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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

宇宙作家シリーズ

糸の宮殿への招待状

作者: 宇宙作家

この短編には残酷な描写や不快感を与える描写があります。特にグロ、虫系の描写が苦手な方は閲覧をお控え下さい。

知らぬ内に、天井に蜘蛛の巣が張られていた。仕事を終え、東京郊外の駅で降りて安いチューハイを帰路で飲み干し、風呂と夕食だけ取ってベッドにつく。そんな日常のある日に疲れ切った目でぼーっと天井を見上げると、隅に蜘蛛の巣があったのだ。


かなり大きい巣で、幅は20cmほどはあるように見えた。中々どうして大きい巣だったので私は驚き、片づけようかなと思ったが酔っていたし、体の気怠さもあって起きてからやればいいと判断してそのまま眠気に身を任せた。


不思議なことに、朝起きるとその巣は綺麗さっぱり無くなっていた。酔っていたし変な物でも見たのかと考えたが、その日再びベッドにつくとまた巣があった。昨日と同じ隅に出来ている。私はベッドから起きると部屋の電気をつけて、その巣を片付けようとしてその巣を良く見た瞬間手が止まった。


その巣はかなり特殊だった。というのも、糸の色が金色だったのだ。部屋の光を反射し、黄金色に輝く美しい糸で張り巡らされた巣。初めて見る宝石に心奪われる幼い子供の様に、私はそれに釘付けにされた。


ふとこれを張った主の事に考えが至った。金色の糸を出す蜘蛛など聞いたことがない。これは世にも珍しい新種の蜘蛛ではないか?


辺りを見渡し、糸の主を探してみたが全くそれらしい気配はなく(蚊なら2匹も見つけたが!)結局諦めてそのまま眠りについた。巣はそのままにしておいた。


また朝になると、その巣は綺麗さっぱり消えていた。





黄金の蜘蛛の巣を見つけてから一月が経った。あれからも巣は夜私がベッドに寝転がると現れ、眠りにつくまでその美しさで私を楽しませ、朝になると消えた。その間も主が現れる事は無かった。それはもはや私の生活の一部となり、私だけが持つ密かな癒しでもあった。


職場にいる最中もあの美しさが私の眼底に張り付いて離れない。一刻も早く家に戻りたい。そんな考えに私はなっていた。気になって気になって仕方がないのだ。蜘蛛を見つけるとそれが糸を吐くのを見たいと思い観察するようにもなった。もしかしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。飲み会も食事の誘いも何もかも断るようになった。そんな下らない何の発展性もない集まりなんかに顔を出すよりもっと有意義で、もっと楽しい事を私は知っているから。あの美しい黄金の糸の巣。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


あれは糸の宮殿だ。この世で最も美しい黄金の宮殿なのだ。




それから更に月日が経ち、冬が来た。もはや虫などが活動できる時期では無いにも関わらず、その黄金の宮殿は依然としてそこにあった。むしろあれから更に大きくなり、今ではその大きさは天井を埋め尽くす程だった。明かりを消し、天井を見ると夜空に星が輝くように黄金の糸が美しく穏やかな光を放つ。筆舌に尽くしがたい眺めだった。これは私だけが知っている、私だけの輝きだ。


杞憂かもしれないが私は不在の時でもエアコンをつけ、糸の主が寒さにやられないようにしていた。少々電気代はかさむがそんな事は大した問題ではない。あの宮殿を守る為だ。私は完全に黄金の宮殿に魅入られていた。美しさもさることながら、あの黄金の輝きを見ているとまるで、母親の温かな温もりで抱きしめられているような安心感を覚える。極まった時には朝になって巣が消えるまで一晩中見続けていた事もあった。





夢を見た。黄金に輝く宮殿の夢。いや、今度は形容ではない。()()()()殿()()。美しい宮殿は黄金で形作られ、窓は透明なクリスタル。庭園の植物は花の代わりに様々な宝石を咲かせ、流れる澄み切った水は受けた光を反射し、それを更に数々の宝石達が反射し極彩色の輝きを放つ。まさしく理想郷。伝説のシャングリラ。あの黄金の巣ですら比肩し得ない究極の美。私はそれに触れようと手を伸ばし



そこで幸福な夢は終わった。



それから毎日、あの理想郷の夢を見るようになった。もはや黄金の巣ですら私の眼中には入らなくなった。ベッドに入ればすぐさま眼を閉じ、理想郷の景色を思い浮かべながら眠気が訪れるのを餌を待つ雛鳥のように待ちわびる。夢に入ればあの美しい宮殿が私の視界を埋め尽くし、眼球から全身へ凄まじい幸福感が流れ込んでくる。凄まじい興奮、凄まじい愉悦、凄まじい絶頂感。もはや現実などはいい。早く夢が見たい。あの景色が見たい。触れたい。しかし触ろうとすればたちまち夢は終わり、私は醜い天井を視界に目を覚ましてしまう。


ああ、ああ。なんと醜い事か!世界のなんと醜き事か!あの黄金の糸もなく、光り輝く宝石の庭園もない!あるのは死んだ目で働く人間と薄汚いコンクリートの風景だけ!下らない!目に入れる事すら苦痛だ!いっそのこと目を潰してしまうか?そうすれば醜い物を視界に入れる事も無くなる。そして私の眼底に焦げるほどに焼き付いたあの黄金の宮殿の映像が永久にリピートされ続けるのだ!早速家に帰ったら試そうか、何で潰すのがいい?そういえばアイスピックがあったか?あれなら都合が良いか…


いや、駄目だ。生活に支障が出てしまう。そうすればあの夢に浸る事すらできなくなる…ああ、なんと現実の煩わしき事か!思わず悪態をつきながらベッドにつく。まあいいさ、あの黄金の輝きが全てを忘れさせてくれるだろう…


明かりを消してベッドにつく。すぐにでも眠ろうと眼を閉じようとすると四方から光を感じて思わず閉じた眼を開いて部屋を見渡した。




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。天井だけではない。壁、床、家具、テレビ、私の寝ているベッド、()()()()()()()()



美しい、と思った。




いよいよ12月末、年末に差し掛かるという時期に私は山口県を訪れていた。帰省では無い。あの黄金の宮殿を探す為だ。


発端は一週間ほど前だ。いつものように理想郷の夢に浸っていた私だったが、その夢はいつもと違っていた。見覚えのある醜いコンクリートの世界から始まったのだ。苦痛に声をあげそうになったが、そのイメージは段々と移動を始めた。数々の道路を伝い、線路を越え、山を越え…そして洞窟の中へと入った。暗く深く、深淵にまで届きそうな程奥の奥まで行ったその先に、我が待望の理想郷があった。その時の私の興奮たるや!醜い世界をかき分けた先に広がる理想郷という展開はそれの実在感を私にもたらした。醜い世界をさんざ見せられた後の眩い黄金の輝きはまさしく前菜を終えた後のメインディッシュ。私は宮殿の景色を新鮮な気持ちで心行くまで楽しんだ。


そして、それから一週間同じ内容の夢を見続けた。夢を見れば見るほど、道のりを意識で覚えていく。自分でも恐ろしい程にどういけばいいか手に取るように分かった。かかる時間、使う交通機関、洞窟の場所…それらの全てが頭に鮮明に浮かんでくる。一週間も経つ頃には一度も行ったことがないにも関わらず、帰り慣れた家の様にその場所が分かった。


私は導かれた。あの黄金の理想郷に、私は導かれた。選ばれたのだ。



そして私は今ここにいる。夢で見続けた洞窟。山口が誇る鍾乳洞。その内の誰も訪れようとすらしない一つに。水の滴る音が洞窟に心地よく響く。冬の肌寒さとはまた違う空気感としてのひんやりとした冷たさ。長い年月をかけて形成された針のような岩々。確かに現世の景色としては美しい方ではあっただろう。しかし、理想郷の輝きを知る私にとっては取るに足らない風景に過ぎない。むしろ私の興奮は、自身が()()()()()()()()()()辿()()()()()事実に向けられていた。



間違いない。ある。この先に。



長い時間を歩いた。途中から一本道の坂となっていて、私は深く深く、それこそ地球の底にまで届いてしまうのではないかと錯覚するほどに深くまで進んでいた。しかし体の疲れは全く感じていなかった。むしろ、底に向かえば向かう程力強くなっていくような、強い力で引っ張られているような感覚だった。


やがて開けた場所に出ると、眩い光が私を襲った。暗い洞窟で慣れた眼では受け止めきれない程の眩く、美しい光だった。なんとそこには黄金の糸が広がっていた。下は空洞になっており底が見えない程深い。その開いた空間に膨大な黄金の糸の巣が広がっているのだ。四方八方の黄金の輝きが醜い風景ばかりに晒されてきた私の眼を癒す。周りをよく眺めていると、やはり糸だけでは強度が不安定なのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()ようだった。


間違いない。理想郷はこの先だ。私の家に最初に現れたあの黄金の糸の巣。そして夢に見た理想郷。それは全て繋がっていたのだ。この巣の先に、それはある。間もなくだ。


ふと、道の先で何かが動いた。30cm程の子犬くらいの生き物だ。こんな洞窟の奥深くに生き物がいるのかと訝り、眼を凝らしてみた。





()()()()()()()()()()()()()。私の顔よりも大きい巨大な蜘蛛だ。しかもそれは巨大なばかりではなかった。背中が裂けていて、裂けた背から芋虫のような何かが3本生え出ている。その3本の芋虫はブヨブヨした体をしきりにうねらせて地面に口をこすりつけている。芋虫の体の側面には口のような穴がいくつも開いていて、そこから滴る液体が地面に触れるたびにジュッ、という音をあげている。見ていられず背中から目を背けると蜘蛛の複眼が私を捉える。複眼と言っても普通の眼ではなく、魚類のような乾いた生気を宿さない眼だ。それが頭部だけでなく、蜘蛛の体中いたる所から生えており、ぐりんぐりんとせわしなく動かし周囲の物を観察し続けている。


おぞましい。あまりにもおぞましい醜い蜘蛛だった。私は思わず吐き気を覚えた。馬鹿な、あの夢にこんなおぞましい生き物は出てこなかった。これは明らかにこの世のものではない。


口を抑えうずくまる私の前で、蜘蛛の背の芋虫が何かを吐き出し、壁へと噴射した。私はギョッとした。それはあの黄金の糸。私の部屋に張り巡らされ、私を虜にしたあの黄金の宮殿の素材であった。


馬鹿な、こんな醜い、こんなおぞましい生き物が、あの糸の主だというのか?


その蜘蛛は目の前で打ちひしがれる私には目もくれず、壁と地面に糸を吐きかけると、その糸で地面と壁の一部に巻き付けたり、広げたりし始めた。やがて作業を終えるとそいつは去って行った。


頭が混乱していた。なんだ、今の風景は?ここは理想郷ではないのか?あの蜘蛛と呼んでいいのかさえ分からない何かは何なのだ?あれが理想郷の主なのか?


目の前で起きていることは私の理解を越えていた。しかしそれでも私は前に進むことを選んだ。あの美しいこの世の何にも代えがたい景色をこの眼で、体で、感覚で感じたい。その欲求が恐怖に打ち勝った。意を決して足場らしきものを踏みしめ先へと進んだ。




先へ進んで行くと、さっき見つけた蜘蛛のような何かは無数に存在していることがわかった。至る所で何かを運びながら黄金の糸を吐き、巣を拡張している。中には姿形の違う個体もいた。腹は避けているが芋虫が生えていたりはしていない。しかし姿はある意味最初の蜘蛛よりもおぞましかった。まるで人間のような姿をしているのだ。人間が逆様に四つん這いの体勢を取っているような姿(ブリッジと言えばわかるだろうか)をしていた。蜘蛛人間、というのが最もしっくりくるような異形の姿だった。蜘蛛人間達は基本的に蜘蛛達の後について回っているようで、彼らの吐いた糸などを張り巡らせる手伝いをしているようだった。


正直あまり視界に入れたくはなかったので極力彼らの方を向かないようにした。きっと彼らはこの宮殿を作る大工なのだ。そう考えれば少しは恐怖も薄らいだ。彼らは私に危害を加える素振りを一切見せなかった。きっとこの宮殿の主が彼らの糸の美しさに目を付けて使役しているだけ…そう、それだけだ。姿形が歪なだけで邪悪な者ではない。


ふと思った。使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()殿()()()()()()()()()()




長い長い巣を進んでいくと、やがて黄金の糸で作られた巨大なドームの前へ辿り着いた。強い胸騒ぎがした。ドームからはぐじゅぐじゅという生音が聞こえてくる。何かを食べているかのような音だ。それに混じって何かも聞こえてくる。人のうめき声だ。あぁ、とかうぅ、とかの言葉にならない吐息に近いような声。本能が警鐘を鳴らした。心臓の鼓動が早くなる。しかし、もはや欲求は止められない。この先に理想郷があるかもしれない。このドームを抜けた先に、焦いに焦がれたあの景色が。美しき黄金宮殿が。期待と恐怖、希望と絶望をないまぜにした感情のまま、私はドームに足を踏み入れた。







人が、喰われていた。あの蜘蛛共に。喰われていた。黄金の糸で手足を縛られ、蜘蛛共に腹から齧られ喰われている。一人だけではなかった。二人、三人…数えきれないほどいた。一瞬で理解した。ここは()()()()()()()何人か喰われた後の状態の人間もいた。腹を綺麗に喰われ、骨と皮しか残っていない者。臓物の食べ残しがだらんと空洞から覗く者。乱暴に切り裂かれ、血をぶちまけられた状態の者。ドーム内は血と臓物と腐臭の香りが交り合い、蕩けた吐き気を催す匂いが充満していた。


私は絶叫した。叫ぶしかできなかった。あまりの恐怖と絶望に叫んだ。目の前のことが何一つ理解できない。私が醜いと切り捨てた現実より遥かにおぞましい光景に震えあがった。眼を潰そうか、と前考えたことを思い出した。本当にあの時、眼を潰しておけばとすら思えるほどの凄惨な光景だった。


蜘蛛共が私の絶叫を聞いて一斉にこちらを振り返った。体中にびっしり生えた魚眼すべてで私を捕えてくる。その瞬間に私は理解した。私がここに導かれた理由を。いや、導かれたのではない。釣られたのだ。深海で光を用いて獲物を捕らえる魚のように、この蜘蛛共の作り出す黄金に引き寄せられたのだ。存在もしない理想郷に心を奪われた時から、私はこの蜘蛛の糸に捕えられていた。私は導かれ選ばれたものなどではなく、ただ釣られただけの餌でしか無かったのだ。


私は一目散に駆け出して逃げた。あまりの恐ろしさに足が震えてまともに走れない。走っては転び、また起き上がっては転ぶ。蜘蛛達の殆どは大して追う気配を見せなかった。追う必要がないという風にすら見えた。私はそのままドームから抜けだそうとして



何かに腕を掴まれた。捕まれた方を振り返ると、あの蜘蛛共に喰われた死体が私の腕を掴んでいた。いや、死体ではなかった。目はとろんとしていたが生気を宿しており、異常に激しくなって脈動するのが肉眼でもわかるほどに首筋の血管が活発化していた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは私に向かって心底幸せそうな顔でもう片方の手を伸ばしてきた。


私は掴まれた方と逆の手でそいつの顔を思いっきりぶん殴った。泣き叫びながら幾度も幾度も顔の形が変わるまで殴り続けた。耐えきれなくなったそいつは私の方から手を放す。解放された私が周囲を見渡すと周りの糸に囚われた死体達が動き始めていた。糸から器用に抜け出すと上下逆様に四つん這いの姿勢をとり、ひっくり返されたニタニタした顔でこちらを見つめる。沿った空洞の腹から臓物が覗いており、体を揺らす度に中身を周囲にぶちまける者もいた。これがあの蜘蛛人間の正体だったのだ。食料として貪り喰われた後も、蜘蛛共に使役される生きた死体。それが蜘蛛人間だった。


私は全速力でドームから走り去った。後ろから蜘蛛人間達の追ってくる音が聞こえてくる。走り去っていく最中で回りの蜘蛛達がこっちを眺めているのが見えた。そこでようやく、この蜘蛛達が何を持ち運んでいるのかが分かった。人間の死体だ。人間の死体を奴らは持ち運んでいるのだ。人間を魅了し誘い込み、食料として喰らった後、生かしたまま働かせ、場合によっては殺害して()()()()()。材料とは即ち足場の材料だ。私が今まで、そしてたった今も踏みしめているこの足場は人間の屍だ。ここは黄金の糸と屍で形作られた死の宮殿なのだ。


やがて、逃げ続けるのにも限界がやってきた。私の目の前に巨大な黄金の糸の壁が立ち塞がった。行き止まりだ。逃げようと方向を変えようとするが後ろからは蜘蛛人間共が瞬く間に押し寄せて私を取り囲んだ。逃げ場はない。


蜘蛛人間の後ろに芋虫を生やした蜘蛛達も何匹かいた。餌が待ちきれないと言わんばかりに蜘蛛人間共を押し寄せ前に出る。背中の芋虫も餌が待ちきれないのかブヨブヨの体をしきりにくねらせ、体中に開いた穴から涎のような液体を垂れ流している。もう逃げられない。





嫌だ。嫌だ。こんなのは嫌だ。誰か。たすけて。たすけてくれ。神様。





そう願った途端、蜘蛛達の様子が変わった。芋虫を生やした蜘蛛も、蜘蛛人間達も急に何かを警戒するように後ずさりする。明らかに様子がおかしい。やがて蜘蛛達は足を広げ、頭を地面に平伏させるように置いた。蜘蛛人間達もそれに続く。


何だ、これは。祈りが通じたのか?何がなんだか分からない。やがて蜘蛛達は何か音を発し始めた。その言葉が聞こえるたび、脳が強く揺さぶられるような感覚を覚える。眼が回るような感覚。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()蜘蛛達は同じ音を連呼している。到底人の言葉に変えられそうな音ではないが、無理に言葉に起こすならそれは





アトラク=ナクァ





何故だかわからないが、蜘蛛達を真似てその言葉を口にする。すると突然背後から強烈な何かを感じた。これは、なんだ?何もわからない、わからないが。凄まじい恐怖を感じた。この屍の宮殿で感じたどの恐怖よりももっと根源的で、本能的な恐ろしさを。後ろに何かいる。


ゆっくりと後ろを振り向くと、黄金の糸の壁が何かにこじ開けられようとしている所だった。その何かというのは########で、まるで***********を???????????????ような。見てはいけない。感じてはいけない。全身が、本能が、理性が。私の生物としてのほぼ全てがそう訴える。しかし、心だけはそれに強く惹かれていた。




間違いない。私の求めていたものは今目の前にある。




私の求めた理想郷。この世のあらゆるものよりも美しい景色。それの偉大なる主。それが、今。目の前に。


見たい。どれほど美しいのか。私はこのためにここに来たのだから。


ああ、今開く。黄金の糸の門が。ついについに。この時が。



ああ今その姿がみえ



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めをさました。ながいことねていたきがする。わたしはいえをでた。すばらしいけしきがそこにはひろがっている。


(美しい宮殿は黄金で形作られ、窓は透明なクリスタル。庭園の植物は花の代わりに様々な宝石を咲かせ、流れる澄み切った水は受けた光を反射し、それを更に数々の宝石達が反射し極彩色の輝きを放つ。)


あたまにだれかのこえがひびく。だれのものかはわからない。だがいまのけしきをあらわすのにはぴったりだ。


さて、はたらかなくては。あのおかたのために。あのおかたがいずれやってくるそのときのために。このきゅうでんをひろげなくては。


それにしても。ああかゆいかゆい。おなかがかゆい。ぽっかりあいたおなかがかゆい。


ああそうだ。しょうたいじょうもおくらないと。


きれいなきれいな、らくえんへのしょうたいを。おうごんのいとにのせて。






アトラク=ナクア

蜘蛛の神性を持つとされる神。広大な深淵に巨大な巣を張りつつ、無限の幽閉期間を送っている。

その巣が完成した時が、世界の終焉の時だと言われている。



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https://ncode.syosetu.com/s2473f/


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