序章:運命の日、その前日夜・・・
あらすじには、ああ書かせていただきましたが、今回は魔術高校に入学する前の前日譚です。どうか、プロローグのプロローグとして、楽しんでください。そして、今回の作品が初めての小説なので、生温かい目で見てくれれば幸いです。
「おい、大丈夫か!」
誰かが俺に声をかけている。
「おい、大丈夫か!意識はあるか?」
また、俺に声をかけている。どうやら、俺はあの事故で意識を失ったようだ。それで、見かけた人が俺を心配して声をかけたのだろう。
「誰か来てくれ!子供が倒れているんだ!それも中学生。誰か頼む!この子を助ける手助けをしてくれ!」
そして、誰かが俺を助けようとしている。でも、それは無駄だ。今、俺の意識は遠退いている。呼吸だっておそらくない。だから、俺を助けよう、たって無駄だ。
「なら、私は救急車を呼んできます。貴方はすぐに人工呼吸をお願いします。」
「僕はこの近くにAEDがあるか、探してきます。」
次々と人が集まってくる。それも、俺のために・・・何でここまで本気になって助けてくれるのか・・・俺には、分からない・・・もう意識を失いそうだ・・・そもそも、あの事故で助かる人なんて、いるはずないのに・・・
・・・・
「おい、リクヤ。もう明日の支度はできているのか?そろそろ寝るぞ!おーーい、リクヤー!返事しろーーー!!」
とある薄暗い部屋、雰囲気は画家の工房か科学者の研究室を想像させるような部屋で、一人の女性がリクヤという少年を呼んでいる。その女性は金髪で髪が長く、その瞳は冷酷さをかもし出している。そして、リクヤという少年は、本名を火野村リクヤという。彼は彼女の知り合いで、明日から通う高校が実家から遠いため、彼女の家に住み込んでいるらしい。
「ったくぅ、るっせーなぁテレサ。もうとっくのとうに支度はできているぞ。あんたと違って!だいたい、いっつもいっつも学会に出かけるとき、あれ無い、これ無い、て慌ててんのはどこのどいつだ!」
リクヤ本人が、階段から降りてくるなりこう返事をしてきた。身長は平均的で、黒髪で、彼の顔つきには幼かっこよさを感じさせる。どうやら、明日は何か大事な日らしい。
「そ、それは言いがかりだぞ、リクヤ!大体なあ、わ、私の場合はあれだ!いっつも物が[歪移動]しているんだ!私が無くしたわけではない!」
と、テレサと呼ばれた女性はこう反論した。しかし、その反論は、どこか言い訳くさかった。
「いいえ、明らかに貴女がなくしているのです。正確には、置いた場所をきれいさっぱり忘れているですけど。」
隣の部屋から別の女性が現れた。黒髪のストレートで、どこか大人びた感じの女性だ。(スタイルは、モデル並みにいい。)
「エンリチェッタ!?し、しかしだなあ、私はなんやかんや無くし物は見つけてるじゃないか!見つかればオールオッケーだ!」
エンリチェッタと呼ばれた女性からの指摘に対し、テレサはこのように反論した。
(ようは無くしてんじゃねーか・・・・)
と呆れながらも、リクヤはこの風景を楽しそうに、そしてどこか懐かしく感じていた。しかし、彼はどうもそれどころではないようだ。
「ところで、学校の方は大丈夫なのか?特に俺に関して。よく俺を高校に入学させれたなあ。試験も受けないで、どういう手を使ったんだ?」
リクヤはこんなことを聞いた。本来、高校という施設は、必ず入学試験を通らなければならない。しかし、どうやらリクヤは入学試験を受けずに高校に入学したらしい。面接か、あるいは小論文か。それにしてもれっきとした入学試験だが、
「ああ。それなら問題ない。私の権力を使って、お前を裏口入学させた。」
テレサの口から明かされた驚愕の事実に、リクヤは勢いよく、
「そりゃ犯罪だ!何でそのことを黙ってたんだよ、おい!!!!!!!というか、よく裏口入学できたな、俺!」
と、ツッコミを返した。(テレサが行ったのは、職権乱用という、れっきとした犯罪である。)
「使える物はトコトン使う。それが魔術師のやり方だぞ。お前ももう少しこのことに慣れろ!技術を磨いても、立派な魔術師にはなれんぞ。」
「そっちの業界は日常的な常識を学んでください!無法集団かよ、テメーらは!」
「失礼な!私は無法者ではない!これでも人の命は取ってないぞ!それなら問題ないだろ!犯罪にはならないだろ!」
「いや、なるわ!その理屈なら、窃盗は犯罪になりません!」
「そ、そうなのか・・・・でも、起こったことは仕方あるまい!それで通してくれ、リクヤ!」
「あ、ああ。そういうことにしてやるよ。」
長かった犯罪に対する論争を終えて、リクヤは深くため息をつく。この光景は、今日が初めてというわけではない。いつものこととはいえ、リクヤは未だにこの論争の日々に慣れていない。こうして論争が終わると、リクヤはソファーによしかかる。そんなリクヤに、
「ところでリクヤ君。明日は私と学校に行ってください。一応、私もロムルス地区の高校の教師に就任するので。」
エンリチェッタが穏やかに話しかけてくる。明日、初めて高校に行くリクヤのことが心配なのか、教師になりたてのエンリチェッタが生徒の登校に付き合おうとしている。実に優しさに、そしてやる気に溢れた心掛けだ。見た目もダントツに美しいので、こう言われると普通なら快くお願いするところだが、
「そりゃどーも。だけどよう、姉貴。アンタは俺よりも早く学校に行かねーとヤバいんじゃねーのか?もし姉貴が職員会議に間に合わなかったら、俺まで怒られるのですよ。俺のことなら心配いらねーから、自分の時間を心配しやがれ。」
と、リクヤはこの誘いを断った。普通ならあり得ないが、言っていることはかなり正論なのである。(実のところ、教師の朝は生徒よりも早い。朝早くから職員会議だの、生徒の登校確認のための待機、さらには授業の準備と、いろいろ大変なのだ。)こんなことを言われたら流石のエンリチェッタも退かざるを得ない。
「そ、そこまで言うのなら分かりました。ですが、くれぐれも気をつけてくださいよ、リクヤ君。マエスティング家は特に優秀な魔術師が多いんです。命を狙われる可能性だってあるのですよ。」
「はいはい、分かってるって。だけど、もしそうなったら、アンタの家、カウレスティス側の人間が黙っていねーよ!なんせ、うちの研究室の主はテレスティーヌ・M・Kだぜ。テレサという存在によって、どっちの人間も友達以上の関係だ。どっちかを敵に回してみろ。もう片方も敵に回すぞ。」
エンリチェッタの心配を、リクヤは一笑に付した。しかし、彼の言葉には、どこか確信があった。
この夜、運命の扉が開かれる。少年、火野村リクヤがたどり着くのは、天国か、それとも、地獄か・・・・・
どうでしたか?今回の物語は楽しかったでしょうか?しかし、これはこの作品の、本当にさわりの部分です。次回はちゃんと魔術のことにも触れたいと思うので、期待して待っててください。