歳前後の顔立ちに見えたが、藤崎真理とはそれほど似ていないがやはり美人には違いがなかった。



 それに、彼女が言ったとおり病気の為か何よりも顔色が悪かった。



「初めてお目にかかります。今日は遠いところをようこそ。真理の母親で、千里と申します。どうぞごゆっくりとしていって下さい」

「こちらこそ、たった一回しか会っていないのに、図々しく押しかけて来て済みませんでした」


 

 藤崎真理の家は、ここらへん近在でたった1軒だけの医者の家であったためか随分豪壮な作りとなっていた。私のような来客が留まるための「離れ」まであった。この「離れ」には蛇谷温泉の源泉が直接引き込まれているため、お風呂には24時間入る事ができるのだと言う。先程の朽ち果てた藤崎病院の看板や建物から想像できない程の作りであった。……よほど、父親が存命中は人気を博したのだろうか?



「今日は、泊まっていってくれる?」



「ええ、まあ、勿論そのつもりでは来たんやけど……」



「そやったら、晩ご飯は精一杯ごちそうするから、今日のお昼ご飯はカレーでもいい?」

「何でもいいよ、僕、一人暮らしやさかい、何を食べても美味しいがです」



 そんな、たわいもない話をし、お昼ご飯に彼女の手作りのカレーを食べた後、彼女は、自分の4WD仕様の車で蛇谷村全体を極簡単に案内してくれた。



 ここの蛇谷温泉郷の主成分は、ラジウム温泉で、古来から難病・奇病に効能があると言われていると話してくれた。温泉宿は5棟あり、その中で一番大きな温泉宿は「福禄寿荘」で最高100人は泊まれる程の大きな温泉宿であり、その他の温泉宿はほとんど民宿に近い作りであった。



 蛇谷村の中心を流れている川は「御手洗川」と言いその上流に、カルデラ湖と思われる湖の「蛇谷ケ湖」があった。彼女の説明によれば、かってこの蛇谷ケ湖から全長10メートル以上はあろうかと言う大蛇が出現し、湖畔で遊んでいた幼児を一呑みしたと言う。



 そして、その伝説から、この場所一帯は昔は大字人喰(ひとくい)となっていたらしい。ただあまりにどぎつい表現から、いつのまにか大字人杭(ひとくい)に変わったと言うのだ。このように、彼女は、面白可笑しく自分の村を案内してくれたのである。しかし、奇妙な事に、例のあの大きな事件の話は全くしてくれなかった。この時、しっかりと聞いておけばまだ間に合ったかもしれなかったのだが……。



 私は彼女が、蛇谷村の名所旧跡を案内してくれていた時に、古ぼけた1台の農業用軽トラックが後を付けてきているのに気がついていた。まあ、大体は想像がつく。朝方のあの目付きの鋭い人間の誰かが嫉妬心で、私たちの恋路の邪魔を企んでいるに違いないのだ。

 私は、学生時代は空手やカンフー映画の俳優になりたくて、空手と拳法、古武道の道場を三つ掛け持ちで通っていた。



 車の中でも、彼女は、自分の母親が悪い病に罹っておりあまり寿命が無いと言った。少しでも、母親の元気なうちに……と言うのが、彼女の今の切なる思いなのだとも言った。この言葉は、実に、意味深長な言葉であって、彼女はその言葉を実行に移すかのように、その日の夜の夕食後、私が、入浴中の浴室に突然入ってきたのだった。



「お背中、流しましょうか?」そう言って、タオルひとつ巻かずに全裸で、お風呂場に入ってきたのである。私は、思わず浴槽から飛び出しかかったが自分も全裸でいる事に気が付き、おとなしく彼女の言うとおり背中を向けて、石鹸で背中を洗ってもらった。



私は、彼女の真意がよく分からなかった。

「真理さん、あなたは、何故、会って間もない僕にここまでしてくれるがです?」、これは、真っ当な疑問だろう。



 それに対して、藤崎真理は、次のような面白い話をしてくれた。

「『だが恐るるなかれ、力強き無垢なる若者が現れてその美女を、悪魔の堕天使から救ってくれるじゃろう』って、そんな予言がこの蛇谷村に残っているのです。その予言を残したのは、あの福禄寿荘で仲居さんをしていた、通称占いトメ婆さんだそうです。何でも、私や母は、堕天使委員会と言う得体の知れない集団に以前から狙われているそうなんです。



 でも、あなたなら、田崎真一さんなら強そうだし、私、あなたがその予言に言う『力強き無垢なる若者』だと、一目会った時からピンときたがです」



「何か、真理さんやお母さんが狙われる理由があるとでも……」

「ええ。もの凄い大事件があったんです」

「そ、それは、一体、どんな大事件やったがです?」



「そ、それは、私を本当に愛してくれるならお話しますけど……」

「とか何とか言って、結局、あなたはそうやって何人もの男性を、うまく誘惑してきたがじゃないがですか?その美貌で」

「し、失礼ですね。私は男の人は全く知りません!乙女です」

「またまた、下手な嘘を」と、私は自嘲気味に言った。



「だったら、田崎さんご自身で確かめてくだされば!」と、彼女は怒ったように言った。



「確かめるって?」



 と、大声で話して振り向いた私は、彼女が全裸だと言う事を忘れてしまっていた。彼女は、丁度、立て膝をして私の背中を流してくれていたので、彼女の瞳、大きな胸、そして最も大事な部分の全てが目に飛び込んできてしまったのだ。



 刑法学で言う、強姦罪(現在の刑法上では、強制性交罪と言う)の犯罪構成要件に「男性器の女性器への「没入」をもって強姦罪の既遂とする」と言う解釈を学生時に習った記憶があったが、今、その状態に本当になってしまった事で、刑法の言う「没入」の意味がようやく27歳で体得できたような気がした。勿論、彼女の合意があるので、強姦ではないのだが……。



 次の日の朝、彼女の家の離れから出て、蛇谷村の朝の商店街を散歩してみる事にした。

 蛇谷村の商店街では名物の朝市も既に開いていた。それは学生時代に旅した、飛騨の高山市の朝市の光景に似てはいるものの、あれ程沢山のお客さんは当然いない。私が、一軒、一軒、もの珍しそうに見歩いていると、身長は私と同じ175センチ強はあるものの、体重はゆうに私の1.5倍は有りそうなでっぷりした人物が私の前に現れた。その人物もまた、昨日の藤崎真理と同じ言葉を言ったのだ。



「君が、もしかして、あの『力強き無垢なる若者』なのか?」



「ちょ、ちょっと待ってください。一体、貴方は誰なんです」

「私は、藤崎真理の母方の祖父で森末一太郎という者じゃ。あの千里は私の実の娘じゃよ。この私は、福禄寿荘の経営もしており、今は蛇谷村の現村長じゃ」



「はあ、真理さんのお祖父さんでしたか、じゃ、あなたが私の上司の山元課長の遠縁に当たる人だったんですね」



「ああ、このワシが、真理と君とのお見合いを頼んだのじゃ。ところでもし君が真理にその気があるならどうしても話しておかなければならん事があるんじゃ。そうでないと、深い仲になってから急に縁談を断ってもらっても困るしのう」



 実は、昨晩、既に、深い深い仲になってしまっていたが、私はとっさに嘘をついた。



「たった、一度会っただけで、あんな綺麗な人と深い仲になれる訳なんかないですよ。本当に、あんな心も顔も綺麗な人、僕、人生で生まれて初めて会ったがです」

「なら、君の気持ちがこれで大きく揺らぐかもしれんが、ともかく私の口から、早めにあの話だけでもしておかんとなあ……。まあ、着いてきたまえ」



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