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第12話 俺の農場(2)


「はぁっ、はぁっ……」


 荒い息で体は熱を放ち、何度か嘔吐したらしい。俺の家のソファーの上で寝かされている少女はガキ大将……フウタの妹である。


「きっと……落ちてるものか、捨てられたもの食ったんだと思う。でもこんなになるのはおかしいよ」


 半べそでフウタは言った。確かに、ただの食中毒にしちゃ様子が変だ。白目は黄色く変色し、顔色も青っぽい。

 毒か? ゴミを拾って食べたとしたら? いや、そもそも食べれそうなゴミしか食わないだろ。


「にいちゃん、S級の冒険者だったんだろ! 治してよ! お願いだよ!」


 いつもの逞しいフウタとは違って弱気で妹が死ぬ恐怖に震えている少年は俺に懇願した。


「ゴミ箱……イモイモ焼きが捨ててあって私……それ」


 小さな声で少女がつぶやく。息も絶え絶え、苦しそうで見ていられない。イモイモと言えば一般的なイモの一種で初級者ダンジョンでも自生しているし、多くの農家が扱う超初級の穀物だ。

 この街の人はイモイモを蒸したものや焼いたものを主食にしている。つまり、毒物が塗られていたイモイモ焼きを食べた可能性が高い。


「フィオーネ、医者に連れて行ってくれるか」


 フィオーネはポケットのペクスを確認してから大きく頷いた。そのまま少女を軽く抱き上げるとフウタと共に街へ向かった。


「一緒にいかないのかにゃ?」


「ああ、戦士が貧民街の少女を助けた……その方が医者も力をいれてくれるだろ」


「イモイモ焼きに毒……気になるにゃ」


「ちょうどタネ集めの前に露店街を通る予定だからチラ見するか」


 シューが「さすが!」と手を叩いた。面倒事に巻き込まれたくないはずなのに、どうしたって気になってしまう。

 あんな少女の姿を見せられたら……もしもあのイモイモが……いや、憶測はやめておこう。


***


「いらっしゃい! お兄さん、イモイモ焼きはどうだい?」


 木の串に刺さったイモイモはジューシーに焦げて、溶けたバターと塩の香りが食欲をそそる。この店はいろんなソースがセルフサービスでかけられるので最近人気が高いらしい。


「イモイモを見せてくれるか?」


 不思議そうな顔で積み上がった木箱から皮を剥く前のイモイモを取り出した店主は「うちは卸しじゃないよ」と苦笑いした。

 これでもう3件目。どこも異常はない。


——ただ、あの症状はどこかで見たことがある。


「これ、どこで買った?」


「あぁ、ダンジョン帰りの冒険者が安く売ってくれてね」


 店主はゴホゴホと咳をする。


「その冒険者の名前は」


「え? なんだい、よく聞こえねぇよぉ」


「その冒険者は誰だ!」


 俺が大声を出したことに驚いたのか、店主はトングを地面に落とした。露店街を歩いていた人たちも何かあったのかと足を止める。


「これはイモイモじゃない! クモイモだ!」


「何行ってんだい! どうみたってイモイモじゃないか」


「俺は元S級の鑑定士だ。いいか、これは上級ダンジョンでたくさんの冒険者を毒死させたクモイモだ」


 店主の顔色はみるみるうちに青くなる。


「で、でっちあげだ! 鑑定士が……鑑定士がなんだってんだい!」


「なら食ってみろ。 ものの数分で毒が回って立つことすらできなくなる。卸しは鑑定士を通して作物を販売してる。それはダンジョンに自生する植物が巧妙に毒を隠すからだ。お前は冒険者から直接買った。鑑定士を軽んじて毒をばらまいたんだ」


 店主はひぃっと言いながらクモイモを地面に落とした。


——ったく! またギルドに行かないといけねぇじゃねぇか


 俺は店主を引きずってギルドへと向かった。

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