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第七話

 翌日、歩哨から魔族の部隊を発見したという情報が入り、部隊は移動することになった。数時間ほど歩いていると、前方から連絡員が走ってきて、魔族が近くにいるので隊列を組むよう言う。森の中、カミールら熟練の傭兵を分散させ、その後ろを銃兵で固めて進んでいく。


「もう少し慎重に歩いたほうがいいんじゃないですか? こんな場所で待ち伏せされたらひとたまりもありませんよ」


 隣のマルクスが背の高い草をかき分けながらぼやく。軽い口ぶりだが、その目は鋭く辺りを舐めるように探っており隙は感じられない。


「他の大隊に遅れを取るわけにはいかないからな」


 斜め前方にいるジークフリートをちらりと見る。彼は部隊を先導するように突出しており、三名の部下が守るように固めていた。

 やがて森が開け、草原地帯が視界に飛び込んでくる。そこに奴はいた。


「カミールさん……っ!」

「ああ、少々マズい状況だな」


 大樹のように浅黒い肌、岩のようにゴツゴツとした筋肉、そして二階建て家屋に匹敵するほど高い背丈。この草原は我が物だというように巨人の魔族が大量のゴブリンと共にカミールらを睨みつけていた。


「展開しろ! 森から出るんだ急げ急げ!」


 士官の怒号が飛び兵士たちは慌てて隊列を組んでいく。右翼の大隊も展開を始めるが、初めて見る巨人の姿に怖気づき逃げ出す兵士もおり士官は対応に追われていた。


 そうこうしている間にも魔族らは万全の態勢で近づいてきており、カミールは思わず声を上げ兵士を急かす。やがて銃兵の射程に入ったが、今更ながら魔族の隊列に違和感を覚えた。

 右翼の部隊だけ様子が違う。何故か魔族たちは巨人の後ろに整列し、巨人は組み合わせた丸太を盾のように持っている。


「あの巨人を優先して射撃しろ!」


 言われなくとも右翼の魔族は巨人の後ろに隠れているので他に狙いようがないのだが、ちゃんと指示しないと素人の銃兵はなにをするかわからない。右翼の銃兵は巨人を目標に射撃を開始する。しかし銃弾は丸太を貫通せず巨人の足が止まることはなかった。


 右に位置する銃兵隊に側面を攻撃してもらおうと考えるが、彼らも装填に忙しく目の前の敵に釘付けとなっておりこちらを援護する余裕はない。


「銃兵を側面に移動する。パイク兵は前に出ろ!」


 こうなったら俺たちで巨人を拘束し銃兵で撃破してもらうしかない。とはいえ、スカーミッシュのメンバーは以前巨人と戦ったことがありそれなりに覚悟はできていたが、他の傭兵たちは巨人を見たのも初めてだったのか少なからず混乱していた。


「来るぞ!」


 巨人は盾を捨てると木を削って作ったであろう棍棒を振り上げる。


「カウンター!」


 マルクスが無防備な脇にパイクを突き入れた。肘を下ろされ刺さることはなかったものの、叩き潰されることを防ぐことはできた。巨人は何匹か討伐してきたが、この瞬間は本当に肝が冷える。

 しかし、巨人は薙ぎ払うように棍棒を横に振るい、最前列のパイク兵を吹き飛ばす。すんでのところで避けたマルクスだったが、これ以上後ろに下がる余地はなく次の攻撃には対応できないだろう。


「陣形を解除させろ! このままじゃパイク兵は全滅だぞ」


 パイク部隊の後ろにいたジークフリートに指示を仰ぐが、彼は首を横に振った。

「そんなことしたら銃兵が攻撃される。彼らは誰が守るつもりだ?」


 しかし、その通りにゴブリンらはパイク部隊を無視し後方の銃兵に攻撃を加え始めた。予想外の事態にジークフリートは焦った。パイク部隊の相手は巨人一体で十分ということか。白兵戦で銃など只の棒切れと変わらない。ましてや彼らはろくに白兵戦の訓練を受けていないのだ。


「マルタ……っ!」

 振り返り彼女が大丈夫か確認しようとするが、直後に巨人が棍棒を振り上げすんでのところでカウンターを入れる。


 怯んだ隙にマルタを探す。彼女は自分のショートソードで敵の攻撃を必死に防御していた。

 ジークフリートを見る。彼は銃兵の護衛に回り最前線で剣を振っており、とても指揮できる状態とは思えない。


「パイク部隊は陣形を解除、各自自由に戦え!」

「いいんですか!?」

「このままじゃどのみち各個撃破される。巨人を俺達で何とかするぞ!」


 カミールの号令でパイク兵の陣形が解除され、直後に敗走した銃兵と入れ違うように魔族に襲いかかる。重くて使いづらいパイクを捨てると、それぞれが得意とする武器を使い魔族を次々となぎ倒していく。

 カミールもロングソードを抜くとマルタを囲んでいたゴブリンを三匹ほと切り捨てた。


「大丈夫か?」

「カミールさん!」

「俺は巨人を倒しに行くから、お前らは撤退し体制を整えろ!」

「はいぃ!」


 ゴブリンの相手を他の傭兵に任せ、巨人の元へ向かう。巨人はマルクスのパイクによる攻撃に足止めを食らっており、巨人は彼を踏み潰そうとしているが近づこうとすると長いパイクの矛先を振り回し釘付けにしてた。


「おお、来てくれたか」


 巨人から少し離れたところではカールが息を切らしている。剣を杖にして立っており苦しげな様子だ。


「俺はもう年だから体が追いつかん。巨人の相手はお前がしてくれ」

「大丈夫なのか?」

「こいつらの相手はできる。背中は任せろ」

 そう言うと迫ってきたゴブリンを蹴り飛ばし胸を突き刺した。

「大丈夫そうだな」


 カミールは巨人に接敵すると声を張り上げ注意を引く。逃げる兵士を棍棒で潰した巨人は次の標的をカミールに見定め、土を蹴り上げて走ってきた。


「体はでかくても脳みそは足りてないようだな?」


 踏み潰さんと向かってくる大木のような足を無駄のないステップで避け、体全体を使い左足の腱を斬りつける。

「グギャ!」


 大きな悲鳴が戦場に響く。巨人はよろめき片膝を付くが、その瞳は一層怒りがにじみ出ていた。カミールは顔に浴びた返り血を拭うと、剣を構え突撃していく。


「マルクス!」

「はい!」


 すきを見て回り込んでいたマルクスは巨人の脇腹にパイクを突き刺す。棍棒が振り下ろされるが、マルクスは間一髪で避け彼がいた場所に大きな穴が開く。


「こっちの足も!」


 足元に潜り込んだカミールは右足の腱にも深い斬撃を見舞う。巨人はついに立つことができなくなった。片手で体を支え、もう一方の手でカミールを叩き潰そうとするが、背丈の優位を失った巨人などもはや彼の敵ではない。巨人の手に深々とロングソードを突き刺し、怯んだ隙に近くの兵士から槍を受け取る。


「これで終わりだ」


 カミールは巨人の胸に槍を突き刺す。目を見開いた巨人は悶ていたが、やがてピクリとも動かなくなった。


「巨人を倒したぞ!」

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