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第69話 コンシェルジュ(1)

 俺の家に珍しい客が来ている。

 とんがった耳、黄色の髪をシニヨンにした彼女は俺のよく知る人物だ。


「エリー、久しぶりだな」


 そう。彼女は高級宿で受付コンシェルジュをしている子……方だ。

 なぜ彼女がここにいるのかは知らない。


「どうか……したのか?」


 エリーは紅茶を飲んで、あいすくりーむを口にした。理由は言いにくいらしい。彼女には年齢を聞いてはいけないことだけ頭に入れておこう。


「あのね、最近の宿事情をご存知?」


 え? なんか怒ってます……?

 エリーはいつもより冷たい。とはいえ俺はプライベートの彼女に会うのは初めてだから営業時間以外は元からこんな感じだったのかも。


「いや、うちは定食屋兼バーなんでなんとも」


「あのね、極東との交流が盛んになってから極東風の宿の人気がすごくって。うちみたいな……昔ながらの高級宿は売れなくなってきたってわけ。そこでね」


 うん。嫌な予感がする。

 

「私、クビになったの。年増のエルフより若い極東の子がいいんですって」


「ねぇ、うちを手伝ってもらえば?」


 極論を言い出したのはクシナダである。脱皮を終えた彼女は人間でいうと15歳くらいだろうか。

 白髪に赤目の美少女は額のツノがチャームポイントの蛇女である。脱皮を超えた彼女は知力もぐんと上がり、俺たちの農場の働き手の一人となった。


「こら、クシナダ。エリーさんは受付コンシェルジュ。農作業や酪農をやらせるわけにはいかないだろ」


 クシナダは頰を膨らませる。

 イザナミから送ってもらったトメソデというキモノがとても似合っていて可愛い。サキュバスの血が入った女が育てているだけあって可愛さの活かし方は心得ているようだった。


「それがねぇ、雇ってくれない?」


***


 まるで尼寺みたくなってきたな……と思いながら俺はエリーの申し出を一度断った。

 というのもうちには彼女ができるような仕事はない。くろねこ亭は人員が足りているし、農場や牧場で力仕事をするには難しいと判断したからだ。


「天職がない人を雇うのは難しい……か」


 リアは暖かくしたミルクをシューと俺の前に置いて、俺の隣に座った。フィオーネとクシナダ、ウツタとハクは温泉だ。


「ソルトさん。エリーさんがどんな気持ちでうちに来たか……考えましたか?」


「ああ」


 それは考えたつもりだ。

 高級宿で長年受付コンシェルジュを勤めた彼女がなぜこんな貧民街を抜けた先にある宿へきたか。

 きっと彼女がどこの宿にも雇ってもらえなかったからだ。

 

「天職がないって、きっと鑑定士より辛いんでしょうね」


 リアはミルクを飲んで、それから少し強い口調で俺に


「お世話になった人が頼って来た。それなのに無下にするなんて、ちょっと見損ないました」


 この国では「天職」があるかないかで大きな差がある。

 多くの子供が夢見る冒険者になれるかなれないか。

 エリーはどんな夢を見ていただろうか。

 幼い彼女はその夢を失って、それでも冒険者たちに安らぎを与えるため高級宿の受付コンシェルジュとして働く道を選んだ。

 

「シューも同じ気持ちにゃ。エリーはずっとソルトによくしてくれたにゃ」


 鑑定士に対する差別意識は彼女の中にあった。

 でも、俺が冒険者だった間で一番よくしてくれたのはエリーだった。俺が運んでいる荷物がどんなに臭くても嫌な顔一つせずに部屋に入れるのを手伝ってくれたし、マリカたちに嫌味を言われた時だって励ましてくれた。


「彼女に何させるんだよ」


「そ、それは……」


 リアがミルクを飲んでごまかした。

 詰めが甘いところがリアの未熟な部分だ。エリーは経験豊富な人だし俺がなんとかしなくてもきっとうまくやるだろう。

 リアやフィオーネ、ゾーイなんかに比べるとエリーは十分すぎるだろ。

 

「はぁ……そう言われるとなぁ」


 俺の胸が痛む。

 んなんかすごいひでーことした気分。

 

「さ、もう寝るにゃ」


「そうだな、明日は朝からギルドだから収穫はフィオーネたちに任せて……リアは鑑定士部だろ?」


 ギッと睨むようなリアの目。

 なんだよ? その目は。

 シューも俺の方をじとっとした目で睨んでいる。


「ほらぁ〜、だから言ったじゃん! 雇ってあげればって」


 タオル一枚のクシナダが風呂上がりのミルクを飲みながら俺の前に座った。もういい年頃なんだからやめてほしい。

 俺は思わず立ち上がって目をそらした。


受付コンシェルジュなんてくろねこ亭にはいらないだろ?」


 全員が首をひねった。

 無論、俺の判断は正しかったと思う。


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