三餅つき大会兼格闘技大会
『今年もついに!秋の餅付き大会!!皆さんぜひ参加してください!』
幽霊界の餅つき大会は秋だ。餅は正月だと思ってたんだけど。
そして餅つき大会の餅を誰がたたくのか。そう、幽霊の人の形がたたくのだ。
その理由は、人の形の方が餅をつくのに効率がいいからだ。当たり前のようだが、そうやって毎年優子たちと一緒に呼び出されるのは嫌気がさす。
人の形はこの辺の地域では十八人ほどだ。そこからお年寄りや小さな子は引かれるから十四人ほど。小さな子と言っても十四歳以下の子供だ。お年寄りは六十歳以上。きついきついと言っている人もいる。かわいそうだ。
お米を育てるのも去年までは人の形がやっていた。だが、さすがにそれは大変だという意見が出て、白い幽霊がやるようになった。しかし、餅をつく仕事は手伝ってもらえなかった。
ということで二日後、餅つき大会が始まった。
「うぬぬ、今年の餅硬すぎ!」
あちこちからそんな声が聞こえる。お米作りを幽霊の形にやらせるのは間違いだっただろうか。
「・・・あれ?なんか餅の量が少ないような。」
「そういえば、そうかも。」
嫌な予感がする。幽霊はみんなお餅が大好きなのだ。だから自分の餅が少ないだのなんだので喧嘩が始まる。
「みんな、お餅がつけましたよー。」
美香がニコニコして声をかける。
沢山の幽霊がのりやら醤油やらきなこやらを持って歓声を上げる。どこで調達するか?それはもちろん、ポポンのポンとよくわからない呪文で生み出す。幽霊に不可能はない。お米だけは、人間が入れない結界が貼られている空間で作る。そこはとても広い。
そんなこんなでゆりたち人の形が餅を霊が持つお皿に乗せていく。
その時、
「嘘!このままじゃ足りないわ!」
優子が叫んだ。みんながざわめく。
「僕のお餅、配られてないってえ!」
「ちょっと!私の餅だけ少ないわよ!」
「ごめんなさい!お餅がもう・・・ありません。」
ゆりが頭を下げる。
どうやら、幽霊の形がお米をからしたようで、食べられるものがほとんどなかったのだ。しかも、硬くて全然おいしくない。
「なんでこんなことに!」
みんながリーダーに詰め寄る。リーダーの美香を含め、米作りをしていた幽霊の形がうつむいていった。
「かれちゃったから・・・あんまり取れなかった。」
次の瞬間。
「ひゃあ!」
ゆりはなにかに押されてしりもちをついた。目の前で争いが起こっている。
「なんでよ!無責任ねえ。」
「天候のせいにしろよ。俺らは真面目にやってた!」
「ああうるさいな!」
「あんたもです!」
あたりには砂ぼこりが舞い、幽霊たちがゆりと同じように放り出される。
「あいたたた・・・え!?」
近くの霊が叫ぶ。
「看板が・・・変わってる。」
見ると、餅つき大会と書いてあるはずの看板に格闘技大会と書かれている。
「い、いつの間に・・・誰が?」
すると、木の陰から人間がひょっこり顔を出す。
「うふふ、驚いたあ?」
巫女服姿だ。日水神社の巫女かもしれない。ということは・・・
「結衣、さん?」
「そー。なんでわかったの?」
「葉月から聞いたことがあります。」
結衣はにっこりしていった。
「この前は葉月ちゃんのこと、ありがとね。私は別に葉月ちゃんの姉妹とかじゃあないけど・・・日水神社で、居候?してるんだ。」
なるほど。この結衣という少女は両親を二年前に失ったらしい。そして神社で暮らすことになったそうだ。その代わりに巫女をアルバイト感覚でやっているとか。一八歳の少女にはいい経験だろう。
「神社で暮らしてたら、あなたたちみたいな幽霊も見えるようになってね。ところで、なんでこの看板、餅つき大会なんて書いてあったの?私は格闘技大会だと思ったんだけど・・・。だから転がってた筆で書き直しちゃった。」
なるほど、こいつの仕業ね。ゆりは訳を話す。
「へえ、じゃあうちのお餅持ってこようか?涼香さんもきっと許してくれるよ。」
「ありがとう!」
結衣は走り出した。目の前の争いはまだ続いている。優子たちが止めようとしているが、歯が立たない。
それからしばらくして、結衣が袋を持って走ってきた。
「はあ、はあ。お餅、持ってきたよ。少ししかなかったけど。」
ゆりは袋を覗き込んだ。
「うんうん。ありが・・・と?」
お餅は本当にほとんどない。五袋くらいだ。そしてその中も、丸くて平べったいお餅があるだけ。結衣はお餅の袋をぺりっと開けた。
「じゃあこれを、あれ?どうしたの?」
ゆりは袋から餅を出し、引っ張ってみた。が、伸びない。おかしいと思いながらゆりが餅をいじっていると、
「えっと、その餅は温めないと伸びないよ。」
と結衣が言った。
「あ、そうだった。」
やれやれ。幽霊生活を続けていると、人間の常識を忘れて幽霊の非常識を覚えてしまうのか。
「そして、このお餅、足りないから、持ち帰っていいよ。」
ゆりは袋を差し出す。
「ごめーん、役に立てなくて。じゃあ、さよならー。」
結衣は手を振って歩き出す。
そんなこんなで、この格闘技大会は夜まで続き、餅つき大会は中止になった。
その後の話し合いでは、お米を育てる仕事はまた人の形の役目になった。面倒くさいが、格闘が起きるよりましだろう。
そしてしばらくして。
「ところで、あの餅つき大会の件、私たちがお餅を生み出せばよかったのかもね。」
「あ。」
優子の言葉に、ゆりは唖然とする。
・・・幽霊に不可能はないことを忘れていた。