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「ねえ、今何を考えているの?」
それが彼女の口癖だった。
「そこに座ってロッシーニを食べている男性についてさ」
そう返事をすると目でその男性の方をさした。
「あの男性がどうかしたの?」
「彼は前回も同じものを食べ、何か不満そうな表情とともに出て行った客なんだよ。」
バイト先は僕らが心配するほど混むことがなかったのでバイト同士が話す時間はたっぷりあったし常連客は嫌でも覚えた。
「でもまた同じものを頼んでいる。」
「そう。」
「不思議ね。」
盛り上がるような会話はほとんどなかったが、僕ら(おそらく彼女も)はそれでよかった。そもそもSNS上で“草”や“w”を敬遠する人間だ。一定の周波で繰り返されるラリーの方が心地よいのだ。
「私猫が嫌いなの」
彼女がどこか遠くを見つめながら言った。
「僕も嫌いだ。」
「どうして?」
少し驚いたような反応だった。なんせ僕は猫を飼っているからだ。もちろんそのことを彼女は知っていた。
「僕が猫アレルギーだからさ。」
そう言うと彼女は頬を緩め僕の前で初めて笑った。
とても綺麗だった。