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第37話 極東の教え(1)


「私、ヤマト・ヒメと申します」


 えっと、こちらの風習ではヒメ・ヤマトでしょうか。と控えめに微笑んだ彼女は丸い眉が特徴的な女性だ。年齢はリアたちと同じくらい。黒くて長い髪と茶色の瞳がなんとも神秘的でそばかすのないつるんとした肌はとても美しかった。


「ヒメちゃん……でいいの?」


 ゾーイは命知らずである。この方は極東から来た偉いお方。おそらく王族かそれに近しい貴族か何かだ。


「はいっ。ヒメちゃんでございまする」


 ちょっと不思議な語尾で俺たちは笑ってしまう。でもヒメは至って真剣である。


「美しい田んぼですね。このような遠い地でも我が国の作物が育てられているというのはとても誇らしい気分でございまする」


 胸の前で折り重なるような不思議な服は「キモノ」というらしい。これを着た女がたいそう色っぽくて困った話を親父から何度か聞いたことがある。ヒメは高貴な身分にしては質素なキモノを身につけており、最初は使者かなにかだと思ったほどだ。


「ミーナさんですか?確か、ギルドに寄るように言われていたんですが……窮屈なのは嫌なので抜け出してきたでございまする!」


 あぁ……面倒事になるぞぉ。

 きっと今頃ミーナとこの人の使者たちが血眼になってこの人を探しているはずだ。


「それってまずいんじゃ……?」


「ええ、まずいでございまする」


 リアが思わず苦笑いをする。そして、間も無くしてドアが壊れそうなほど乱暴に開いたのだった。


「ヒメ様!」


「なんじゃ、うるさいのぉ」


 ヒメは後頭部を掻き、使者の女をなだめるように立ち上がった。使者の女は不可思議な白い面を被り、髪は頭の頂点で結っている。ヒメとは違った黒いキモノを着ており、なんだか怪しげな出で立ちだった。


「本当に申し訳ありません。ヒメ様は大変……大変興味関心が強いお方でして……このような異国に来るとなれば」


「あはは……構いませんよ。俺はギルド流通部の顧問です。こちらの農場でお迎えする予定だったので問題ないかと思いますよ」


 運命じゃ! と大騒ぎするヒメをよそ目に使者は頭を下げ続けた。なんというか、お互い苦労しますね。となだめてからソファーに座らせてお茶を出した。



***


 極東では蛇女を神様の使いとして崇めているんです。

 ヒメは赤ん坊を抱きながら言った。遅れ来たミーナもやっとの事で合流したが朝早すぎたのか少し顔がむくんでいる。昨日は酒でも煽ったか。


「この子は白蛇。極東では神に最も近い存在の一つでございまする」


 赤ん坊はキャッキャッと愛想を振りまき、ヒメは思わず笑顔を浮かべた。


「名を……?」


「ええ、我々は極東と友好を結んでいくことを目的としています。彼女がきっと極東とこの地を結ぶ神の使いとなってくれるでしょう」


 ミーナがなんか上手いことを言って機嫌をとった。


「そうですね……。では」


 ヒメは眉間にしわを寄せた後、キッと鋭く目力を込めた。彼女の神秘的な瞳がぎらりと光る。


「彼女の名前は……おもちです!」


「ヒメ様!」


 使者が思いっきりずっこけて、俺も思わずヒメの肩を叩いてしまいそうになった。ミーナは苦笑いを浮かべ、リアとゾーイはがっくりと肩を落としている。

 

「素敵なお名前ですね。おもちとは何を由来になさっているんでしょう」


 とフィオーネだけは乗り気だった。


「だって、彼女は白くてもちもちじゃ? それで私が好きなものはオモチしかないでございまする」


 使者が何かをヒメの耳元で言った。俺たちには聞こえなかったが、ヒメは渋々了解したようだ。


「ごほんっ……彼女の名はクシナダじゃ」


 不可思議な名前だ。俺たちはクシナダなんて言葉を知らないし、名前としては使われているように思えないが……。


「極東で五穀豊穣の女神と呼ばれる神様じゃ。なんでも大層美しいオナゴだったゆえ、極東で最強と呼ばれる神に娶られたとも言われておる」


 まるで台詞でもあるかのようにヒメが言った。


「この地の美しい稲を見て思いついたのじゃ。クシナダは別名イナダヒメとも呼ばれ、極東の美しい田畑は彼女の加護によって……」


 ああ。本当はオモチが良かったんだな。

 びっくりするほど棒読みで感情などそこにこもってはいなかった。

 

「クシナダ。いい名をもらいましたね」


 ミーナがうまいこと取りまとめる。

 赤ん坊あたらめクシナダは俺たちの豊穣を祈る女神様となったのだった。


「では、ヒメ・ヤマト様。我々ギルドはあなた方極東の地からの客人を歓迎し熱くもてなすことをお約束いたします」


 ぶーたれたヒメとアワアワと謝り倒す使者。なんとか取りまとめたミーナと俺。この極東からの客人が厄介事を起こすだろうと予想して、俺は心の準備をするのだった。





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