えっと、どうしよう?
オレだって、いくら東京生まれの東京育ちと言っても、野に咲く花、山に茂る木々を、まったく見たことがないってわけでもない。
田舎のばあちゃん家は鹿児島の山の中だったし、高校ん時の部活の遠征が23区外なことも何度かあったから、まったく山に生えてる植物を見たことがないってわけじゃない。
あ、ちなみに野球部な。ずっと補欠だったけど、3年になって一度だけ最後だからって、試合に1回出してもらえたぐらい。体力はあったけど、運動神経がちょっと、な。
運動能力テストだって、学年じゃあ、ビリに近かった。まあ、ほとんど平均以上はあったんだけど、体の柔軟性があまりにもなくって、それが唯一の残念ポイントで、ビリ近くになっちまったんだ。
柔軟性なんって、しゃーねーやん。こちとら小さい頃から知ってたら、ストレッチとかめっちゃやってたわ。知らんし。生まれついてから、ナチュラルに生活してたら、こうなっちまったんだ。くっそー。
そんなヤツがなんで野球部に入ってんだよって?いや、イ○ローに憧れて、な、ちょっと。頑張ったんだけどな・・・。ま、そんなこたぁーどうでもいい。
大学に入ってからは、キャンプやラフティング(※川下り)にハマってあちこち出かけたりもしたもんだ。だからそれなりに知ってはいる。
もちろん、オレが知っているのはごくわずかに過ぎない。そりゃあそうだろ?オレは植物学者じゃないんだ。自然豊かな地方に住んでる人だって、すべての植物を知ってるわけじゃないだろう?
日本国内だけでさえ、そうなんだ。そりゃあ世界に目を向けたら、オレの知らない植物なんて、もっとずっとたくさん、それこそ山ほど、星の数ほどあるだろう。
だけどさ。ありゃ、ないべ?あれ。
オレはある植物から目が離せなかった。
それはマンガなんかでよく出てくる、巨大な食虫植物を思わせる不気味な花だった。真っ赤な花ビラはオレの顔よりも大きく、ひぃ、ふぅ、みぃ、・・・あれ、なんで数を数える時ってこんな数え方になるんだろうな。オレ、平成生まれなんだけど?ま、いいけどさ。
8枚もあるし、花ビラ。めっちゃデカイから、こっからでも余裕で数えられるし。ってか、そんなんが小川の向こう岸からこっちをめっちゃ見てる感じ?
なんか、こえぇよ。
で、なんで、あれが食中植物だと思ったかって?そりゃあ、花ビラが囲んでいる中央が割れてるし、なんかトゲトゲしたもんがカチカチと歯を噛むように動いてりゃあ、そりゃあ、ねぇ。
あんなん、ニュースで見たことのある植物園の食虫植物とかでも見たことねぇよ。そもそもあんなに素早くカチカチする植物なんていねぇだろ?
デカイ、早い、不気味すぎる・・・。
ありゃあ、オレを狙ってんな、マジで。だって皆、って人じゃねぇけど、あの花ビラたち、皆こっちを向いてんだぜ?おかしくね?普通、もうちょっと別の方向を向いたりして生えてるよな?
オレは不気味すぎるその花ビラを見て、額から頬へと一筋の汗を垂らしていた。こえぇって。
それにオレが一歩横に動こうもんなら、そいつらも動くんだぜ?ありゃあ、食虫じゃなくて食人植物やろ?絶対。
幸いにもそいつら、なんか動けないみたいだし。ま、当然か。根っこは土の中っぽいしな。・・まさかズボッって土から這いずり出てこないよな?あり得そうなんだが?
ま、でもオレとの間には小川があるし、こっちには来れないだろう、たぶん。うん。
それにその花ビラは真っ赤だったからなのか、真っ先に目が行ったけど、他にもおかしな植物ばっかだ。
何が変って・・・。なんて言ったらいいんだろうな?妙に圧を感じるんだ。圧。
鹿児島のばあちゃん家で過ごしていた時も感じたんだ。植物たちの圧。テレビで見たアマゾンのジャングルに生えてる植物たちからも、それは感じられた。
まぁ、感じたのはオレだけかもしれないが。
なんかめっちゃ暑いのに生命力漲って生えてる圧。どんなに熱波がきても、干ばつがきても枯れねぇぜ!生き抜いてやるぜ的な生命力。
そんな圧を、オレは今ここでもヒシヒシと感じていた。それはある意味、恐怖にも似た感じだった。オレが勝手にそう感じているだけなんだろうがな。
ここが山の中だって言ったのは何となくだ。別にそこから麓や他の山が見えたわけじゃない。むしろ木や岩、山肌に視界を遮られて、遠方がほとんど見えない。だからもしかしたらここは山間じゃなくて、平地や谷にある、林や森の中かもしれない。
山間かどうかは分からないが、ここが林か森の中であることは確かだ。ちなみにオレは林と森の違いがあまり分からない。なんとなくめっちゃ広いのが森、やや狭いのが林ってイメージなんだが具体的な違いは知らん。なので今後、よっぽど目に見えて狭くない限りは、一概に森と言ってしまうことをお許しいただこう。そこんとこ、ツッコまないように!
さてさて。
足元の地面は、さっきも言った通り、フッカフカ(言ったか?)な土。でもって、若干なだらかな斜面になってる。うん。森の中だがな。
とにかく!ここがあの交差点じゃないのは確かだ。それにオレのばあちゃん家の近くにある、山の中でもない。だってばあちゃん家の山からは海が見えるからだ。そこに浮かぶ(?)灰を降らす雄大な桜島も。
まあ、山の向こう側に回ったら見えねぇけどな・・・。他の山や麓は見えるぞ。天気が良ければの話だが。
天気といえば、オレが家族と共にばあちゃん家に遊びに行ったりした時には見たことないが、ばあちゃんやおふくろによると、あ、おふくろの実家な、鹿児島。たまに目が開けられないぐらいの火山灰が降るらしい。オレが行った時は少しパラついて、白いTシャツがうっすら汚れたぐらいだったが、そんな日もあるんだ、って思ったな。
富士山も噴火したらそうなるんかな?ってか、富士山が噴火したら関東は壊滅状態になるんじゃね?うおぅっと、オレ、今、ブルっとしたわ、マジで。富士山さん(笑)、そのまま休火山でいてください。
あ、で、桜島の天気な、鹿児島の天気か・・・。火山灰がどっち方向に降るかって、テレビの天気予報をやってることに衝撃を受けたんだが。ついでを言えば、めっちゃ、テレビのチャンネル数少ないこととか、ビビった。ってかビビったと言うよりは、見たかったアニメが、リアルタイムで見れなかったことがショックだった。おっと、また話が逸れたな。
うぉっと、今一瞬、飛び跳ねちまったぜ。オレの足元に巨大な、オレの右拳ぐらいの芋虫がはってたんだ。オレ、昔っから虫ダメなんだ。ばあちゃんは大好きだけど、ばあちゃん家はいろんな虫が出るんで、家族で遊びに行くときは結構憂鬱になるんだよな。
って、また言ってる側から話が逸れるな。まあ、それはオレが今めっちゃ動揺してるからってことで勘弁してくれ。
うん、マジ。こんな芋虫、見たことない。スマホで動画や写メでも撮ってSNSにでも投稿したら、めっちゃ『いいね』もらえるだろうな。ってか、オレSNSやってないけど。ま、ちょっと仕事上使うから、SNSアプリ入れて使ってはいるが、プライベートではまずやってねーし。
友人たちからはLINEとかダイレクトメールとかじゃなくて、直接電話くるし。オレの友人たちは年齢もあってか、ぞくぞくと結婚していってるから、昔ほど連絡来なくなったけどな。
・・・そんなもんだよ。男の友情って。前はよく飲みに行ってたのにな。あいつら奥さんの尻に敷かれやがって!って独身のオレはヤッカミ半分でそう思う。
ちなみにオレは目下フリーだ。ついこの間までいい感じでおつきあいしていた彼女がいたが、仕事のすれ違いばっかりでフラれてしまった。
いや、マジ。すれ違いってなん?ちゃんと仕事ないときは電話してたし、休みの日はデートしてたやん。こっちは肉体労働で疲れまくって、家でぐうたらしていたいのに、彼女のためにデート情報をネットでチェックしたり、予約したりして、あちこち出掛けたりしてたやん、って感じ。マジ、フラれる理由、分からんのだが?
あー、今はそんなこたぁ、どうでもいいんだった。
あんなさー、圧がいっぱいの植物の群生地なんて日本にあんの?あんな食人植物いんの?いや、もしかしたらさー、アマゾンとかに生えてるのかもしれないけどさぁ、でもさ、それだったらよ?なんでオレがアマゾンにいるわけ?おかしいっしょ?
それともアマゾンから運ばれてきた、どっかの植物園とか?どこの植物園よ、それ?ってか、オレ、なんで植物園にぼっちでいるんだよ。植物園にしては広大すぎだろ、ここ?
それに植物園なら、ガイドさんとか、他の客いないの、おかしいだろ?植物を紹介するボードとか、モニターないのも絶対変だ。
もうさー、この状況下でいったらさー、なろう読者だったオレとしては、異世界転移だって結論づけしてもいいかなぁ?いいやろ?もう。
一瞬さぁ、異世界転生かな?とは思ったよ。思ったけどさ。傷無いし、顔は見えないけどさ、馴染みの体つきから手触りで、どう見ても今朝、シャワー浴びたオレ、そのものの身体じゃん?
オレは、そろそろ床屋でも行こうかと思っていた髪をつかんで、見える位置まで引っ張ってみた。
うん、どう見ても馴染みの黒髪だ。異世界転生なら、ここはもっと金髪碧眼のイケメンとかやろ?顔だけ別人な転生ってあり得んし。
それにここからでも見えるんだが、サラサラと流れる小川に写った自分が、明らかにオレで間違いなかったしな。
ってことは異世界転移ってことで落ち着くじゃん?
ま、傷ないから、きっと神様が、可哀想に思ってくれて、傷をなくした状態で、オレを異世界転移させてくれたんだろ?
ってか神様どこよ?どうせなら、イケメン、金持ちメンで異世界転生させてくれりゃあ良かったのにって、文句言ってもいい?あんなに痛い想いをしたんだからさ、それぐらい許してくれるっしょ?
しかし周囲を見渡せど、神様らしき者の姿は見えない。ぼっちなう。
・・・さて、これから、どうしよう?マッパなオレ・・・。
【作者より】
【更新履歴】
2023.10.17 Tues. 20:00 読み上げアプリ修正(句読点・ルビ位置修正)
2022. 9.11 Sun. 13:50 加筆・矛盾修正等
2021. 8.23 Mon. 11:15 更新