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一体何が起こったのだろうか。全く状況が理解できずにいた。ついさっきまで目の前にいた男が突如として消えたのだ。もちろん全て思い込みだと考えた。しかしながらコーヒーがある以上僕はおそらくあの男と会話をしたのだ。僕は残されたコーヒーを捨て、マグカップを洗いながら考えた。だが、ある程度時間が経ってしまうと彼のことは殆ど考えていなかった。その代わりに佐藤みちこについて考えていた。
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佐藤みちことは僕が大学二年の春にバイトで入ったフランス料理店で出会った。彼女は僕が入る約一年前からそこで働いていて年は二つ上だった。四年生ということもあり出勤は多くなかったが、彼女が入っている時の殆どは僕も入っていた(単に僕の出勤が多かったのだ)。それもあってか僕と佐藤さんはすぐに親しくなった。佐藤さんは邦楽ロックが好きで時間があれば本を読んでいた。容姿は端麗というわけではなかった。具体的には街を歩いて振り返る者がいるかいないかという程だ。しかしボディーラインは綺麗で、サロンを巻いた姿は幾許か僕を興奮させた。