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第91話 サクラのお仕事(1)

 俺はサクラを連れてギルドに来ていた、というのも彼女の天職を調べるためである。受付のシャーリャたちに挨拶をしてから、研究部の検査室へと向かう。


「鑑定士……だといいな」


 期待いっぱいの可愛い笑顔に俺は思わず頷いたが、今の状況で鑑定士という天職は絶望的だ。鑑定士の怠慢で捜索人部隊が壊滅したり、元鑑定人が一般人をも巻き込んだ事件をおこしたり……俺らのことを信用してくれている人たちは今でもくろねこ亭で買い物をしてくれるし、俺の農場や牧場そして果樹園の商品を買ってくれていた。


「あら、こんにちは。背が少し伸びたわね」


 たまたま通りかかったミーナが笑顔でサクラに声をかけた。子供に話しかける時のミーナは女神のようでこの時ばかりは子供が羨ましい。


「ミーナさん! 私鑑定士だといいなってお話してたんだ」


「少しこの子には早いんじゃない? まだ15にはなっていないでしょ?」


「ええ、おそらく戦闘系ではないので早く知っておいても損はないかと」


 まぁ、俺がギルド内部の人間で研究部にコネがあるからできることなんだけどな。


「お、来たか。噂の……ハーフくんの妹ちゃんだな」


「ハーフくんってのはフウタのことだ。彼は寄宿学校でもかなり有名人らしく俺もなんだが鼻が高い」


「でもね……フウタお兄ちゃんと私はホントの兄妹じゃないんだよ」


 貧民街の出身にはよくあることだ。フウタの天職は魔術師と戦士。サクラは……


「お、こりゃすごい。お嬢さんは薬師の天職だ」


「まあ」


 ミーナが嬉しそうな顔をする。

 一方でサクラは鑑定士じゃないの? と涙ぐんでいる。


「落ち着きたまえ、お嬢さん。鑑定士の天職も君には与えられているよ」


 ヴァネッサの言葉にサクラは笑顔を浮かべた。

 薬師と鑑定士のハーフ。

 鑑定士よりも記憶量に優れ調薬も可能な器用さに加えて、鑑定士特有の嗅覚と視覚を持つ、いわばハイブリッドである。


「将来が楽しみね。わからないことがあれば私になんでも聞いてね」


 ミーナはサクラの頭をぽんぽんと撫でた。


「だからね、サクラにもお仕事をさせてほしいの。今は……お店もお客さんが少ないし、みんなギルドで働いてるから。私も」


 まだ幼い子に無理やり働かせようなんて思っていないし、そんなことをさせたくはない。俺としてはたくさん飯食ってたくさん勉強してくれればそれでいい。

 農業の手伝いだけで正直十分だ。


「そうだ! お願いしたいお仕事があるわ」


 って考えてるそばからおい! 

 ミーナはサクラの手を握り、執務室の方へと歩いて行ってしまった。


「ミーナはお人好しだ。それはそうとクシナダのことだが……」


 ヴァネッサの表情を見て俺はいやな予感がした。あのクシナダが何かやらかしたか、それとも……


「週5で働いてもらいたいんだが」


 思わず声が漏れた。

 まったく、このヴァネッサとかいう女はなんでこんなサプライズみたいな話し方をしやがるんだ。


「クシナダに聞いてくれ。今は店も手が空いてるし、いいんじゃないか。ただ、人体実験だけはするな、あとクシナダが傷つくようなものを見せるなよ」


 できればウツタも面倒を見てもらいたいところだが、やめておこう。

 ウツタは精神が不安定だし、ギルドに被害を及ぼしかねないし。大人しくあいすくりーむを作っててもらおう。


「さて、じゃあ俺は流通部に戻ります。お忙しい中ありがとうございました」


「私とお前の仲じゃないか」


「勘違いされるからやめろ!」


 俺はくっつくヴァネッサを押しのけて研究部を出た。


***


「また、廃業申請ですか。仕方のないことですね」


 俺はエリーの用意した書類にハンコを押したりサインをしたりしながら昨今の元鑑定士たちの廃業について悲しく思っていた。

 マリアの事件の解決やヒメとソラの事件の解決で上がっていた鑑定士の株がこのところの騒ぎで一気に下がってしまった。


「鑑定士と薬師のコンビが裏にいるとして、自分たちの仲間が苦しめられるようなことするかね」


 俺の独り言にエリーは答えてくれる。


「おそらくですが、彼らは追放された時のソルトさんと同じで自分勝手なんです。お金が稼げて暮らしていければいい。金さえもらえれば知識は貸してやるってね。悪い人たちの方がお金を出しますから」


「おいおい、俺は自分勝手なんかじゃ……」


「うふふ、そうね」


 エリー、冗談きついぜ。

 まぁでも自分勝手なのは変わらない。俺がお人好しじゃなかったら、悪い奴らと手を組んでもっと楽して金をせしめていたかもしれない。


「あいつらにプライドもへったくれもないってことだな」


「きっとそうですよ。ソルトさんと同じようになんらかの原因でギルドや冒険者に絶望し彼らは別の道を持つことになった。彼らはもう鑑定士でも薬師でもなく、ただ自分の持つ力を最大限に活用するだけの存在」


 エリーはしっとりと続ける。


「だから、鑑定士としてとか薬師としてとかそんな理屈は彼らに通じないんですよ。きっと今回の件だって依頼があったからやっただけ。気にすることはないわ」


 エリーの言う通りだ。

 俺は窓際で日向ぼっこするシューの背中を撫でながら心を落ち着かせた。

 やつらにはやつらの理屈がある。俺たちの事情なんて御構い無しで悪い奴の手助けをしている。そんなバカどもと戦っていかなきゃならないのだ。


「ギルドの上層部が本腰いれてないのもムカつくしな」


 ところでミーナたちはどこに行ったんだ?

 

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