絶対に嫌いになったりはしないから
たぶん、一人では来られない感じのお店だった。値段もそうなんだけど、客層がちょっと、あたしには合わない。
お店はカントリー家具の雑誌に出てくる部屋みたいで、お客さんも、まあ、まあ、そんな感じだ。スイーツも手作りアイスとかしかないのかな、と思ったのだけれど、そんなことはなくて、ちゃんとパフェとかワッフルとかあった。やや地味な感じではあるけれど。
浅葱 さんは仕事ではびしっとしたスーツを着てるのに、オフでは麻とか綿とかほんわかした感じの服を、いつも身に着けている。
今日の服は、水色チェックのワンピースに、ざっくり編んだベージュのカーディガンだ。黒いリボンを巻いた麦藁帽子がよく似合っていて、雑誌のモデルみたいに決まってた。
あたしは黒のチュニックを細いボーダーのインナーに合わせたんだけど、ちょっと的をはずして見習い魔女みたいになってしまった。ま、あたしはいつもこんな感じだ。なんていうか……物語の主人公じゃない感じ。
「もう、落ち着いた?」
「ごめんね初花ちゃん。驚いたでしょう? 恥ずかしいわ」
「時々、あんな感じになるよね」
「病気みたいな物よ。子供の頃からなの」
「病気?」
「うん……」
浅葱 さんは話しにくそうに口ごもった。でも、誰かに話して心を軽くしたいのなら、たぶん、それはあたしがいい。あたしは浅葱さんのことが大好きだし、なにを聞いても、絶対に嫌いになったりはしないから。
「話してよ、あたし、平気だよ」
「自分でもわかってるのよ。そんなのただの思い過ごしだって」
「思い過ごしって?」
「……なにかよくないことがあると、誰かわたしをすごく憎んでいる人がいて、その人がなにかよくないことをしているんじゃないかと思う時があるの」
「浅葱さんを憎む人? なにか心当たりがあるの?」
「ないから……病気なのよ。 自分だけならまだ我慢できるけど、その人が、他の誰か、わたしの大切な人に何かするかもしれないと思うと、たまらなく怖くなるの」
「もしかして、いま、あたしが誰かに酷いことをされているかもしれないと思ってたの? たとえば……乱暴とか?」
浅葱さんは肩をすくめて耳まで赤くなっていた。消え入りそうな声で下を向いたまま呟く。
「……ごめんなさい」
あたしはなんだかおかしくなって笑った。浅葱さんの想像では、あたし、どんなことされてたんだろ?
「心配してくれるのはすごくうれしいけど、あたしはやられっぱなしってタイプじゃないし、なにかあったら、いちばんに浅葱さんへ相談するよ」
パフェがやって来て、あたし達は言葉を止めた。二人だけのないしょ話を、知らない店員さんに聞かれたくはなかったし。
少しだけほっぺを叩いて、浅葱さんは自分に気合をいれていた。
誰だって心が弱くなったら、変なことを考える。浅葱さんはパパとの結婚をひかえて、すこしナーバスになっているのかもしれない。




