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第16話 レッツ栽培(2)


「これは幻惑魚という魚です。これを食べると排出されるまでの間、食べた生き物にとって都合のいい幻惑を見せてくれるでしょう。お姉さん、この魚何に見えますか?」


 俺に質問された魔術師の女は自信満々に顎を上げた。


「何よ。鑑定士じゃなくても私は料理担当。魚の種類くらいわかるわ。あんたが手にとってるのは迷宮鱒《《ダンジョンマス》》でしょ」


「何言ってるんだ?どう見てもただのサーモンだろ?」


「何を言ってるんですか! あれは鯉でしょ?」


 大馬鹿3人パーティーは顔を見合わせてからもう一度俺が持っている魚を見つめる。


「なんで、わかったんですか」


 戦士は悔しそうに魚を逃した。相変わらず後ろの女どもがヒソヒソしていて耳障りだ。


「あぁ、中級ダンジョンの魚がやすやすと手づかみされるなんてそれだけでちょっとおかしい。幻惑魚を見分けるにはここ、口元を見るんだ」


 俺は幻惑魚の顔を大馬鹿パーティに見せてやる。


「う……うわぁ」


 なんとも言えない汚物を見るような目で魚を見ながら大馬鹿たちは声を上げた。外観は幻惑で装えても口の中は意外と無防備。

 幻惑魚の口の中はトラップらしく小さなキノコがびっしりと生えているのだ。


「お礼もなしかよ」


 悪態をつきながら俺と別の方向へ向かった3人の背中に文句を言って、俺は採集の続きをする。

 

「ソルトはお人好しにゃ」


 そうだな、と返事をして植物に目を戻す。


「あんにゃのほっとけばよかったにゃ」


「幻惑魚は騙せる奴らの前にしか現れない。つまり、俺じゃ捕まえらんないんだよ。ギルド鑑定所に寄付でもして金稼ごうかなって」


 シューは抜け目ないやつにゃあ。と言いながらも口を尖らせる。やっぱり魔物としては人が死ぬところを見たいんだろうか?

 俺は見たくない。

 あれは……見て楽しいもんじゃないからな。


***


「いっぱい採れたにゃ」


「おふたりなら……鑑定所は通さなくても大丈夫ですがどうしますか?」


 シャーリャは担当が増えたのか忙しそうだった。あの大人気受付嬢のゾーイが豚小屋行きになったことでシャーリャをはじめとする股を開かず生真面目に頑張る子たちが報われているのは俺も嬉しい。


「珍しい魚が手に入ったから、ちょっと寄ってくよ」


 ギルド内の鑑定所に【幻惑魚】を渡し、その他の植物は口頭検査のみで通過。鑑定士たちに礼を言ってからギルドの出口へと向かった。


「ん、シュー。ミルク買って帰るか」


「にゃ〜」


「あの!!」


 どこかで聞いたような、聞いていないような……キンキンした女の声。猫の姿のシューがフシャーッッと唸った。

 左目に可愛らしいコボルトが描かれた眼帯、体の所々に傷跡があり痛々しい。

 あの栗色の瞳……どこかで見たことがあるような?


「なんすか? 誰スカ?」


 ボリボリと後頭部を掻いて、俺はため息をつく。採集は重労働だし、さっさと帰って処理をしないとせっかくの植物が死ぬ。

 それになんとなく面倒事の匂いがする。


「ひどい! おぼえてないんですか!」


「ごめん、誰?」


「リアですよ! り! あ!」


 俺はしばらく目の前の眼帯女の顔を見つめ考える。10年も冒険者やってればそれなりに女とは出会ってるし、可愛いなと口説いた子もいた。

 でも、こいつには覚えがない。全くない。


——フシャーッ!


「シュー?」


 シューは知ってるのか。ん? 女の子好きなシューが唸るなんてそうそうない。シューが嫌う女……。といえば、タケルのパーティーの誰か。


「あ!」


「はっ!」


 俺が大声を出したもんだからリアはびっくりしてのけぞった。


「定食屋の看板娘!」


「違います! 新人鑑定士ですぅ!」


 キーキーとリアが耳元で喚く。シューは今にもリアに飛びかかる勢いで唸る。


「もう勘弁してくれーー!!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] タケルに助けられたか。諸悪の根源
[一言] 生きとったんか(・_・;
[気になる点] ここまで鑑定を蔑ろにしてて、今まで毒性の物を食べる事件は起きなかったのか?
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