ここはどこ?オレは誰?いや、オレだな。
どこ?ここ?
オレは辺りをグルグル見回す。
あ、今、首がグキって鳴った。最近、めっちゃ凝ってたしなぁ。
オレはついでと言わんばかりに、首を右にグルグル、左にグルグルと回して凝りを解した。
ハうっ、イタ気持ちいぃ~!
オレは首は鳴るが、指は鳴らねー。ついでに言えば指も反らねーし、手も反らねー、固いヤツだ。当然、体も固い。だからたまのストレッチがめっちゃ気持ちいい。ってか、そんなこたぁどうでもいい!
オレは解れた首で、周囲を上から下、右から左と、何度も何度も往復させた。それと共にオレの眉間には深い縦皺が刻まれていく。
ハ?え?何?
なんで?マジで?
え?ウソだろ?
え?ホントに?
え?夢?
え?これ、夢?
オレの中でそんな単純な疑問符が、延延と浮かぶ。
けれども、これが夢の中じゃないことだけは確かだ。だって空気を感じる!それもめっちゃキレイで新鮮な空気!そして風!あんなジメッとした風なんかじゃない!爽やかな風を!
オレは目を閉じて顔全体、いや全身で爽やかな風を感じた。
うぉっ。気持ちいぃ~!
風を受けながら、オレは目蓋の裏で考える。
オレ、ついさっきまで東京のど真ん中にいたよな?まあ、正確なド真ん中がどこなのかは知らんが。さっきまでオフィス街というか、ビル群の谷間の交差点にいたはずだよな?
ビルの1つも、アスファルト道路の1つも見当たらないんだが?東京にこんな場所あったっけ?この風って台風の影響?
って言うか、さっき、オレ、あいつに刺されたよな?
・・・?
え?もしかしてオレ死んだ、とか?え?死んだの?じゃなきゃおかしくね?オレ、あちこち刺されたよな?で、なんか救急車とか鳴ってたような?で、今、気がついたよな?
なら普通、ここ、手術室とか病室じゃね?ICU室とかさ?ってか、手術室で目は覚ましたくねぇけどさ。それとも日本じゃ珍しいサナトリウム(※長期療養所)とか?いやいや、誰もいないのおかしいでしょ?電線の1本も電柱の1本もないし。
それに見渡す限りの木、木、木。その間からめっちゃキレイな青空。白い雲。サラサラと流れる小川。
え?どこよ?ここ?
それともオレ、今、死ぬ間際とか手術中とかで夢見てる最中とか?それとも、あの事件のせいで気がふれたとか?それとも後遺症で記憶障害が発症したとか?
え???
それとも若年性認知症とかで、一人で徘徊してこんな山奥、たぶん山奥に来ちまったとか?あるいは実はあれからめっちゃ歳月が過ぎてて、オレ、徘徊老人になってるとか?
まさか・・・な?
あ!そうだ!傷!アイツに刺されまくった傷があるはずだ。なんか気がついたら知らない場所だったから気が動転してたけど、傷を確認したらいいんじゃね?傷があるか無いか、古いか新しいかどうかで、オレが認知症なのか、これが夢なのかが分かるんじゃね?
オレはドキドキしながらも、恐る恐る自身の体を見下ろした。
「マジかっ!!」
オレは驚きのあまり思わず叫んだ。というか、絶句した。傷がどうこうよりも先に、マッパだったからだ。
はぁ?オレ、マッパで何やってたんだ?しかもこんな場所で?
マジで記憶ねー。やべぇ。誰かに見つかりでもしたら犯罪者だ。変態ヤローだ。こんなことで逮捕されたりでもしたら、親に会わす顔がねーし、友人たち、会社の同僚たちから何て思われるか、知れたもんじゃねぇー。
オレ、パニック!一瞬で傷のことが吹っ飛んだ。
だってそうじゃん?なんでマッパなんだよ、しかも屋外で!・・・マジかよ、勘弁してくれよ。
オレは頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
瞬間、フニャッとした地面に気づく。土だ。めっちゃ枯れ葉、混じってる、栄養たっぷりな土・・・。土?
その明白な触感、足触りが、これが夢や幻ではなく、リアルだとオレに告げている。
・・・なんでやねん?
オレはハァっとため息を吐き出すと、抱えていた頭から両腕を解き、ゆっくりと立ち上がった。
「マジかよ・・・。」
立ち上がりながら、不安になったオレは両腕を擦って思い出す。ああ、そういや傷跡を確かめようとしてたのにな、って。動揺するあまり一瞬忘れてたわー。うん、マジでオレ、今、すっげぇ動揺してんなぁ。
オレは滑稽なあまり苦笑した。
そのまま傷があるであろう、あちこちに手を動かしてみる。
が。
あれ?傷跡なくね?え?なんで?どうなってんの?
あんなに痛かったんだ。あんなに何度も両腕を刺されたんだ。まったく傷がないってのおかしくね?
オレは首を捻った。
まったく傷がない訳じゃない。日々の荷物の運搬で擦れた傷や、実家で飼ってる猫どもに引っ掛かれた傷跡はある。ちなみにオレは実家暮らしだった。
・・・おかしいな?
オレは首を傾げて、胸元を見下ろす。
確か、胸も2回刺されたはずだ。こう、心臓に近い辺りと、脇腹寄りに。
ねぇな?
オレはやはり頭がおかしくなったんだろうか?気がふれたとも言うな。
今度は首や肩の傷を求めて手を当てる。
なんの凹凸もねぇ。おかしいな?
そうこうして10分ぐらい、自分の体をあちこち触りまくったオレ。いや、変態じゃねぇーからな。
が、傷跡がまったくない。
オレは腑に落ちないながらも、状況を確認するため、もう一度、周囲へと目を向けた。
そこで、オレはここが異世界であることを確信した。
なぜなら、目の前には見たこともない植物が生い茂っていたからだ。
【作者より】
【更新日時】
2023.10.17 Tues. 19:46 読み上げアプリ修正(句読点・ルビ位置修正)
2022. 9.11 Sun. 7:50 加筆・矛盾修正等
2021. 8.23 Mon. 10:23 初投稿