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第27話 報復(1)


「なぜ、あなたがここにいるんですか」


 牧場で朝の卵回収を終えた俺は家の中で優雅に紅茶を飲んでいるミーナに向かって言った。


「ゾーイがちゃんとしているか気になったのよ」


 それはきっと口実で、本当はもっと厄介な面倒事を持ってきたに違いない。

 1ヶ月と期限をつけたはずなのに、とっくに過ぎてしまうほど俺はギルド流通部の顧問をしているわけで……。

 この年増の女の魔性っぷりは見上げたものである。


「あぁ、彼女なら見事な働きっぷりですよ。動物が好きなんでしょうね。牧場の管理と、それから商品開発を独自にやってます」


 屠殺場での経験か、それとも昔からかはわからないがかなりの動物好きだ。汚い作業も手際よくこなすし、何より彼女が世話を始めてから動物たちの生産がぐっと上がったのだ。

 鼻高々になるので褒めてはやらないが正直助かっている。


「リアとはどうかしら?」


 一番の懸念材料であったが最初の3日だけ、リアとゾーイは睨み合っていた。姉弟子と妹弟子。そもそもゾーイが圧倒的に悪いという場面だったし、リアも譲れない思いがあったようだ。

 だが、女の気持ちは秋の空とはよく言ったもので。


「傷を隠す化粧術を日々2人で研究するほど仲良しですよ」


 出逢い方が違っていたら親友になっていたかもしれない。2人とも可愛くて、明るい子だ。


「最近じゃ、さっさと鑑定士の修行を終わらせて、医師になってリアの傷と目を治すんだってそっちの勉強も始めてますから」


 ギルドの受付カウンターで意地悪な顔をしていたゾーイを思い出せないほど、彼女の表情は変わっていた。俺自身、あの時の判断を間違えなくてよかったと心から思っている。

 

「そうそう、今日はね。貴方への用事とは別にこれを届けにきたのよ」


 ミーナが持っていた封筒は分厚い何かが入っている。宛先は「リア」だ。台所でパンの様子見をしていたリアを呼んで封筒を手渡した。


「うっそ! やった!」


 彼女が持っている書類とバッジを覗き込む。


【ギルド鑑定所 鑑定所員 合格】 【リア】


 いつの間に?!


「私ね、まだ冒険に出るのは怖い。でも……経験を積むにはダンジョンに関わらないといけない。だから、ギルドで働けばS級の冒険者が持ってきた物を見られるでしょ?」


 バッジを握りしめてぴょんぴょんと飛び跳ね、嬉しそうなリアはミーナにお礼を言った。

 ミーナが俺への依頼について口を開きかけた時のことだった。


——ギャーーー


 悲鳴とは程遠い、喉の奥からひねり出すような声とそして破裂音。クロとシロの鳴き声。

 俺たちは急いで牧場に向かう。

 黒い煙が上がっている草原の真ん中に立つ魔術師らしき男。

 その足元には血まみれのゾーイが転がっていた。


「愛するマリカ。仇はとった。俺もすぐに……お前の元へ」


「やめなさいっ!」


 ミーナが叫んだのと同時くらいだろうか。男は手に取ったナイフで自らの首を掻っ切った。まるで人形のように男が倒れ、ビクビクと痙攣をする。


「ゾーイ! ゾーイ!」


 ゾーイの元へ駆け寄ったリアは半狂乱で名前を呼び続けていた。なぜ侵入された? なぜ……魔術師が……?


「お願い……医師でも回復術師でもいい……早く! 早く!」


 リアが泣き叫ぶ。俺は急いでゾーイの元へ駆け寄った。

 まだ息はあるがかなり危険な状態だ。

 左足は太ももの真ん中あたりからなくなっていたし、腹にはナイフで刺されたような傷もある。


「あの子……死なせちゃった……私を……かばって」


 ゾーイはやっとのことで口を動かす。彼女の視線の先には黒焦げになった雌鶏がいた。


「ソルト、すぐに医師を呼んできて。フィオーネが一番早くいけるでしょう。それから、シューを呼んで。魔術で血を止めます。リア、泣くのをやめて今から私が言うものを集めて」


 ミーナはテキパキと指示をしながらもゾーイの傷口の止血をする。俺は言われた通り仲間全員にそれを伝達する。

 こう言う時、鑑定士は無力だ。

 俺は何もできないまま、事の行方を見守ることしかできない。

 

「マリカの男……いや家族か」


 動かなくなった魔術師の男のロケットを見て、俺は彼がマリカの兄か弟であることを理解した。ギルドで守られていたゾーイをずっと前から殺そうとしていたはずだ。

 俺が……ここに連れてきたせいだ。

 記憶を消し、あの姉と一緒に帰っていれば……少なからず刺されたとしてもすぐそばに医師がいて、こんな状態にはならなかったはずだ。


「医師は……医師はまだなの!」


「いやだ……ゾーイ! これから私にツグナイしてくれるんでしょ。目……治してくれるんでしょ」


 

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