ある日の小学校にて
【日付】☆月☆日☆曜日 【天気】曇りのち晴れ
今日は、私のクラスでキングオブハイパースーパーウルトラキングオブアルティメットデザートことプリンタルトをめぐるジャンケン大会が行われました。
血も汗も流れない平和な戦いの最中に描かれる人間ドラマ。
少年少女たちに問われる友情、愛情。
そのことを今日の日記につづりたいと思います。
「さーいしょーはグー!ジャンケン━━━」
本日もまた、クラスで開催されるジャンケン大会。
「「「━━━ポン!」」」
その優勝景品はなんと、給食で余ってしまったプリンタルトなのです。
「うわぁぁぁあ負けたー!!」
「ぼくも負けたー!!!」
「よっしゃ勝ったぁ!!」
「プリンタルトはわたしのもんだぁぁぁ!!!!」
年に一度しか出ないアルティメットキングオブデザートたるプリンタルトをめぐるこの熱き戦いも、いよいよ終わりにさしかかります。
三十数名のクラスメイトが見守る中、決勝にいどむはこの二人。
いつも成績トップのハルヤくんと、第二小のガキ大将女ことヒカリちゃんです。
「おぉー!バカと天才のイッキ打ちだー!!」
「これはどっちが勝つんだ...!?」
ざわざわと盛り上がるギャラリーを背に、汗ばんでグーに力を込めるハルヤくん。
対してよゆうの表情をうかべるヒカリちゃん。
「ふっふっふ...ギャラリーも言っているが、天才たるこのわたしにキサマごときが勝てると思ってるのかなぁ?ハ・ル・ヤ・く・ん!」
「いや逆だろヒカリ...バンネン成績最下位が何言ってんだ!」
「ふんっ!なーにがせーせきよ!学校ごときじゃわたしの才能なんざ計れやしないっての!!学校にワンワン吠えてるイヌなんざにプリンタルトを渡せるかっての!!」
「だれがイヌだ!!オレはなぁ...カゼで寝込んでるヨッシーにたくされたんだ!『おれのプリンタルトを...たのんだぞ...ハルヤ...!!』ってな!お前なんかに負けてられねぇんだよ!!」
このまま二人を放っておいたら、プリンタルトどころかケンカが始まってしまいます。
見かねた先生は、二人を急かしました。
「おらー!早くジャンケンしないと先生がプリンタルトをもらっちゃうぞ!」
「「それはダメ!!!!」」
「お、おう...二人してそんな否定しなくても...イイジャナイカ...」
打たれ弱いのが玉にキズな、我らが先生なのでした。
「いいかハルヤ...わたしはグーを出してお前に勝つ...!!」
\おおおおおー!!!?/
と、わき上がるギャラリーたち。
「はっ!アホが。ヒカリがグーを出すならオレはパーを出して勝てばいいだけじゃないか!」
\おおおおおー!!!!!/
再び声を上げるギャラリーたち。
このやり取りはたまに見るけども、面白いよなぁ。
結局のところジャンケンなんて運なんだろうけど、なんでだろう━━
「まっ、先生もあー言ってたことだし、そろそろ始めようやハルヤ...!!」
「じょーとうだ、ヒカリなんざにぜってぇ負けねぇ!」
「「さーいしょーはグー!ジャーンケーン...」」
「ポン!」
「ポンっ!」
ギャラリーたちの中にしずかな空気がながれました。
━━あぁ、そうか。
勝負前のアレがあるとジャンケンが面白くなる理由がわかった。
ただ運が問われるゲームだったものに少しだけ、性格がカラんでくるからだ。
みんなが息を止めて見つめた先には、ハルヤくんが出したパーと、ヒカリちゃんが出したチョキがありました。
「やったぁぁあ!!勝ったぁぁあ!!!」
ヒカリちゃんはとっさにプリンタルトを取ってガッツポーズをします。
今までに見たことないくらいにヒカリちゃんはうれしそうでした。
流石はハイパーウルトラアルティメットキングオブ給食のデザートです。
「おぉおお!!あのヒカリが勝ったぞー!!」
「すごーい!ヒカリちゃんおめでとー!!」
「ハルヤドンマイ!!」
「ハルヤ、ヨッシーにあやまれー!!!」
それぞれが好き勝手に、二人へ声を投げます。
そして、その声を書き消したのは、負けた本人であるハルヤ君でした。
「ちょっっっと待てぇい!!!」
「あん??」
ハルヤ君の声に、ヒカリちゃんはふりむきます。
「今...ヒカリ後出ししたろ...!!」
「はぁー?負け犬の遠ぼえもはなはだしいわ!後出しなんてしてないし!!」
「いぃや!!ヒカリはちょっとだけオレより後に出した!!!」
二人の間でまたケンカが始まります。
あれだけ盛り上がっていたギャラリーも
「あーあーまたいつものが始まった...」
「毎日ケンカしてよくあきないよなぁ~」
と、それぞれの作業にもどってしまいました。
「コラーお前たちその辺にしときなさい」
先生が注意しますが、二人は聞く耳を持ちません。
「後出ししてた!!ヒカリの反則負けだ!プリンタルトを返せ!!」
「はぁぁ!?イヤに決まってんだろ!あ、後出しなんてしてないし!!」
「いいから返せぇ!!!」
ハルヤくんはヒカリちゃんの持つプリンタルトに手をのばしました。
「や、やめろさわんな!!!!」
ズドンッ!!
ヒカリちゃんに突き飛ばされてしまったハルヤくんは、床に背中を打ち付けるようにして、たおれてしまいました。
「いって.....」
背中を痛そうにさすりながら立ち上がるハルヤくんを見て、ヒカリちゃんは少しアタフタしています。
「二人ともいい加減にしなさい!」
そこで先生が二人にかけ寄ります。
「ハルヤくんも悪かったけど、突き飛ばしちゃダメでしょヒカリちゃん!あやまりなさい!」
「やっヤダ!だってハルヤが...!!」
先生はヒカリちゃんの目を見てしかりましたが、ヒカリちゃんにあやまるつもりは無いようでした。
「だってじゃありません!」
ハルヤくんはといえば、先ほどから何も言わず、ヒカリちゃんのことをにらみつけるばかりです。
「な、なんだよハルヤ!痛かったんならやり返してみろよ!!」
そんなハルヤくんのことを、ヒカリちゃんはチョウハツします。
「━━ねぇよ...」
「聞こえねぇよ!やり返してみろよホラ!!」
「ヒカリちゃんもういいかげんに...!!」
先生がいよいよ本気で怒りそうになったその時。
ハルヤくんはクラス中にヒビくほどの大きな声で言いました。
「デザートなんかよりお前が傷つくのがイヤだからやり返さねぇっつってんだよ!!!」
ざわついていた教室は一瞬のうちにシーンとしずかになりました。
ヒカリちゃんも、怒っていた先生も、一度は二人に関心を無くしたギャラリーたちさえも、目を丸くしてハルヤくんを見つめます。
「え?どうしたんだよ、みんな、ヒカリ?」
なんか変なこと言ったか?と、ハルヤくんはキョロキョロしだしました。
「う、うわぁぁぁあハルヤのバカクソザコゴミマヌケバカぁぁぁぁ!!!!」
顔を真っ赤にして泣き出だしたヒカリちゃんは、猛スピードで教室から出ていってしまいました。
「は!?なんでヒカリが泣いて...って待てよ!おい!ヒカリ!!
はぁ、あいつワケわかんねぇ...」
ハルヤくんはポリポリと頭をかきます。
クラスの女子たちは、顔を寄せ合いニヤニヤヒソヒソ女子会議。
「ヤバかったねあれ...!」
「ねー!あれヤバくない!?」
「絶対あれはそうだよね...!!」
等といった声が聞こえてきます。
クラスの男子たちは、ハルヤくんに近づいてなぐさめたり、肩をつつきあったりしてました。
ハルヤくんは『やめろよ!なんだお前ら!ワケわかんねぇよ!先生も助けろよ!!』
と、悲痛な叫び声を上げましたが先生までもが肩のつつき合いに参加するしまつでした。
「...ふぅ。」
一息ついて、私は立ち上がりました。
ヒカリちゃんのところに行こうと思ったからです。
☆☆☆☆☆
屋上へのトビラの手前にある階段で、ヒザをかかえて座り、顔をうずめるようにして泣いているヒカリちゃんを見つけました。
その手にはちゃんと、あのプリンタルトがにぎられています。
「ヒカリちゃん、やっぱりここにいたんだ。」
そう。彼女は何かあると、いつもここに来るのです。
ヒカリちゃんは顔をあげて一度私を見た後に、また顔をうずめてしまいました。
「ヒカリちゃん大丈夫...?」
私は彼女の横にすわり、気がすむまで背中をさすってあげます。
2分くらいそうしたあと、ようやくヒカリちゃんが顔を上げました。
「...ありがとう」
「いや、いいよ。もう大丈夫そう?」
わたしは手を止めて、彼女の目を見つめます。
「うん。あっでもまだナデナデしてほしい」
「...はいはい」
わたしは再び手を動かします。
すると、ヒカリちゃんはゆっくりと自分の気持ちを話してくれました。
「わたしさ、アイツに勝たなくちゃいけないんだ」
「ハルヤくんに勝つ?それってどういう...」
「アイツさ、ホントはバカなクセにちょっっぴり勉強ができるからって、マジメなふりしてるんだよ」
バカなのに勉強ができるっておかしくない?と思いましたが、口には出しませんでした。
「へぇ、そうなんだ」
こういう時はよけいなことを言わず、ヒカリちゃんの話を聞いてあげるのが一番なのです。
「なのに『ママのためパパのため~』とか言ってムリして勉強したりよく分からない本とか読んでるんだ。ほんとは遊びたいのにさ」
「うんうん」
「シショーだって、ハルヤにはもっと自分のしたいことしてほしいって言ってたのにさ」
「そっかそっか」
シショーって誰のことだろう。
とは、もちろん口には出しません。
「だから、わたしがアイツをコテンパンに打ち負かしてやって、『お前は間違ってる!!!』って言ってやんなきゃならないんだ。なのに...」
ヒカリちゃんの話はよく分かっていないけど、その言葉には彼女の強い意志を感じました。
「でもアイツ、ムダに器用だからなんでもできちゃうし、わたし勝てないし、くやしいし、バカだからいきなりあんなこと言い出すし...!!」
あんなこと、っていうのは、やっぱりさっきみたいなことなのかな。
「バカだからアイツ自分でそういうこと言うクセに、わたしの気持ちなんてこれっぽっちも分かってないんだよ!?
そういうところバカだから無責任なんだ...ふざけんなバカ...」
「ヒカリちゃん」
「ん?なに」
ヒカリちゃんはひとしきり言いたいことを言い終えたみたいなので、一つ気になっていたことを聞いてみることにしました。
「ヒカリちゃんは、後出しをしたの?」
「うん。した」
ヒカリちゃんはあっさりと自分の反則を認めました。
「見てたみんなは分からなかっただろうけど、わたし天才だからすごいギリギリの後出しができるの。あっこれみんなにはナイショね?」
私はヒカリちゃんがすぐ調子に乗るところがとても大好きです。
「うん。ナイショにするよ」
「でも、ハルヤにだけはバレてたみたい。今まで気づかれたことないのに...」
「それでも悪いことをしちゃったなら、ちゃんとハルヤくんにあやまらなくちゃ。ちょっとそのプリンタルト貸して?」
「え、いいけど、食べないでよ?」
そんなことしないよと、ヒカリちゃんからプリンタルトを受けとります。
「えい」
「な、なにを!!」
それを両手でつかみ、小袋の中に入ったそれを、キレイに真っ二つにしました。
少し失敗するのが怖かったけれど、なんとかうまくできてホッと一息。
「はい、ヒカリちゃん。この半分をハルヤくんにわたして、ごめんなさいしよ?私もいっしょにいてあげるからさ」
ヒカリちゃんは半分に割れてしまったハイパーキングオブアルティメットオブ給食のデザートを悲しそうに見つめて応えました。
「うん...わかった...」
「よし、じゃあここで待ってて。ハルヤくん呼んでくるから」
「えっ...!ちょっ待っ!!」
ヒカリちゃんの声をスルーして、わたしはハルヤくんを呼びに階段を下りました。
☆☆☆☆☆
「えっと...あのさ...」
少し顔を赤らめて、彼女らしくもなくモジモジしているヒカリちゃん。
そんなヒカリちゃんを、ちょっぴり怖い顔でハルヤくんがにらみつけます。
「さっきはさ...ハルヤの言うとおり後出ししちゃってたし...しかも突き倒しちゃったりしてゴメン!!これ、あげるから...」
彼女はペコリと頭を下げて、半分になったプリンタルトをハルヤくんに差し出します。
その姿を見てもハルヤくんは表情一つ変えずに、ヒカリちゃんをにらみつけるままでした。
「ハルヤくん、ヒカリちゃんもこう言ってることだし...」
私がヒカリちゃんをフォローしようとすると、ハルヤくんの口からとんでもない言葉が出てきました。
「いらね。オレ、あんまりこういう甘ったるいの好きじゃないし」
「えっ」
「はっ??」
私もヒカリちゃんも、目を丸くしてハルヤくんを見つめると、彼はこう続けました。
「いや、ヨッシーのおみまいにプリンタルト持っていってやろうかなーって思ってたからさ。袋から出しちまったんなら、お前が食えよ。」
あぁ、そういうことか。と私はナットクしました。
「はっ...?おま、お前マジで....」
しかし、ヒカリちゃんはナットクできなかったみたいです。
差し出したプリンタルトを持つ手がプルプルふるえています。
「クソバカアホゴキブリハルヤなんてシんでしまええぇえええええええぇえうわぁぁぁぁぁあんん!!!!!」
「はっ!?おい!ヒカリちょっ!これ!!!」
ヒカリちゃんはまた泣き出して、半分のプリンタルトを無理やりハルヤくんの手に押し込め、どこかへ走っていってしまいました。
その場に取り残されてしまった私とハルヤくんは、思わず見つめ合います。
「なぁ、お前。これいるか...?」
彼は、ハーフサイズスーパーキングオブアルティメットハイパーデリシャスデザートを差し出します。
すぐに私はそれを拒否しました。
「いや、それはハルヤくんが食べなきゃダメだよ。ヒカリちゃんはキミに渡したんだから」
「はぁ...なんだそりゃ...あぁそういえば、アイツをなぐさめてくれてありがとな。」
「いや、全然。ともだちだからね」
そっか。と彼は一度こちらを見た後、しぶい顔をして、数秒間手に持ったプリンタルトを見つめてから、それを一口でパクりと食べてしまいました。
「うぇえ...!!まっず...!」
今にも吐き出しそうになりながら、彼がそれをしっかり飲み込んだのを見て、満足した私はヒカリちゃんの後を追うことにしました。
あぁ、今日のお昼休みは、ヒカリちゃんの話を聞いているうちに終わっちゃうだろうなぁ。
そんなことを考えながら、私は廊下をスキップして進んで行くのでした。
短編小説「ある日の小学校にて」ご読了いただき、まことにありがとうございます!!!
あらすじにも書きましたが、この話は小説「すっごいキレイな、ヒューどっかーん!」の番外編となっておりますので、ぜひそちらも読んでいただければと思います。
改めて、この物語を読んでくれてありがとうございました!m(__)m