Ⅰ 悪魔の存在
悪魔使いの服従紋
2034年日本。
この世には悪魔と呼ばれる存在がいる。
とはいっても一般人には任地される事はない。
選ばれた人間にしか姿を捉える事はできない…。
そしてその悪魔を消滅させる為に行動する人間も…。
『はあはあ、どうしてこうなるんだよ。』
赤髪の女性が右肩を押さえながら空き地を颯爽と駆け抜けている。
右肩からは一通の赤い鮮血が滴っていた。
『待て!』
そしてその女性を背後から追う男がいた。
『はあはあ。何だよ。いきなり襲い掛かって来て。』
その女性は必死に走るが怪我のせいもありみるみる内に男との距離が縮んでいく。
そしてついに。
『捕まえたぞ。』
『くそおおおおおおおお』
女性は男に押さえ付けられた。
雨が滴る夜の中。
学校で寝ていたらすっかり夜になっていた。
誰か起こしてくれてもいいのにな…。
『菜樹亜に何て言おうか。』
そう呟きつつ近道である空き地を抜けて行こうと決めた。
暫く歩くと何やら人影が見えた様な気がした。
何時もは誰も居ないのにな。
と考えつつ歩いていると
この雨の中に傘も差さずに一人の男性が立っていた。
『何してるんだ?』
よくよく見るとその男性の足が何かを踏んづけていた。
それは、一人の女性だった。
俺、黒羽魔紋【くろはまもん】はここから悪魔と言う異形の存在と始めて出会うこととなる。
しばらく見ていると男性が気付いたのか此方を睨んだ。
『誰だ!!』
『あ、いや。』
その表情はまさしく鬼の形相であった。
『何を見ている!!!』
『いや、何があったかは知りませんが、流石に女の子をそこまでいたぶるのはどうかと…。』
目の前に倒れている女性を指差して俺は怪しげな服装をした男にそう言う。
その女性は至る所から血が出ている。
一体何をやらかしたんだ?
『おい、小僧。貴様。まさか、こいつが見えるのか?』
怪しげな男は驚愕した様に目を見開いている。
見えるか?だって?
『何を言ってるんだ?はっきり見えるけど。』
『なんだと…?』
『よくわからないけど、流石にやり過ぎだと思うけど?』
俺がそう問い掛けると男は不敵な笑みを浮かべた。
『ほお…。例えこの女が悪魔だったとしても同じことを言えるか?』
『悪魔?』
聞いた事がある。
と言うか誰もが聞いた事があるだろう…。
でもそれはあくまで空想上の話だからな…。
悪魔だけにな…。
『そうだ。悪魔だ。人間に害を無し不幸にするあの悪魔だ。』
『まさか、悪魔っていっても空想の話だろ?あ!分かった!ドラマの撮影か何かか!?』
『小僧。貴様ふざけているのか…?』
怪しげな男は静かな口調でなおかつ怒りを露にした表情を見せた。
何をそんなに怒っているのだろうか…。
『いや、ふざけてないけど。でも、悪魔って…。』
『まあ、良い。今、立ち去れば無かった事にしてやろう。さっさと立ち去れ!!
そしてこの事は他言無用だ。』
そう言うと男は再び女性の方を振り向いた。
『早く立ち去れ!!貴様から消されたいのか!』
男の怒鳴り声に思わずビクついてしまう。
何だよ!消されたいって!
『分かった!立ち去るから!!』
そう言って俺は踵を帰した。
ふりをして走ってその男の下に滑り込んで倒れていた女性の手を付かんで走った。
サッカー部もびっくりの見事なスライディングで。
やっぱり見て見ぬふりは出来ない!!
『な!貴様!!!!』
男は不意を突かれた様に暫し呆然とした後に口を開く。
『とまれ!!!』
男は怒りながらそう叫ぶがもちろん止まる気はもっとう無い。
逃げ足だけは早いんだよな…。俺。
男との距離はみるみる内に離れていく。
『はあはあ。』
俺、凄い勢いで走って逃げているナウ!
『ち、ちょっと何してるの!?君。』
赤髪を靡かせながら手を引かれる女性は戸惑っている様子で口を開いた。
初めて声を聴いたな。
『何って。終われているんだろ?なら、逃げないと。』
俺は足を止める事をなく返答をする。
『逃げるって…。僕、悪魔だよ?』
『だからその悪魔ってのがよく分からないんだって!とにかく、逃げよう!!話はそれからだ!』
そう言うと女性は頷いた。
背後から追ってくる男から逃げる為に再び走り出した。
まあ、もう男の姿は見えないんだけど、一応ね。
『はあはあ、この辺りまで来れば取りあえずは大丈夫か』
結構走っただろうか…。
工場の裏路地に腰を下ろした。
はあ、疲れた。
『大丈夫かって…。君、自分が何をしたのか分かっているのかい?』
『襲われてる女の子を助けた。ただそれだけだよ。』
『それが悪魔でも?』
『悪魔だろうが天使だろうが関係ないさ。』
『ふふ、君は面白いね!』
その女性は不適に微笑んだ。
『まあ、正直よくわからないけどな。悪魔って空想上の生き物じゃないのか!?』
『君本当に何も知らないのかい!?』
『ああ、知らない。』
『本当に何も知らないで助けたのか…。』
その女性は暫し考える様子でその後に口を開いた。
『成る程。なら助けてくれたお礼に説明をしようか。』
『ああ。頼む。』
『まずは悪魔と言う存在についてだね。』
そう言うとその女性は説明を始めた。
『僕の名前はベルだよ。まあ、正確にはベルフェゴール。まあ、気軽にベルって呼んでよ!七つの大罪が一柱【怠惰】を司る悪魔さ。』
『ベルフェゴールって…。あの携帯のアプリとかによく出てくるあの悪魔?』
『そうさね!あれは少し可愛くしすぎだと思うけどね~』
そう言ってベルはあはは。と乾いた笑いを浮かべる。
『まあ、悪魔は現実にいる。って事さね。』
『そう言われてもな…。』
信じられないって言う気持ちが大半を閉めている。
目の前にいる女性に域なり悪魔です!と言われて、はいそうですか。となるほど俺はバカじゃない…。
『信じられないって言うのかい?』
ベルは少しムッとした表情をする。
『まあ、そうだなあ。』
『なら、仕方ないか。なら、見せて上げるよ!』
何をだ?と返すとベルは突如として何か気張り始めた?
『うんこか?ここはトイレじゃないぞ?』
『違うよ!!!!』
ベルは少し強めに突っ込んだ
そんなやり取りをしている後にベルの背中から突如として何か黒い物が現れる。
これは…。翼だ。
ベルの背中に漆黒の翼が生えている。
その姿はまさしく本当に本やアプリやアニメで見る悪魔の翼だった。
『嘘。。。だろ。。?』
思わず固まってしまう。
本当に…。悪魔だったって言うのか…?
『どう?これで信じて貰えたかな?これが、悪魔だよ。』
ベルの姿は言葉通り、そして自分達が思い描いていた通りの正しく悪魔の姿だった。
『おいおい…。マジか?』
『マジだよ?ほら』
そう言ってベルはくるりと一回転する。
背から生える翼や腰から生える尻尾がこれは現実だと物語っていた。
『これは…。信じるしか無いか…。』
目の前で見せられては信じるしか無いしな…。
『ふふ、やっと信じた。』
観念した様に話す俺にベルはふう。と息を吐く。
それと同時にベルの背から生えている翼が無くなった。
『なら、あの男は何だったんだ?』
俺の言うあの男と言うのは先程、ベルを滅多打ちにしていたあの男だ。
見るからに怪しげな男だったからな…。
『ああ。彼らは所謂、悪魔払い【エクソシスト】と呼ばれる職業の者共だよ。』
悪魔払い…。
あの心霊特番にたまに出演しているあの十字架やら聖水を使う悪魔払い?
正直胡散臭いと思っていたがこの状況を見る限りは真実なのだろう…。
『で?やっぱりあの男が言っていた様に悪魔ってのは悪事を行うのか?』
まあ、名前に悪と入っている程だしな…。
『んー。正確には悪魔と言う存在が放つ気が邪気だと言う事だからね。悪魔が皆悪い奴とは限らないよ?』
『邪気?なんだそれ?』
『君は本当に何も知らないんだね。まあ、君たちに分かりやすく言えばオーラと言った所かな…。』
『オーラ。ね』
何やら先程から自分の中で信じていなかった事が真実だと判明していくな。
もう何がなんだか…。
オーラが見えるって人はマジで見えているのか。。。
この世に本当にそんなものが実在するのか…。
『そう。そのオーラが人に不幸を与えてしまうんだ。此方の意思を問わずにね。』
『なるほど。大体分かった。でも、悪魔ってのは祓う事しか出来ないのか?』
『んー。少し前までは祓う事でしか悪魔の邪気を消すことが出来なかったけど、どうやら最近悪魔の邪気を封印する能力を持つ人間がいると聞いてね。』
『それでその人間を探す内に悪魔祓いに狙われたって事か。』
『ご名答だよ。』
『その封印された悪魔はどうなるんだ?』
『んー、基本的には無害になると聞いたけど…。ごめんね。私も詳しい事は知らないんだ。』
『なるほど。』
俺が思っていたよりどうやら
この世界には不思議なことがある様だ。
『とにかく、僕はその封印出来る人間を見つけるまではあの悪魔祓いに捕まる訳にはいけないんだよ。』
先程の話から一つ疑問が生じた。それは
『ベルは封印されたいのか?』
『そうさね。祓われて消滅させられるよりかはずっと良いからね。』
俺は暫し考え込む。
ベルは無害な悪魔なのか…?
『なら、俺も手伝うよ』
俺のその発言にベルはポカンとした表情をする。
『へ?』
『いや、昼間は学校があるから手伝えないけど夜とかなら一緒に探すの手伝うぞ。』
『手伝うって…。君に何のメリットがあるのかい?』
メリット…。か
『目の前に困ってる人が居たら助けるだろ?』
『はい?』
ベルはしばらく面食らった表情をした後に大声を上げて笑い始めた。
『はははははははははははははははははは。はあはあ、本当に面白いね!君は。』
ベルは一頻り笑った後に急に真面目な顔になった。
『君本気で言っているのかい?僕を匿うと言うことはきっと君も狙われるよ?』
ベルの表情を見て此方も少し冷や汗を掻いた。
だが、助けたいと言うその気持ちは嘘ではなかった。
『ああ。本気だ。』
俺が返答するとベルはジッと見定める様に此方を見つめる
そしてしばらく見詰めた後、ふう。と溜め息を吐いた。
『全く。君はどれ程お人好しなんだい?』
呆れた様に口を開くがその表情は何処と無く嬉しそうにも見える。
『さぁね。』
軽く微笑むようにそう返す。
『なら、遠慮なく手伝ってもらおうかな。頼めるかい?』
そう言ってベルは右手を差し出してくる。
『ああ、喜んで。』
ベルから差し出された手を俺はギュッと握り返した。
悪魔とは言ってもその手に確かな温もりを感じた。
『それにしても追われてるんだったら家に来るか?』
『へ!?き、君の家に?』
『あ、ああ。』
『き、君は今日出会った悪魔を部屋に連れ込む気かい?』
何故こんなに狼狽えてるのかが分からない…。
『?悪魔の基準は俺にはよく分からないけど、何か不味いのか?』
『悪魔の基準云々の前に人としての常識的な問題でだね。』
『?』
『はぁ、もういいよ。でもありがたいから取りあえず今日は君の好意に甘えさせてもらおうかな。迷惑かけてごめんね。』
『ん?分かった。大丈夫だ』
何をそんなに渋っていたのか分からないが、まあ、来るなら来るで良いか。
『しかし菜樹亜にどう説明をしようか…。』
あの超が付くほどド級のブラコンは果たして許してくれるだろうか…。
『菜樹亜?恋人かな?』
『茶化すんじゃない。血の繋がった実の妹だ。』
『へえ、妹がいるんだ。君、妹と二人暮らしなのかい?』
『ああ。両親は仕事の都合で海外だ。』
『なるほどね。でも、妹さんに説明する必要は無いと思うよ。』
『それは何故だ?』
『普通の人には僕たちの姿は捉えられないからね。』
『俺は見えているけど?』
『君が異常なんだよ…。』
『へえ。そうなのか。』
そんなやり取りをしつつも俺はベルを連れて自宅へと向かっていった。
『ただいま~』
『お、お邪魔します。』
帰ってくるや否や二階からドタドタと急ぎ足の音が響き渡る。
『にい!遅い!』
二階から現れた髪の毛を二つ括りにして現れたその少女は列記とした俺の妹。黒羽菜樹亜【くろはなきあ】16歳で俺の二つ下の高校二年生だ。
菜樹亜は可愛らしいパンダのパジャマを身に付けている。
『ごめんごめん、』
『なにしてたの!?』
『いや、少しな。』
姿が見えていないのなら真実を言う必要も無いと思い敢えて濁して返答した。
『なにしてたの!?』
驚いた。
この妹。
真実を聞き出すまで問いただすつもりか?
流石は菜樹亜と言ったところか…。
『困っているお婆さんを助けてたんだよ』
咄嗟に再び嘘をついた。
まあ、バレる心配も無いしな
『へえ。嘘付くんだ。』
菜樹亜がジト目で俺を睨んでいる。
何故バレた!!と内心冷や汗を掻いていると
『ま、いいよ。菜樹亜が本当に、にぃに聞きたい事はそこじゃないから』
『何だと?どう言うことだ?』
そう問い掛けると菜樹亜はビシッと指を指して口を開いた。
『そこの女狐は誰か!って聞いてるの!』
その指はしっかりとベルの方を指差していた。
玄関のままでは流石にあれなので俺とベル。そして菜樹亜はリビングへと移動していた
『で?にぃ、その女は誰?』
菜樹亜は足を組みその足をブラブラさせながら此方に質問を投げ掛けてくる。
菜樹亜が足をブラブラさせている時はイライラしている証拠だ。
『菜樹亜お前、ベルが見えているのか?』
『はあ?何言ってるの?幽霊じゃ有るまいし。見えてるに決まってるじゃん!』
菜樹亜は心底気に食わないと言った表情だ。
俺はベルを後ろに向かせ小声で口を開いた。
『ベル。どう言うことだ?菜樹亜に見えてるけど?』
『ぼ、僕にも分からないよ!寧ろ僕が聞きたいくらいだよ!君たち兄弟は何故僕の姿が見えるんだい?』
『俺にも分からない!』
『何を二人でこそこそと話しているの!?』
菜樹亜の怒鳴り声にハッとして急いで菜樹亜に向き直る。
『い、いや、別に。なあ』
『う、うん。何も!』
『怪しい。』
菜樹亜のジト目にたじろいでいると今度はベルが口を開いた。
『じ、実は僕幽霊なんだよね!この人には僕が成仏するために手助けをしてもらおうとしているんだ!』
流石にそれは苦しいだろ。
まあ、似たような物だが。
『菜樹亜、幽霊なんか見えた事無いんだけど。』
菜樹亜の返答に今度はベルがたじろいだ。
『ほ、本当だ!彼女を成仏させるために少しだけ力を貸すだけだ!!』
『ふ~ん。』
菜樹亜は相変わらず疑いの目を此方に向けている。
『し、信じてくれ!』
俺は頭を下げた。
すると菜樹亜は溜め息を一つ吐き口を開いた。
『まあ、信じてあげなくもないけど…。』
『そうか!』
『で?その、えっと名前何だった?』
『僕は七つの大罪が一柱のベルフェごお』
俺は急いでベルの口をふさいだ。
早速こいつは何を口走ろうとしているんだ!?
『おい。何いきなり口走ろうとしているんだよ!』
再び後ろに向かせ小声で問いかけた。
『ご、ごめん。つい』
『悪魔は一々自己紹介を大層にしないとダメなのか!?』
『そんなことはないよ。さっきのは偶々だよ。』
そんなやり取りをしていると机からドンと音がなる。
菜樹亜が手に持っていたコップを勢いよく机に叩き付けた音だ。
『また内緒話!?』
『『すみません!』』
俺とベルは直ぐに菜樹亜に向き直り謝罪する。
菜樹亜、怒るとマジで怖いからな…。
『全くもう。それで?』
『それで、とは?』
ベルが聞き返すと菜樹亜は頭に怒りマークが現れそうな勢いで口を開いた。
『は?名前!聞いてる途中に内緒話始めたんじゃん!!』
菜樹亜が机をバンと叩き、それにベルがビクッと反応する。
この妹。怖い。
『あ、えっと、僕の名前はベルって言うんだ。』
『ベル?外国の人?』
菜樹亜が首をかしげる。
『ま、まあ、そんなところかな。』
『ふ~ん。菜樹亜の名前は菜樹亜だから。』
『あ、うん。よろしくね?菜樹亜。』
そう言って差し出された手を菜樹亜は軽く握った。
『でも勘違いしないでよね。菜樹亜はにぃが頼むからOKしただけなんだから。』
そう言うと菜樹亜は続けて口を開いた。
『それで?ベルさんは家に居候するつもり?』
菜樹亜の鋭い眼光に思わずウッとなるがそこは正直に頷いた。
『なるほどね。まあ、いいよ』
『え?』
予想外の返答に思わずすっとんきょうな声が出る。
『だーかーらー、菜樹亜はいいって言ってるの!』
『マジか?』
あの、菜樹亜が居候を許した…。だと?
『本当かい?』
ベルが菜樹亜に問い掛けるとベルは笑顔で頷いた。
その笑顔に俺は何やら寒気を感じた…。
菜樹亜がこの様な笑顔を向ける時は大抵裏がある…。
『うん!本当だよ!よろしくね!』
今度は菜樹亜が手を差し伸べベルがその手をガッチリと握り返した。
『菜樹亜、何が目的だ?』
『やだな~。にぃ。菜樹亜は優しさで行ってるだけだよ?』
俺の疑いの目を菜樹亜は軽く流すように否定した。
『本当か?』
『本当だよ?』
なるほど。
確かに早とちりし過ぎたかも知れないな。
どうやら菜樹亜にも人として誰かを助けたいと言った気持ちはある様だ。
一安心だ。
『ベルさんは菜樹亜の部屋を貸してあげるね!』
『本当かい!?』
『うんうん!!』
ほら、いい妹じゃないか。
見ず知らずの女性と相部屋をするなんて。
俺はどうやら菜樹亜を誤解していた様だ。
『だからベルさんは菜樹亜の部屋を存分に一人で使ってね!』
そう言って菜樹亜はウインクをした。
ん?
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん?
一人で使ってね。とはどう言うことだ?
『菜樹亜はにぃの部屋で寝るから!!』
そう来たかあああああああああああああああああああああああああああああああ。
完全に裏をかかれた…。
『なんだと!?』
『だって~見ず知らずの女の子とにぃを一緒の部屋にしてにぃが野獣になったら大変でしょ?』
この策士が!!!!
『ぼ、僕は別に彼と一緒の部屋でも構わないが』
何故か顔を赤らめてベルが主張する。
恐らく遠慮しているのだろう
『ダメダメ。ここはしっかりと血の繋がった妹の菜樹亜じゃないと!』
菜樹亜のごもっともの主張にベルはウッと引き下がる。
まあ、確かに妹である菜樹亜の方が落ち着いて眠る事が出来るだろう…。
俺には今日出会った女の子と一緒に寝れるような根性は無かった…。
菜樹亜が超ド級のブラコンな事はさておきベルの為にもそれが得策か。
『ま、まあ、仕方ないか』
俺が渋々頷くと菜樹亜はイエーイと立ち上がる。
『ならそれで決定ね!これ以上の異論は認めません!はい!終了!それじゃあ菜樹亜お風呂に入ってくるね!』
自分の言いたい事だけを言うと菜樹亜はそそくさと風呂場の方へと走っていく。
しばらく沈黙が流れた後にベルが口を開いた。
『あはは、君の妹って想像以上のブラコンなんだね。』
『ハッキリと言わないでくれ…。』
乾いた笑いをしながら話すベルに俺は小さく呟いた。
菜樹亜が風呂に入っている間に俺とベルは色々と話をしていた。
『えっと、それで?その、悪魔の邪気を封印する事が出来る人の特徴とかあるのか?』
『ごめんね。全く知らないんだ。』
『マジか?』
『うん…。噂程度に聞いただけだから本当に居るかどうかも…。』
『マジか。』
前途多難だな。
と深く溜め息を吐いた。
『ごめんね。』
『いや、手伝うと言ったのは俺だし謝らないでくれ…。』
『そっか。ありがとうね。』
ベルはそう言うと静かに微笑んだ。
その微笑みは悪魔とは思えない程優しい微笑みと感じた。
『とにかく、悪魔祓いの連中には捕まらないようにしないとな。』
『大丈夫かい?』
『ああ、逃げ足だけは早いんだよ。』
心配そうに此方を覗き込むベルに俺は笑顔で答えた。
『はああああ、それにしても君たち兄弟って何なのさ。』
暫しの沈黙の後、ベルが長く深い溜め息を吐いた。
『いや、普通に人間だけど』
『全く、ここまで生きてきて始めてだよ。悪魔祓い以外の人間に姿を認知されたのは…。』
『そうなのか…。』
とは言われても実際問題俺も菜樹亜も何故見えるのか。
と言う疑問に関しては俺にも分からない。
『そう言えば、ベルって今、幾つなんだ?』
『僕?僕は人間年齢で言うと多分19歳位かな?』
『年上なのか…。と言うか悪魔的な名前で言えば何歳なんだ?』
『んーと、百九十歳位かなぁ』
『ふーん、なるほ。って百九十歳!?』
思わず納得しかけたが…。
『そうだよ。』
と言いながらベルは口に飲み物を運ぶ。
『お婆ちゃんじゃないか。』
『へ?ち、違う違う!違うよ!』
『何がだ?』
『悪魔は人間の世界で言う十年で一つしか年齢が上がらないんだよ。』
『何!?』
驚愕の真実だ…。
『そうだよ!?だからほら体や顔も君たちの年齢とさほど変わりないだろう?』
そう言われると…。
どうやらベルの言っている事はまたしても真実の様だ。
ただ、ほらと慌てて体を乗り出して来るベルの胸元は菜樹亜といい勝負だった…。
『君、何か今失礼な事を考えなかったかい?』
ジト目で睨むベルに慌てて俺は首を横に振るった。
『胸元を凝視して無かったかい?』
『うっ…。』
『そしてその胸元をみて寂しい胸だとか思ったのかい?』
『い、いや。そ、そんなことはないぞ?』
何故バレてしまうのか…。
先程の事と言い俺はどうやら嘘を付く事が下手の様だ。
『い、言っとくけどね!!胸なんてあっても良い事は何もないよ!!重いし、重いし、えっと、重いし!!!』
何故か顔を真っ赤にして声をあげて主張してくる。
後、お前『重いし』としか言えてないぞ…。
『話は聞かせて貰ったわ!それに関しては菜樹亜も同意よ!!!』
するとお風呂場からパンダの寝巻きを着た菜樹亜が飛び出してきた…。
『にぃの部屋に行くから二回目のお風呂だったよ!』
聞いてもいないのに話始めた菜樹亜。
菜樹亜はそのまま口を開き続ける…。
『それよりも!ベルさん!おっぱいは小さくても大丈夫だよね!?』
菜樹亜は声をあげてベルに問いかけた…。
すると話を振られたベルもベルで目がキラキラしていた。
『うん!絶対に大丈夫だよ!』
何が基準の大丈夫何だか…。
そう答えるベルに向かって菜樹亜が頷いた…。
そして、握手を交わした…。
なんの友情だよ…。これ。
すると菜樹亜が此方を振り向きとんでもない事を口走る。
『にぃは貧乳好きだもんね?』
いきなり、何を言っているんだ?こいつは…。
『そうなのかい!?』
ベルもベルで嬉しそうな顔をするんじゃない!!!
『事実無根だ!!』
俺は声をあげて主張する。
『そっか!にぃは菜樹亜のおっぱいが好きなだけだもんね…。』
『そうなのかい?』
菜樹亜は先程から何を言っているんだ…?
そしてベルもベルで何故直ぐに流される…。
『そんなことはない!!』
俺は勢いよく反論する。
『酷い…。あんなに揉ませてあげたのに…。クスン』
『な!?君、実の妹に一体何を…。』
明らかなうそ泣きにあっさりとベルは騙される…。
『そんな事実は絶対に無い!!!』
うん。恐らく本当の悪魔は他の誰でもなく菜樹亜だ…。
俺はうそ泣きを続ける菜樹亜を見てそう思った…。
その後は大変だった…。
何故かベルには長々と説教をされてしまった…。
そしてその後、ベルは倒れるように寝てしまった。
恐らく余程疲れていたのだろう…。
まあ、襲われた後だしな…。
俺はベルを菜樹亜の部屋まで運ぶと自室に戻った。
勿論、菜樹亜も付いてだが。
ベッドに寝転がる俺の横に猫のようにゴロンと菜樹亜が寝転がってくる。
『にぃ。枕。』
『あ~、はいはい。』
そう言って片腕を広げると菜樹亜は俺の右腕の上に頭を置いた。
所謂腕枕だ。
『♪』
上機嫌な菜樹亜の髪をサラッと一撫でする。
風呂上がりなだけにサラサラだ。
色々な事が有りすぎて長い一日に感じた…。
今までの常識が覆っていった気分だ…。
そして疑問もある。
何故、俺と菜樹亜にだけ悪魔と言う存在が見えるのか。
『にぃ。考え事?』
そうこう考えていると右側で眠る菜樹亜がうっすらと目を開けて声をかけてくる。
『ああ、少しな。』
『にぃ今のかお少し怖いよ?』
少し小さな声で菜樹亜が呟く。
『そうだったか?ごめんな』
『ん、大丈夫。』
そう言うと菜樹亜は再び目を閉じた…。
こいつ、二人の時は可愛いのにな…。
俺が女性を連れてくるとあんな態度になるが…。
まあ、詳しいことはベルに話を聞いてから考えよう。
俺も疲れているのだろうか。
急激に眠気が襲ってきた…。
『おやすみ。菜樹亜』
そう呟いた後に視界は真っ暗になり意識が遠退いていった。
翌朝目が覚める。
右側にはスースーと寝息を立てながら眠る菜樹亜がいた。
菜樹亜を起こさないようにそっと腕枕にしている右腕を抜いた。
『ふあ~』
軽く伸びをすると左側に誰かがいた…。
無論、それはベルだった。
『うわあああああああああああああああああああああ』
朝早くの一軒家に俺の悲鳴が木霊した。
『ど、どーしたの?にぃ!』
俺の悲鳴に先程まで熟睡していた菜樹亜が勢いよく起き上がった。
しかし、まずい…。
菜樹亜にバレたら非常にまずい…。
『どうかしたのかい!?』
そしてもう一人熟睡していたここにいるはずの無いベルも目を覚ました。
そして、案の定、菜樹亜は左側にいるベルを見て声をあげる。
『ちょっと!何でアンタ、ここで寝てるの!?』
菜樹亜の獣の様な食い付きぶりにベルはハッとして慌てて口を開く。
『いやっ。ちがっ、これには理由があって…。』
『どんな理由よ!菜樹亜が納得出来るように一から千まで説明しなさいよ!』
『そ、それは』
そう言うとベルは少し頬を赤らめる…。
『なに?言えないの?』
『こ、怖い夢を見てね』
『はぁ!?』
『だ、だから、怖い夢を見て、それで、怖くて』
おいおい、悪魔の癖に悪夢を見るのか…?
『その、凄く怖くてね?だから』
『だからってにぃと菜樹亜のベッドに侵入したの!?』
『まあ、落ち着けって、お前も怖い夢を見たってよく俺のベッドに来るだろ?後、ここはお前のベッドじゃない。』
『あれは口実!菜樹亜は怖い夢何て見たこと無いよ!』
あれ?何か今とんでもない事を聞いてしまった様な…。
『あ、分かった!にぃに夜這いしに来たんでしょ!?』
『ブフッ』
菜樹亜の発言に思わず吹き出してしまう…。
『え、そんな、違っ』
ベルもベルで頬を赤らめるんじゃない!!!
『言っておくけどね!にぃの始めては妹である菜樹亜が貰う約束何だからね!』
その発言によってベルは固まってしまい、俺は本日早くも二度目の吹き出しをしてしまった…。
事態は悪化していく一方だった為とりあえず『朝御飯を済ませよう!!』と提案した。
菜樹亜は納得していない様子だったが渋々頷いた。
ご飯は毎日菜樹亜が作っている。
両親が海外の為に菜樹亜は必死に家事を覚えた。
そのかいあって菜樹亜の作る料理はとてつもなく美味しい。
『全く。何よ。あの女狐』
菜樹亜はブツブツと文句を言いながらもしっかりとベルの分の料理も作っている。
根はとても優しい奴だ…。
『ねえねえ、』
テーブルの椅子で対面に座っているベルが声をかけてくる。
『どうした?』
『菜樹亜ちゃんって僕の事嫌いなのかな?』
少し不安そうな目で見つめてくるベルを諌める様に落ち着かせた。
『大丈夫。菜樹亜は初対面の女の子には絶対噛みつくんだ。』
『そうなのかい?』
『ああ。まあ、あのブラコンぶりだからな。俺とベルが付き合いでもしない限りは何もしてこないし、嫌われる事もないさ…。』
『じ、じゃあ、もし付き合ったら…?』
『…』
『…』
暫しの沈黙の後俺は口を開いた…。
『恐ろしいことを想像させるな…。』
『だ、だよね』
想像するのも怖い菜樹亜の姿が思い浮かんだ俺は静かな口調でそう告げた。
『ほら!ご飯出来たよ!運ぶの手伝って!!!』
キッチンから不機嫌そうな菜樹亜が顔を見せた…。
『ご、ごめんね。』
それを見たベルが軽く駆け足でキッチンへと向かった。
もっと仲良くなればいいけどな…。
俺は心の中でそう呟いた。
食卓に俺と菜樹亜、そしてベルが並ぶ。
普段であれば菜樹亜が対面に座るのだが今回はベルがいるため俺の右隣に座っている。
今日の料理はオムレツか。
『美味そうだな…。』
相変わらず出来映えは素晴らしい…。
『これが…。オムレツ…。』
ベルはベルで目をキラキラと輝かせていた。
はじめて食うのか…。
『それよりも菜樹亜は幽霊さんにご飯が食べれるのかって言う所が気になるけどな~』
菜樹亜のジト目にまたしても俺とベルは固まってしまう。
『ぼ、僕はご飯が食べられる幽霊なんだよ!』
『じ、実はそうなんだ!』
俺とベルは自分でも自覚出来るほどの訳の分からない言い訳をしてしまう…。
『ふ~ん。ま。いいけど』
絶対怪しまれてるよな…。
と内心ひやひやしてしまう。
『はい。にぃ。あーん』
何をしているんだ!?
と一瞬固まってしまう。
菜樹亜がスプーンでオムレツを取り俺の口に運んでくる。
『な、な、な、』
対面ではベルが頬を真っ赤にして固まっている。
『何してるんだ?』
『へ?いつもやってる事でしょ?』
『い、いつも…。』
ベルはそう呟くと再び固まってしまう。
『ほら、にぃ、あーん!冷めるよ?』
菜樹亜は菜樹亜でそんなベルには目も暮れず俺にスプーンを突き付けている。
まあ、あーん位ならと固まっているベルを他所に俺はそのオムレツを口にした。
『な!?』
ベルが目を見開いて声をあげた。
『どう?にぃ美味しい?』
『ああ、うまい。』
『そっかぁ、良かった。』
『ち、ちょっと』
菜樹亜とそんな会話をしているとベルが遠慮がちに割り込んでくる。
『ん?』
『き、兄弟でそう言うのはどうかと思うな!!』
頬を赤らめながらそう告げるベルに菜樹亜がニヤリと悪い笑みを浮かべる。
『へぇ~、羨ましいんだ?べ・ル・さ・ん!』
『べ、別に羨ましい何か言ってないよ!』
再び頬を染めてベルが抗議する…。
『ならいいじゃん!私とにぃが何をしていても!』
『ちがっ、そうじゃなくて、き、兄弟でそう言うのはどうかと思うってだけで…。』
『ん~?兄弟だったら何かまずいの~?』
そう言ってクスクス笑う菜樹亜と半泣きになりながら『ぐぬぬ』と言うベルを見ていると最早どちらが悪魔か分からなかった…。
『もうその辺にしとけ』
『あたっ』
まだ責めようとする菜樹亜の頭に軽くチョップをする。
『ほら、ベルが半泣きになってるだろ?』
『な、なってないよ!』
『泣くまで責めてごめんなさい。』
『だから、泣いてないってばああ!!!』
そう叫んだベルの目はやはり潤んでいた…。
だが、オムレツはきれいに平らげていた…。
その後ベルに留守番を頼み俺と菜樹亜は学校へ向かう為に通学路を歩いていた。
『お前、ベルに余り噛み付くなよ?』
『ふーんだ』
そんなやり取りをしながら歩いていると背後から声をかけてくる人物がいた。
『おはよ!魔紋!』
クラスメイトの壇他莉音【だんたりおん】だ。
『おお、おはよう。莉音』
『ちっ』
普通に挨拶を返すと隣で菜樹亜が舌打ちをする。
『こら、菜樹亜舌打ちするんじゃない。』
『はは、相変わらず妹ちゃんには嫌われちゃってるね~』
『別に…。』
菜樹亜は心底気にくわないといった顔をしている。
何故かは知らないが菜樹亜は一方的に莉音を毛嫌いしていた。
『一緒に登校しちゃおっかな~、』
『は?』
少し茶化した様な言い方をする莉音を菜樹亜はギロリと睨む。
『はははは、うそうそ。じゃあ先に行ってるね~!魔紋!また教室でね~。』
そう言うと莉音は颯爽と駆け抜けて行った…。
台風みたいな奴だな…。
『菜樹亜、嫌いなのはしょうがないけど露骨に顔や態度に出すんじゃない!』
『菜樹亜。別に嫌いじゃないし』
む?また俺の勘違いか?
なら、謝らないとな。
『気にくわないだけ。』
『一緒だよ!!!』
結局菜樹亜はムッとしたまましばらく歩き続けた。
こう言う所を見るとやはりベルは嫌われてはいないんだなと分かるんだけどな…。
『菜樹亜様おはようございます』
『ええ。おはよう』
問に入るや否や一人の女子生徒が菜樹亜に挨拶をする。
菜樹亜様って…。
『菜樹亜、お前、クラスメイトに様付けで呼ばすの止めようか。』
『菜樹亜、勝手に呼ばれるだけだもん。』
『そうでございます。お兄様。菜樹亜様のような神々しい方は是非とも様付けで及びさして頂きたいのです。』
うわ、頭痛くなってきた。
菜樹亜に神々しさ何かあるか?
『ま、まあ。お好きにどうぞ。それじゃ菜樹亜。また帰りな』
『うん。にぃ、また後でね!』
菜樹亜に別れを告げた俺は一人で自分の教室へと向かった。
『よっ!』
教室へ付くや否や一人の男が声をかけてくる。
『うげ、何だ。青イソメか』
『はっはっはっ、早朝から随分な挨拶じゃないか…。青イソメって言うな!!』
こいつは磯目青次【いそめせいじ】。
皆からは親しみを込めて青イソメと呼ばれている。
『で、何だよ?』
『ふふっ、莉音ガールから聞いたよ?また妹ちゃんと登校していたそうだね。』
相変わらず気持ち悪い話し方をする青イソメ。
『いいだろ、別に。』
『はは、文句はないさ。君は妹萌えのブタ野郎だからね。』
『獣耳萌えの青イソメに言われたくないな。』
『ははっ、ケモミミは良いものだよ!って青イソメって言うな!!』
そう言うと青イソメはケータイゲームアプリの獣少女育成ゲームを始めた。
『さあ、お待たせ!俺のケモミミ達よ』
そんなことを口走る青イソメに思わず苦笑いをする。
『やっほ~。』
次に声をかけてきたのは先程遭遇した莉音だ。
『お前な。。。一々、菜樹亜と登校している事とかを回りに言うんじゃない。』
『え~、いいじゃん。別に…。事実なんだし~。』
まあ、事実は事実なんだけどんなんだけど…。
何だかな~。
『まあ、いいけど…。』
『それより~、聞いた?』
『ん?何をだ?青イソメの頭がおかしくなったって事か?』
『それは元からでしょ?』
『はっは、酷い言われようだ。』
とりあえず青イソメはスルーして話を続ける。
『で?何の話だ?』
『連続通り魔の話!』
『連続通り魔…だと?』
聞いた事もないが…。
昨日はベルの相手をしていた為かテレビ等は見ていない。
そう考えつつ持ってきたペットボトルのお茶を口にいれた
『そ!それもこの街でね…。死人は出ていない様だけど、傷口が何かの爪痕の様だから噂では悪魔の仕業じゃないかって言われてるみたい。』
『ブフッ』
飲んでいたお茶を思わず吹き出してしまった…。
『わ、汚い!』
『わ、悪い』
ついこの間までなら悪魔の仕業と言われても気にしていなかったが…。
悪魔と言う存在を認知してしまったからかつい過敏に反応してしまった…。
『別にいいけど…。いきなりどったの?』
『いや、別に…。』
『ふーん。ま。なんでもいいけど、気を付けた方がいいと思うよ!』
『?何故俺が気を付けるんだ?』
『べっつに~。』
莉音のよく分からない態度に疑問を抱くがまあ、特に気にしなかった…。
教室にてチャイムが鳴りみんなが席に座る。
『はい。おはようございます~。』
扉が開き先生が入ってくる。
沢崎緑【さわざきみどり】先生だ。
皆からは親しみを込めてミーちゃん先生と呼ばれている。
『今日は~、少し~お話が~、あります~。』
何時もの様にユルフワなしゃべり方でミーちゃん先生は話始める。
『ははっ、ミーちゃんteacherよ!話と言うのは何なんだい?』
青イソメが鬱陶しい話し方をしている。
正直黙っていてほしい。
『今日は~、最近現れた通り魔の話です~。』
通り魔…。
先程、莉音から聞いたあの話か…。
ベルでは、無いだろうけど悪魔と言う点は気になる。
『皆さん注意して家に帰るようにしてくださいね~。』
ミーちゃん先生の発言に皆は『はーい』と返事をする。
青イソメだけは『了承した』等と言うまた奇妙な返事をする。
しかし、この後とんでもない事が起ころうとしていると言うことを俺はまだ知らない。
朝のホームルームが終わり一時間目の授業が始まろうとする直前に事件が起こった。
突如として校内に爆発音が響き渡った…。
生徒はみんな突然した爆発音にパニックになる。
『み、皆落ち着いて!』
いつもはユルフワのミーちゃん先生も焦り口調になっていた。
しかし、生徒たちは皆同様を隠せずにいる。
『菜樹亜。』
不意に妹の事が気になり俺は走り出した。
『ちょ、魔紋!!?』
それに気付いた莉音が背後から追い掛けてくる。
『にぃ!!』
爆発音のした方へと向かっていると菜樹亜の声が聞こえた。
そこには普通に菜樹亜が立っていた。
『菜樹亜、無事か!?』
『うん、菜樹亜は大丈夫だけど…。』
とりあえず無事で良かった。
と俺は安堵する。
すると背後から追いかけてきていた莉音が足を止め爆発音がした教室の方を見ている。
『どうした?莉音』
『あ、あれ。何?』
莉音はそう言うと震える指を教室の方へと指差した。
そこにはまるで昨夜見たベルの姿の様に悪魔の様な姿をした女性が立っていた。
『うわ、皆に睨まれてる。』
その悪魔の女性は煽るような口振りで辺りを見渡している。
『見っけ。』
そう一言告げるとその悪魔は俺の間近まで迫っていた。
瞬間移動…?
『貴方ね。』
『な、何がだ?』
『とぼけないで…。ヘルフェゴールを匿っているのは貴方よね』
俺にしか聞こえない様な小さな声でその悪魔は告げる。
何故、それを…。
『とにかく、一緒に来てもらうね…。』
悪魔はそう言うと俺の右手を掴んだ。
そして俺の姿はその場から消えた…。
『にぃ!』
『魔紋!』
菜樹亜と莉音は先程まで魔紋がいた場所に向かって叫ぶが返事は来なかった…。
『ふう。』
悪魔に連れ去られた俺は見たことのない小屋の中まで移動させられた。
『おい!いきなり何なんだ!』
思わず叫んでしまう。
『おっと、動かないでね。〈拘束〉』
悪魔がそう告げると俺の体は一切動かなくなる。
『な!?』
『君、ベルフェゴールをかくまっているよね?』
悪魔は静かな口調でそう告げる。
『知らないな…。』
『ふ~ん。しらを切るんだ』
『お前こそ何なんだ』
『私?私は悪魔アミー。』
そう言うとアミーと名乗る女性は椅子に腰かける。
『まあ、待ちなって…。もうじき悪魔祓い共が来るから』
『な!?』
そうか。そういうことか。
つまりこの悪魔アミーと悪魔祓いは競合していると言うことか…。
『お前…。悪魔祓いと競合しているのか。。。』
『そうだよ?私が七つの大罪の一柱であるベルフェゴールを差し出せば渡しの命は助けてくれるのよ。』
『悪魔の能力を封印出来る人間がいるのにか?』
『貴方は都市伝説を全て信じるの?そんなのはただの都市伝説だよ…。』
『分からないだろ!そんなこと』
『少なくとも貴方よりは分かっているつもり。ベルフェゴールを差し出せば命だけは助けてくれるかもよ?』
『誰が言うか!』
悪魔アミーはため息を吐くと明後日の方向を向いてしまう。
それから俺が何を言っても聞く耳を持たなかった。
side ベル
ベルフェゴールは焦っていた。
学校での爆発音は魔紋と菜樹亜の家で留守番をしているベルにも聞こえていた。
『まさか。。。』
ベルの頭の中には爆発に巻き込まれている黒羽兄弟が浮かんでしまった。
『行かないと。』
ベルは家を飛び出し走り始めた…。
爆発の煙が出ている場所を辿っていくとそこには大きな学校があった。
学校の前には沢山の人がカメラ等を構えて立っていた。
そして中に居る生徒たちは昨夜あの少年が着ていた制服を着ていた…。
『彼らは無事なのか〈捜索〉ん』
ベルは小声で呟くと菜樹亜と魔紋の気配を探った。
『居た』
見つけたのは菜樹亜のみの気配だが充分だと思った。
ベルは直ぐ様菜樹亜の気配を感じた場所へと瞬間移動した
移動を終えると目の前には立ち尽くす菜樹亜ともう一人、見覚えのある人物がいた。
『君は、ダンダリオン』
『え、ベルフェゴール?』
ベルは莉音を見て徐にそう口を開き莉音もそれに答えた。
『どうして君がここに!?』
ベルが驚きを隠せない表情で呟く。
『どうしてって。悪魔祓いにバレないように人間界に潜入してって言うより今はそれどころじゃ無いよ!』
『どうしたんだい?』
『人が拐われたのよ』
『何だって!?』
嫌な予感が的中した…。
『誰に!?』
『あの姿はアミーね。この爆発もあの女の仕業よ!』
『アミー…。』
一応名前だけは知っていると行った感じだが…。
『で、拐われたのは?』
まさかと思っていると菜樹亜がすがるように近寄ってくる。
『にぃだよ!』
『それ本当…?』
驚きを隠せないベルは絶望した様子で立ち尽くす。
『ねえ、貴方たち、悪魔なんだよね…。』
菜樹亜は俯きながら小さな声で呟く。
『うっ、そうだけど。騙しててごめんね』
ベルは頭を下げる。
『今は、そんなこと言いから、にぃを助けて』
菜樹亜の今にも消え入りそうな呟きにベルは頷いた。
『分かったよ。僕が助ける』
ベルはそう告げると力を込め背から翼を生やした。
そしてベルは爆発によって開いた穴から外へと飛び出した。
side 魔紋
俺、魔紋は人生二度目のピンチを迎えていた。
『さ~て吐いて貰おうかな』
そこには怪しい服装をした若い男がいた。
悪魔祓いの連中だ。
その背後には昨夜俺が撒いた男もいる。
『ベルフェゴールは何処に居る。』
『知らねえな』
そう言うと男は俺の顔に思いきり蹴りを入れる。
『大人しく言っておいた方がいいと思うよ~、』
男は俺の髪を掴み引っ張りあげる。
横では悪魔アミーが『あーあ』と言っている。
『そろそろ教えておいた方が身のためだよ?』
『知るかっ』
そう言って男の顔に唾をかける。
男はその唾を拭き取ると再び顔に蹴りを入れた。
『調子に乗ってんじゃねえよ。』
ぐ、と声を殺す。
口からは血が垂れているだろう…。
口の中に血の味が広がる。
『さっさとはきやがれ』
『利玄さん。』
背後から男が俺を掴んでいる男に声をかける。
『なんだ。』
『ここから少し離れた場所で空飛ぶ悪魔を目撃したと仲間から連絡が。』
『それはベルフェゴールか?』
『おそらく』
すると男は最後に俺の顔に一発拳を打ち込むと立ち上がる。
『ならもうこいつに様はねえな。』
『これで私は見逃して貰えるのよね?』
『ああ、そうだな。』
そう呟きながら男は悪魔アミーの顔に何やら水をかける
『がああああああああ』
すると悪魔アミーは顔を押さえてその場に座り込む。
『だからお前はもう用済みなんだよ…。』
『きさまぁ、騙したのかぁぁぁ』
悪魔アミーは苦しそうに口を開く。
『もとより悪魔と取引をするつもりなんて無いさ。騙されたお前が悪いんだよ。』
『くそおおおおおお』
アミーの叫びは虚しく男たちは小屋の扉を閉めた。
『お、おい。大丈夫か。。』
俺は這いつくばりながらアミーに近寄る。
アミーの力が弱まった事〈拘束〉の制約は解けていた。
『やめろ、私に近付くな』
アミーは悶え苦しみながらそう告げる。
『はあはあ、私はお前らを、売ったんだよ。。。』
『そうだろうな…。』
『なら、私は見捨てていけ。まだ動けるだろう?』
アミーの言う通り暴力を受けただけの俺は動くことが出来る…。
『お前は、動けないのか?』
『はぁはぁ、私がかけられたのは聖水だ…。聖水は悪魔の力を無効化するだけじゃなく悪魔の力を弱体化させる。あの量をかけられたら私は長くは持たない…。』
弱々しい声でアミーは呟く。
『かといって、見捨てれる訳が、ない。』
俺はアミーの顔に右手を添える。
『あんた…。』
すると突如として俺の右手が光を放つ。
『な!?』
『な、なに、これ』
アミーも驚愕の表情をする。
そして右手の効に見たことのない紋章が浮かび上がる。
『何だ?これ…。』
『私、知らない』
そして顔に添えていた右手の光は消える。
それと同時にアミーの体から光が発される。
そしてその光は右手の紋章に吸い込まれる様に集まってくる。
そして紋章は一度光輝くとそのまま光は収まる。
『なんだったんだ…。』
呆然の呟くと突然アミーが声をあげる。
『あ!!』
『ビックリした!どうしたんだ?』
『体が…。動く…。』
『どう言うことだ?』
そう呟くと同時に突然、一人の少女が姿を表した。
『ようやく力に目覚めましたか。』
『えっと、君は?』
突然現れた少女に戸惑いながらも問いかけた。
『私はソロモンです。』
『ソロモンですって?』
その自己紹介にアミーが食い付いた。
『知ってるのか?』
『知ってるもなにも…。アンタがさっき言ってた悪魔を封印するって都市伝説。あれ、ソロモンの事よ。』
『え?』
どう言うことだ?
この、少女が悪魔を封印させる…?
『はい。そうですよ。私は悪魔の邪気を封印させる事が出来ます。』
『まてまてまて。それじゃ君が悪魔を封印させることが出来る人間?』
『私は人間ではございません。』
『じゃあ君は?』
『私は貴方と契約を結んだ悪魔です。』
え…。契約?
そんなの俺、結んだ?
『正確には貴方ではなく貴方の前世。七つの大罪が一柱。マモンとの契約ですが』
『え?』
『え?』
『ええええええええええ?』
ここ最近で一番の衝撃が走った。
少し落ち着いてから俺は口を開く。
『えっと、まず俺が悪魔の生まれ変わり?って事についてなんだけど。』
『はい。言ったままの通り事実です。』
言ったままの事実って…。
こっちは現実を受け入れられてないんだけど…。
『貴方の生前は七つの大罪。マモンです。そして私はその悪魔マモンと契約を結んだ悪魔ソロモンです。』
『いや、それはわかったけど俺の生前がマモンだって話がよく分からない。』
『それは思うがままに受け取ってください。』
『そう言われても…。』
『理解しろとは言いません。受け入れろと言っているのです。』
この少女、見た目に違わず毒舌だな…。
『それに、今はそれどころではないでしょう…。』
その発言に俺はうなずく。
そうだ。ベルを助けないと。
『教えてくれ!どうすれば良い!』
『それは私がお教えする事ではありません。ご自分で何とかしてくださらないと。』
『何とかしろって言われても…。』
『あの~、』
そういうやり取りをしていると恐る恐るアミーが口を開く。
『私、関係ないよね?』
『そんなことはありませんよ。悪魔アミーさん。今の貴方は邪気がありません。』
『え?』
『それって…。』
『悪魔アミーは主によって封印されましたから。』
『え』
『『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ。』』
俺とアミーは目を会わせて声をあげる。
って言うことはもしかして、俺が悪魔の邪気を封印させる事が出来る人間…?
『どどどどどういうことよ』
アニーは明らかに動揺した様子でソロモンに問い掛ける。
『言葉通りです。貴方の邪気は主によって封印されました。』
『えっと、ちょっと待ってくれ。悪魔を封印出来る人間ってもしかして、俺?』
『先程の話で分からなかったのですか?バカなのですか?』
こいつ…。
酷い言われようだ。
普段の青イソメ並みに言われている。
『ふ、封印の条件って?』
明らかに顔を赤くしたアニーが問い掛ける。
『条件は3つあります。
1つ目はある程度の好感度
2つ目は気持ちの共鳴
3つ目は紋章が浮かび上がっている手で相手に触れる
という事です。』
『好感度!?』
驚きの声をあげたのは俺だ。
アニーに惚れられる様な事はしていないけど。
『はぁ、一々説明するの面倒くさいんですけどね。
1つ目は自分がボロボロになりながらも助けようとする主の姿に好感度が急上昇した為です。
2つ目は主の助けたいと言う気持ちと悪魔アミーの生きたいと言う気持ち。双方の共鳴です。
3つ目はそのままの通り主が紋章の浮かび上がった手で悪魔アミーの頬に触れた為です。
ちょろい悪魔で良かったですね。』
『ちょろくないし!!!
むしろ全部妥当な筈だし!』
アニーが必死に抗議するも言っていることがよく分からない。
『お前…。俺に惚れたのか?』
『は、はぁ?どうしていきなりそう言うことになるの?意味分からないし。ばーかばーか!』
『惚れてると言うよりは惚れかけと言った感じですね。』
『冷静に余計なこと言うなぁ!!』
先程からアミーが少しずつ可愛く見えて来てしまってる…。
って今はそれどころじゃ無かった…。
『それより、あいつら…。って言うよりもあの男…。』
先程蹴りや拳をいれてきたあの男だ。
ぶっちゃけ大分痛かった。
『確かに聖水ぶっかけられたのはムカつく…。って言うか普通にムカつくんだけど。』
隣ではアミーが頬を膨らませている。
死にかけたのにそんなに軽くていいのか…。
『ソロモン?だったっけか』
『はい。名前くらいは一度で覚えやがれ。です』
『お前…。最後にです。って付けても無かった事にはならないからな!?』
『申し訳ありませんdeath 』
『そのデスはダメだろ!?』
『それで話はなんですか?』
いい加減に面倒くさそうにソロモンが口を開く。
いや、お前のせいだけどな?
『ベルの場所とか、わかるか?』
『私は万能ですから。それくらいは容易いですよ。』
おお、こいつ見かけによらず凄い所あるんだな。
『なら、瞬間移動を』
『それは私は使えません。』
『は?』
『場所はわかりますが瞬間移動は出来ません。』
『万能じゃないのか!?』
『そんなに期待されても正直、重いです…。』
こいつ。
口を開けば開くほど腹立たしい…。
『じゃあどうすれば!』
そう言うとアミーが恐る恐る手を上げた。
『わ、私、瞬間移動なら出来るけど。』
思わぬところに救世主はいた…。
『マジか!?』
『マジよ!』
そう言えば俺をここにつれてくるときも瞬間移動だったもんな…。
盲点だったぜ。
『もっと視野を広く持ちましょうね。』
ソロモン。とりあえずお前は黙れ!
『と、とりあえず私に掴まって。』
そう言われて俺はアミーの腕を握る。
ソロモンはその俺の肩に乗る
『おい、何故俺がお前を肩車していかなきゃならん?』
『うわ、心せっまいですね』
『やかましいわ!』
『ちょっと、ソロモン。場所は?』
『私が座標焦点を合わせますからどうぞ。』
『わかったわ。』
そう言ってアミーに掴まる俺とその肩に乗るソロモンはベルのいる場所まで瞬間移動をすることに成功した。
side ベル
『くそ、どうして僕が動くといつもこうなるんだい!?』
上空を飛び回るベルが口を開く。
『ふははは。さっさと大人しく捕まれ!』
そしてその下にはつい先程まで魔紋に暴行を行いアニーに聖水をかけた悪魔祓いの男だ。
『なんだい、君たちは!!いつもいつも!僕達が何かしたかい!?』
『いいや。何もしていないかも知れないな。』
男は怪しげにニヤリと微笑みながらそう告げる。
『だったら!!』
『だが仕方ない。悪魔は生きているだけで悪なのだからな!!!』
男がそう叫ぶとベルは苦汁を飲んだ様な表情になる…。
『君たちは!!』
『ハァ!!』
ベルが叫ぶと同時に地上からの男の一斉の攻撃によりベルは羽のコントロールを失った。
『しまった…。』
コントロールを失ったベルは回転しながら地に落ちていく
『ふははは。悪魔ベルフェゴール破れたり~』
男の叫びと共にベルは地面が間近に迫っている事を確認する。
終わった。
ベルが覚悟を決めた矢先に突如としてベルの落下する真下が光を放つ
『な、何だ。』
男たちはざわざわとどよめき始める。
そしてそこに3人の人物が現れる…。
『瞬間移動完了っと!危なっ!!』
『危険察知離脱。』
アミーが落ちてくるベルを避けるように右側に移動し、肩に乗っていたアミーは緊急離脱を行う…。
その際に俺の首がグキッと音を立てた。
『おい!アミー、ソロモン何逃げてって。どわああああ』
そして突如として上から落ちてきたベルの下敷きになってしまった…。
『あれ?死んでない?』
ベルは恐る恐る目を開いた。
『君たちは…?』
そしてソロモンとアミーを見る。
『えっと、私はアミー。』
『私はソロモンです…。』
『あ、ご丁寧にどうも。僕はベルフェゴールです。』
挨拶を交わす3人に下敷きになっている俺は声をあげる。
『あの、会話するなら出来れば俺から降りて頂きたいんですが…。ゲフッ』
『わ、ごめんね!て言うか君大丈夫!?拐われたって聞いたんだけど!?』
『それなら解決した、から。早く降りてくれ…。』
そう言うとベルは急いで俺の上から飛び退いた。
『どう言うことなんだい!?と言うかそこの二人とも悪魔だよね!?』
『yes I do』
ソロモンが英語で返答する。
『私は主の契約者ソロモンです。そしてそちらはチョロい悪魔のアミーさんです。』
『ち、チョロくない!!』
『どういうことだい?話に付いていけないんだけど…。』
アタフタしながら戸惑っているベルは後にして俺は立ち上がる。
『話は後だ。今はあそこにいる奴等が先決だろ。』
『見て、主。ちょうちょ』
『お前少しは話を聞け!』
手に蝶を持つソロモンにそう告げるとソロモンは剥れながら蝶を手放した。
『で、どう戦えば言い?』
『?主は戦えませんよ。身体能力は一般人ですから…。』
『は!?』
俺が戦えないってどうすればいいんだ…。
『主は悪魔の力を使いこなして戦うのです…。』
俺が…。悪魔の力を使いこなす。だと?
『例えばそこにいるチョロい悪魔アミーと協力して戦うと言ったところでしょうか。』
『だからチョロくないもん!!!』
『アミーと?どうすればいいんだ?』
『はい。キスです。』
『は?』
『え?』
『ん?』
全員が疑問を口にするとソロモンも首をかしげる、
『?』
『キスって…。あの、キスか?』
『はい。』
『な、何で、私とこいつがキスしないといけないのよ!』
アミーが顔を真っ赤にして叫ぶ。
『悪魔の力を解放するにはそれしかありませんから…。』
『封印は触れるだけで出来るのにか!?』
『はい。邪気を封印したまま戦う為にはそれしかありませんよ。』
『はああああああああ?』
アミーが声をあげた。
『何でそんなめんどくさいんだ?』
『私の趣味です。』
『はい?』
『いいではないですか。キス。私は人のキスを見るのが大好きなので…。』
『お前の趣味で俺は力を解放させるのに一々キスしないと駄目なのか!?』
『はい。毎回していただきます。』
『嘘だろおおおおおおおお』
ソロモンのやつ…。
勝手な事を…。
『へ?え?どういうこと?』
そしてその未だに話に付いてこられないのはベルだ。
そうこう会話をしている内に悪魔祓いの連中が此方へ向かってくる。
『貴様ら…。どうやってあの場から抜け出した…?』
一人の男がそう言い放つ。
『まあ、どうしてかは知らんがまた、叩き潰せば良いだろう。』
その男の背後から憎らしいあの男が現れる。
『ほら、主。時間がありませんよ。』
ソロモンはソロモンで急かすな!
そうしている間にも悪魔祓いは近付いてくる。
『ああああ。もう仕方ないわね!』
そう言うとアミーは俺の胸ぐらを掴んだ。
『え、ちょ、アミー?』
『いい?これはあくまでもここを切り抜ける為に仕方なくよ!?勘違いしないでよね。』
『チョロツンデレ悪魔ですね。』
『そこ!うるさい!』
顔を真っ赤にして口を開くアミーにソロモンが余計なことを言う。
『これは、仕方なく。何だから…。』
『ちょ。』
何かを言う間も無くアミーの唇が俺の唇を塞いだ。
『ん』
そしてアミーの唇が離れていく。
『な、な、な、』
ベルが顔を真っ赤にしてこちらを指差している。
『生キスです。』
ソロモンは目をキラキラさせている。
すると紋章から光が溢れだしその光がアミーを包んだ。
『な。何だこれ』
『す、凄いわ!凄いわよコレ!』
アミーは何やら興奮した様子で叫んでいる。
『何が凄いんだ?』
『私最強かもしれないわ』
『返答になってない!』
『見てなさいよ!』
そう言うとアミーは背中から翼を広げて悪魔祓いの方へと向かっていった。
『よくも聖水ぶっかけてくれたわね!』
男たちは猛スピードで向かってくるアミーに軽くびくついた。
『ひっ』
『怯むな!!!』
先程の暴力男はニヤリと笑うとアミーに聖水をぶっかけた。
『ふははは。死ねえ!!!』
男の高笑いと共にアミーの顔に聖水がかけられた。
『おい!流石にあれはヤバイんじゃないのか?』
『大丈夫です。悪魔の封印契約には聖水等の無効も含まれますから。』
聖水の無効だと?
そう言われてアミーを見るとアミーはケロッしていた。
『え?』
その発言を最後に暴力男はアミーの拳に吹っ飛ばされた。
『ガハッ』
そして男は意識を失った。
『な、な、』
背後にいる男たちは突然の事に固まっていた。
『ふう。何かけてくれてんのよ!ってこれ聖水じゃないの!!』
『な、何故効かない…。』
『わ、本当だ。何で効いて無いんだろ?』
アミーが不思議そうに首をかしげる。
『ふざけるな!!!何かの間違いだ!』
するともう一人の男が再び聖水を振り撒いた。
しかし、アミーには効くはずもなかった…。
『何だか分からないけど、ハッ!!』
アミーの拳が男の顔面にクリーンヒットした。
男は鼻から血を拭きだし白目で倒れた…。
『おい、あれ、死んでないよな…?』
『はい。封印された悪魔は無差別な殺戮を行うことが出来ませんから。』
『なら、いいんだけど…。』
そう言うと俺は再びアミーの方へと目を向けた。
『よく分からないけど今の私は無敵の様ね!』
アミーは自己解釈で残りの男達に次々と拳を入れていく。
『地獄絵図だな。』
『ですね。』
そして等々意識のある悪魔祓いの連中は一人も居なくなっていた…。
『すっごいわよ!この能力!!』
アミーは興奮した様子で戻ってきた。
『お、おう。』
『スカッとしたわ!』
あまりの圧倒ぶりに軽くたじろいてしまう…。
『ちょっと、これ、どう言うことなんだい…?』
ベルは戸惑いながら口を開いている。
『詳しい話は取り合えず家に帰ってからにしよう。それでいいか?ベル。』
『か、構わないけど…。き、キスに付いても詳しく聞かせて欲しいな!』
何故か頬を膨らませながらベルは口を開いた。
『お、おう。』
『取り合えずアミーとソロモンも来てくれ…。』
『え、あ、アンタの家に?』
少し頬を染めてアミーがたじろぐ。
『不本意ながら私は主と一心同体なので…。』
ソロモンは少し頬を染めて失礼なことを言う。
何故頬を染める!?
『取り合えず菜樹亜を向かえに行かないとな。アミーは姿を見られただろうし。』
『あの~、』
恐る恐ると言った感じでベルが手を上げる。
『どうした?』
『ぼ、僕も菜樹亜ちゃんに悪魔だってバレちゃったんだよね…。あはは』
『は?』
冷たい風が俺とベルの間に拭いた。
『にぃ!!!』
学校まで瞬間移動をして貰うとそれき気付いた菜樹亜が勢い良く抱き付いてくる。
『うお。菜樹亜。』
それを受け止めるが勢い余って俺は背後に倒れる。
『にぃ、大丈夫?何もされてない?何処か異常はない?』
『ああ、大丈夫だ。』
『ねえ、にぃ。悪魔って何?それにその後ろに居るのってにぃを連れ去った女だよね?』
『詳しい話は取り合えず家に帰ってからにしよう。』
『っ。わかった。』
そして俺たちは一度家に帰る事にした。